ニュース / 子ども

意識レベルで変える、次世代を担う子どもたちの理想の子育て

意識レベルで変える、次世代を担う子どもたちの理想の子育て

マイノリティたちの存在や福祉そのものに対する「意識のバリア」を、アイデアやデザイン、テクノロジーで乗り越えるという目的で、2016年11月に『2020年、渋谷。超福祉の日常を体験しよう展』が開催された。 タイムアウト東京がディレクションしたシンポジウムでは、「Beyond Diversity」をテーマに、移民や、テクノロジーで拡張する身体、LGBT、ツーリズムなど様々な問題をディスカッションした。

最終回となるセッションでは、パラリンピアンの土田和歌子と国際メディアコンサルタントの七尾藍佳が登壇。モデレーターをタイムアウト東京のコンテンツディレクターの東谷彰子が務め、「Beyond Nurturing」をテーマに、様々なライフスタイルに対応できるダイバーシティの子育てについて語った。2時間に及ぶトークは多岐にわたり白熱したが、ここではほんの一部を紹介しよう。

土田は、日本人史上初である夏と冬のパラリンピック金メダリストで、リオパラリンピックでは4位。海外メジャーマラソンレースを中心に活動するパラリンピアンだ。高校2年時、交通事故に遭い、車椅子生活となった。そして、現在も車椅子アスリートとして活躍する一方で、1児の母でもある。脊髄損傷者でありながら自然分娩を希望し、リスクが高いと断られ続けたものの、協力してくれる医師との出会いがあり、無事出産した。

家族で協力して、子育て、競技、仕事の「連立」に日々取り組む土田が直面している子育ての厳しさは、車椅子生活ならではの事柄が多い。子どもが保育園に通う際、車椅子で子どもの送り迎えをする保護者という前例がなく、園から衛生面を懸念され、車椅子で室内に入ることを禁じられた。そのため土田は、園内に自前の室内用車椅子を設置することを提案するも、その提案が受け入れられるのに、1〜2年かかったという。園と話し合っている間、土田は、床にずり這いになって子どもの送り迎えをした。しかしこの保育園の例は、良心的なほうであると土田は言う。銭湯などの施設にいたっては、車椅子用のスロープが設置されているにもかかわらず、車椅子で室内に入ることができないという事例もあった。

 

土田和歌子(左)と七尾藍佳(右)

 

アメリカ合衆国生まれの七尾は、ラジオパーソナリティや『NEWS ZERO』のキャスターなどを経て、BloombergTV東京支局特派員も務めた。現在は、国際メディアコンサルタントとして活躍しつつ、子育てに取り組んでいる。常に自らが異質な存在とみなされる場所で活動し、国際的な視点を持つ七尾が語ったのは、日本の福祉に対する意識の低さだ。子育てに関する例だと、外資の企業は、ワーキングマザーとともにワーキングファーザーもたくさんいて、夫婦で分担して育児ができるような給料交渉のシステムがしっかりしている。だから、大幅な育児休暇を取らずとも、働きながらスムーズに子育てすることができる。また、スウェーデンでは子どもがいる男性の約90%が育児休暇を取得し、妻と協力して育児に取り組むが、日本の男性の取得率は約2%だという。

このような、海外と日本の福祉に対する意識の差には、日本生来の真面目さも影響しているかもしれない。土田が語るのは、「手伝うのが当たり前」という海外の楽観的な考え方だ。日本では、「バリアフリーな場所ではないため、車椅子は無理」と拒否されたりもするが、海外ではたとえバリアフリーでなくとも、すべての場所がウェルカムだという。階段で通りがかりの人や施設の者が集まって車椅子を手伝うのは当たり前のことで、段差は板1枚敷いてとりあえず通れればOKという考えだ。これは頭を柔らかくして、想像力を持てば誰にでも理解できることだが、日本で暮らす人はその真面目さからか、トラブルを想定して身構えてしまうことが多い。

また、海外では、出産に関しても楽天さが見られる。外資系の企業では、出産前日まで働くことは珍しくないそうだ。七尾は、BloombergTVに勤めていた際、臨月に近い状態でニュースに出演していたら、日本にニュースが流れた際、「そんなにお腹が大きいのに働いて大丈夫なのか」と懸念の声があがったという。海外では出産直前でも働くのが当たり前。本人次第という考え方だ。日本では産休、育休を取得して休暇が長くなり、仕事の復帰率もなかなか上がらないが、海外では産休や育休を長い期間取得しなくても、個々に合わせて働きながら出産や育児に取り組めるシステムが企業に備わっているようだ。

 

『超福祉展』の様子

 

福祉に対する考え方を意識レベルで変えるには、子どもの教育が大切だと土田は言う。パラリンピアンとして活動していると、「車椅子ってあんなに動けるの?」と驚かれることも多いというが、障害のある人が特別視されない社会を目指すことは重要。意識レベルで、障害を1つの個性と捉え、理解し、壁を取り払うには、障害のある人が子どもにとって身近な存在になることが大切だ。 子どもの意識を変えるには、今大人の私たち一人一人が自らの意識を変える努力をして、あらゆる人が外出しやすい社会を作ることが必要なのかもしれない。 

土田和歌子(パラリンピアン/八千代工業所属)

高校2年時、友人とドライブ中に交通事故に遭い車いす生活に。日本初のアイススレッジスピードレーサー。1998年長野パラリンピック1500mで自己世界記録を更新し金メダル、1000mでも金メダルを獲得し2冠達成。1999年陸上競技に転向。2004年アテネパラリンピック5000mで金メダル、マラソンで銀メダルを獲得。日本人史上初の夏・冬パラリンピック金メダリスト。現在は海外メジャーマラソンレースを中心に活動。

七尾藍佳(国際メディア・コンサルタント/産業能率大学准教授)

『25ans』(ハースト婦人画報社)にてチャリティ団体を取材するコラムを連載中。元BloombergTV東京支局特派員、日本の経済・政治ニュースを世界の金融リーダーに向けて発信。国内メディアでは日本テレビ系列News Zeroでキャスターを務めた。現在、コンサルタントとして企業の危機管理や海外メディアに特化したメディア戦略の策定に携わる。ワシントンDC生まれ。1児の母。

 関連記事

同性間の子どもで、未来の家族はどう変わるのか

SFに技術が迫る。人間の可能性はどこまで広がるか

海外からのクリエイティブ移民のいる未来を考える

Advertising
Advertising