COVID-19と消えた小説について
COVID-19と消えた小説について

コロナ禍を予期した消えた小説

砂原良徳、AOKI takamasaによるトークセッションをレポート

テキスト:
Time Out Tokyo Editors
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写真:Yuki Nakamura

先鋭的エレクトロニックミュージック アーティストの砂原良徳とAOKI takamasaによるトークセッション『COVID-19と消えた小説について』が2020年9月20日、恵比寿のタイムアウト カフェ&ダイナーで開催された。

トークショーの軸になった「消えた小説」とは、SARS(重症急性呼吸器症候群)が流行した2002年、「これが日本に来たら大変だ」と感じた砂原が情報収集をする中、インターネット上で発見したオーストリアの作家が書いたとされる作品で、コロナ禍を予期したかのような内容だった。

現在では消えてしまったのだが、その後も気になり続けていた砂原が周囲に尋ねたところ、唯一知っていたのがAOKIだった。今回、この小説をテーマに二人のトークが繰り広げられた。

「消えた小説」のあらすじ、現状との類似性
砂原良徳、AOKI takamasa

「消えた小説」のあらすじ、現状との類似性

物語を手短に説明すると、舞台は地球とよく似たとある星。時代は1990年代後半のような世界が描かれている。秘密裏に世界を操る支配者たちが人類を管理するための計画を実行に移すのだが、その手段がパンデミックだった。支配者たちによって仕組まれた検査により人類はふるいにかけられ、陽性者は収容所へと送られることになる。

パンデミックにより大勢の人が命を落とし続けている状況を受け、デジタル墓石が開発される。ここには助かる見込みがない人の脳の情報が格納され、デジタル空間で生き続けることを可能とするもの。墓地に並べられた墓石群は互いにコミュニケーションを取り始め、一つの大きなサイバー空間が出現する。

メディアもこれを「かっこいいトレンド」として紹介し、同様の選択をする人が激増し、結果的に支配者層を除いたほとんどの人間がデジタル空間へと移行してしまうというものだ。

政府が掲げる「ムーンショット計画」

第1部では、この小説と現実との類似性についてトークが行われた。

「今、現実の世界で起こっているオンラインのミーティングやライブもつきつめた結果、このデジタル空間になってくるのではないか」と砂原は言う。 そこで政府が設定しているという「ムーンショット計画」に話が及ぶ。

この計画で掲げられた目標は六つあり、AIや量子コンピューターといった最新のテクノロジーを活用し、さまざまな社会的課題の解決に貢献しようというもので、2050年までの達成を目指しているものだ。

これを押し進めた世界が、小説の中でたどり着いたデジタル空間に近いもので、肉体を失い、脳の記憶がデータベース化したような世界は、死と紙一重なのではないかと砂原は指摘。

それでは、小説はどのような結末を迎えるのか。支配者層のトップにいる人物が孫に誕生日プレゼントを手渡すのだが、これが全てのデジタル化された人間を収める巨大サーバーをオフにするスイッチだったのだ。孫はスイッチを押し、デジタル空間は消滅する。そして生き残った一握りの支配者たちから、また人口が増え始め、物語は繰り返される。

砂原はテクノロジーの導入について「慎重でいたい」と話す。一つ一つを検証せずに、流れに飲み込まれていくことに対する疑問があるからだ。これに対しAOKIは「用途による」とし、人類の繁栄のために開発されるのであればいいが、支配や恐怖を動機とするテクノロジーにはネガティブな結果が待ち受けているのではないかと語った。 

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パンデミック発生時から抱いていた違和感
砂原良徳、AOKI takamasa

パンデミック発生時から抱いていた違和感

第2部では今、実際にコロナ禍で起きていることに対する両氏の見解が語られた。まず、「公表されているデータが過剰」であることが挙げられ、感染者数、重傷者数、死者数などが全て累計であることに砂原は疑問の意を呈し、AOKIは「恐怖をあおっている」とし、それによって人は萎縮し、誘導されやすい状態に陥っていると指摘した。 

