同性間の子どもで、未来の家族はどう変わるのか

テキスト:
Time Out Tokyo Editors
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障害者をはじめとするマイノリティや福祉そのものに対する「意識のバリア」を取り除くべく開催されていた『2020年、渋谷。超福祉の日常を体験しよう展』。タイムアウト東京がディレクションするシンポジウムでは、「Beyond Diversity」をテーマに科学やテクノロジーの進歩により拡張していく世界について、ダイバーシティの先にある未来を見据えてディスカッションされた。

第3回では「Beyond LGBT」をテーマに、アーティスト、デザイナーである長谷川愛と、LGBTコンサルタントの増原裕子が登壇。科学とテクノロジーの進歩によって、性のあり方やパートナーシップ、家族、そしてダイバーシティを標榜する社会全体にはどのように変化していくのかについて話された。

ここ数年で、日本ではLGBT(同性愛者のレズビアンやゲイ、両性愛者のバイセクシュアル、トランスジェンダーなどのセクシュアルマイノリティの総称)を取り巻く状況は変化している。行政や企業が動きだし、申請があった同性カップルに対し「パートナー」と認める「同性パートナーシップ制度」は昨年大きな話題となった。

登壇した増原裕子は、渋谷区パートナーシップ証明書取得者第1号でもあり、LGBTの人々が生きやすい社会を実現するために様々な活動をしている人物だ。増原は、同性カップルにはまだまだ厳しい現実があり、子どもを持つことのハードルは高いという。

たとえば、女性同士のカップルが子どもを産みたいと考えたとき、自身で人工授精を行う「シリンジ法」が用いられることが多い。シリンジ法は、精子提供者を探すことから始まる。しかし、精子提供者の家族やパートナーとのこともあるため、提供者を見つけるのは簡単なことではない。また、社会のなかに偏見や差別が明らかにある状態で、子どもを産むことの不安は大きく、仮に子どもを授かったとしても結婚できない今の法律では、未婚の母という扱いになり、そのサポートも十分ではない。

増原は、行政や企業が動きだし、LGBTの人々を取り巻く環境は大きく変わってきているが、現状はやっと一歩進んだばかりと話し、LGBTへの理解を広げ差別をなくしていくの家族のための法律の制定や、一人一人が本当はとても身近にいるLGBTの存在に慣れることが必要ではないのかと語った。

『(不)可能な子供、01:朝子とモリガの場合』

続いて、日常に問題提起を行う「スペキュラティブ・デザイン」という手法を使いアートを制作している長谷川愛が登壇。彼女は、可能性があるならば子どもを産む選択肢が豊富にあってもいいのではないかと話す。

長谷川は、日本に戻った際に、イギリスでは当たり前のように行われていた卵子凍結保存が、日本では数年の遅れでの認可であまり勧められていないことを知り、医療の倫理について一体誰がどのように決定をするのか疑問に感じたそうだ。また、実際にiPS細胞を使えば同性カップルによる妊娠出産も数年以内に実現すると言う科学者もいる。しかし、その技術を実用するかどうかを一部の人間が決めてしまう問題がある。

そこで、長谷川はレズビアンカップルの遺伝子を解析して2人の遺伝子を引き継ぐ子どもが生まれたらと仮定し、子どもの姿を映像化した作品『(不)可能な子供、01:朝子とモリガの場合』を制作したこの作品を、できるだけ多くの人に観てもらい、議論してほしかったという。そして、作品を発表すると賛否両論が繰り広げられた。技術を実際に使用するかどうかの判断は人それぞれ違う。解決策を見出すには、タブーと考えられていることや、偏見を枠組みから1度外して考え、未来の様々な可能性を見てロジカルに議論していくことが必要なのではないかと語った。

長谷川愛(アーティスト/デザイナー)

東京とロンドンを中心に世界中でアートとデザインの活動を行うアーティスト。「Expand the Future(未来を拡張する)」というコンセプトのもと、アートやデザインを用いて日常の当たり前に問題提起を行う。その手法は「スペキュラティブ・デザイン(Specurative Design)」と呼ばれ、未来の起こりうる姿を提示することで、社会に重要な問いを投げかけている。

増原裕子(LGBTコンサルタント)

株式会社トロワ・クルール代表取締役、LGBT研修講師。在学中にパリ第3大学(新ソルボンヌ)へ留学。在外公館(ジュネーブ)、フランス系会計事務所、教育系IT会社勤務を経て現職に。2013年、東京ディズニーシーで初の同性結婚式を挙げ国内外で話題となった。

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