そのほかにも、メディアの報道の仕方やアメリカと中国の関係悪化など政治的な問題と絡めて、世界的パンデミックの「計画性」を疑うようになったことなどが語られた。

なお、2部で語られたディープな見解は2020年10月30日(金)に行われる特別配信を確認してほしい。詳細はこちら

前提を疑い、自分で考えることの大切さ
砂原良徳、AOKI takamasa

前提を疑い、自分で考えることの大切さ

砂原は物事を理解する上で「前提」がとても重要だと言う。例えば、ある曲を聴き、「こんな曲は聴いたことがない」と感じた時、その前提はこれまで聴いてきた音楽なのだ。そして、このコロナ禍において「ニューノーマル」や「新しい生活様式」といった言葉が流布されていく中で、いつの間にか前提を刷り込まれているのかもしれない。 

これに対してAOKIは、アーティストとして「前提」に捉われないフレッシュな感性を維持するために実践しているという習慣を明かす。毎朝起きた時「初めて地球にきた」と思うようにするというもので、フラットな視点で見ることが可能となり、あらゆるものが不自然に見えてきて、「なんで、どうして」といった疑問が湧いてくるのだという。砂原はその感覚が子どもの感覚に近いとし、「表現において必要な感覚」とうなずいた。

AOKIは人間が物事を理解する上での前提となる「リミット」も、規定されてしまっているのではないか?と考える。例えば、今最も早い存在は光だとされているが、宇宙の広大さを考えた時、光はあまりに遅過ぎるのだ。人間がまだ知覚できていないだけで、実は光よりも早い存在があるのかもしれない。放射能も一昔前まではその存在が知られていなかった。 

また砂原は、「陰謀論など存在しない」という考え方もこれら「前提」や「リミット」に捉われているのではないかと指摘する。ケネディ暗殺についても触れ、この時、真実への信ぴょう性をなくすべく流布された言葉が「陰謀」であり、己の知性への自負心が強いインテリ層ほど陰謀という言葉を嫌う傾向があり、そういった心理が利用されているとした。 

「人々が世界を認識する時も、国境に捉われすぎている。国は世の中を形作るレイヤーの一つに過ぎず、現実は企業や宗教といったさまざまなレイヤーが折り重なったもので、その複雑性をまず意識しないと真実は浮かび上がってこない」と砂原は訴えた。

最後に両者は、自分たちの主張は「こうした方がいい」といった警告ではなく、一人一人がテレビなどのメディアに流されることなく、「前提」を疑い、自分で考えることの大切さを伝えたかったと締めくくった。

配信の詳細はこちら

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2020年9月20日にタイムアウトカフェ&ダイナーで人数限定で開催された、砂原良徳、AOKI takamasaのトークセッションが配信決定。2時間超えのボリュームある内容となる。

出演:砂原良徳、AOKI takamasa

日時:2020年10月30日(金)21時から(チケットは10月16日から発売開始、詳細はこちら

料金:前売り1,000円、当日1,500円

問い合わせ先:Time Out Cafe & Diner 03-5464-0800 

登壇者プロフィール

砂原良徳

砂原良徳(すなはら・よしのり)

1969年9月13日、北海道札幌市生まれ。電気グルーヴに1991年に加入。それぞれが強烈なインパクトを持つメンバーの中で、サウンドクリエイターとして最もクールなたたずまいで人気を集めたが、1999年に脱退。オリエンタルなサウンドが海外で高く評価され、DJ、プロデューサーとして幅広く活躍している。

AOKI takamasa (MONZA)

AOKI takamasa

大阪府出身。2001年初頭に自身にとってのファーストアルバム『SILICOM』をリリースして以来、ライブや DJ、楽曲制作を中心に国際的な活動を続ける。2004年から2011年にはヨーロッパに拠点を置き、2011年に帰国した。国内外のアーティストのリミックスやプロデュース、ミキシングなども行っている。

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