SFに技術が迫る。人間の可能性はどこまで広がるか

テキスト:
Time Out Tokyo Editors
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障害者をはじめとするマイノリティや福祉そのものに対する「意識のバリア」を取り除くべく開催されている超福祉展』。会期中には、タイムアウト東京がディレクションするシンポジウムが開催される。各セッションにはタイムアウト東京代表取締役の伏谷博之がシンポジウムディレクター/モデレーターとして参加。「Beyond Diversity」をテーマに科学やテクノロジーの進歩により拡張していく世界について、ダイバーシティの先にある未来をディスカッションしていく。

「Beyond limits(拡張する身体)」をテーマに行われた第2回には、元オリンピアンで、現在はスポーツコメンテーターやタレントとして活躍する為末大、そしてクールジャパン関連委員会の委員を歴任し、風営法改正にも貢献したA.T. カーニー日本法人会長の梅澤高明が登壇した。パラリンピックによってお茶の間にも馴染みとなった最新のスポーツ義足。テクノロジーの進歩により、ツールは従来の補助という役割を超えて、人間の能力を機能拡張するものに進化してきている人間が機能拡張デバイスを手に入れた未来の社会とはどんな世界になるのか、ライフスタイルはどう変わるのかなど、テクノロジーが後押しする「スーパーヒューマン」の未来について考える。

この夏、世界中を沸かせた『リオデジャネイロオリンピック・パラリンピック』は、「拡張する身体」を語る上で欠かせないできごとだった。パラリンピックのパワーリフティングや陸上で、五輪選手を上回る記録が相次いだのだ。選手たちのずば抜けた身体能力を見て、人類の身体の可能性を感じた人もいれば、彼らを自分とは違う新人類と見た人もいただろう。人間の身体はどこまで進化するのか。その過程で技術はどのように関わってくるのか。議論は、梅澤が大ファンだというアニメシリーズ『攻殻機動隊』の話から始まった。

梅澤は同作のキーワードとして、「義体」と「電脳」を挙げ、人間の身体の拡張の先にあるだろう未来を予想する。物語には全身義体の主人公や、記憶のクラウド保存、脳のハッキングといった技術が描かれている。原作の漫画が1989年に描かれてから今日までの間に、人間はインターネット、パソコン、人工知能(AI)を発展させ、拡張現実(AR)、仮想現実(VR)を生み出し、物語の世界により近づいていっているようだ。梅澤はこのままいけば、寿命の大幅な伸長や、記憶の書き換えが可能な未来がすぐそこだと考える。そのうちのいくつかはすでにマウスを使用した実験が済み、臨床実験まで進んでいるものも多いという。また、同作に登場するAIについても触れ、現在人間が行っているデータの収集、分析、図式化、といった仕事はすべてAIの仕事になるだろうと予想する。反対に人間がやるのは、「筋の良い仮説」を立てることや、複雑なプロジェクトをすり合わせながら進めることだと語った。

一方為末は、現在スポーツ界で議論されている、スーパーヒューマンについてまず触れた。今日、スポーツ選手の精子が高値で取引されているという。有名スポーツ選手の遺伝子を持った子どもが生まれ、遺伝子親と同じようにスポーツ選手となったとき、それはドーピングと呼べるのか。我々がドーピングと聞けば、薬などを摂取することを想像するだろう。しかし、デザイナーベイビーに代表されるように、技術の進歩は体外受精や遺伝子操作を可能にし、それと並行するように人間は卵子と精子の選択肢まで手に入れた今、その線引きはますます難しくなっているという。

身体の拡張を語る上で、義足や義手も欠かすことのできない技術だ。為末は例として、身体の大部分を義体が占めるようになれば、パラリンピックではなく「ロボパラリンピック」になるのではないか、と冗談交じりに語った。

最後の質疑応答では、脳のハッキングや、AIによる職の喪失などの話によほどインパクトがあったのか、将来を不安視する声が多く聞かれた。しかし梅澤と為末は、現在は、AIといった技術の持つ可能性を知るためになされる様々な実験が、面白がられているだけであり、いずれは飽きられるだろうと予測する。ブームが落ち着けば、次第に人間をサポートする技術として受容されていくと語った。これから先も技術は進化し、人間の可能性はどんどん拡張されていくが、「音楽やアートで、新しいフロンティアを創るのは人間だけ」「最後の砦は人間味の有無」という2人の言葉は、技術を生み出す人間の力を信じているようにも聞こえた。

2020年、渋谷。超福祉の日常を体験しよう展』は、11月14日(月)まで渋谷ヒカリエを中心に開催。タイムアウト東京が主催するトークイベントでは、LGBT、もてなし、子育てについてのトークセッションが、様々なゲストを迎えて行われる。ヒカリエ8階には最新の技術で作られた義肢などが展示され、誰でも無料で見学できるので、ぜひ足を運んでほしい。

為末大(スポーツコメンテーター/タレント/指導者/NEXTOKYO) 

陸上スプリント種目の世界大会で日本人として初のメダル獲得者。2001年エドモントン世界選手権および2005年ヘルシンキ世界選手権において、男子400mハードルで銅メダル。3度のオリンピックへの出場経験がある。現在は、自身が経営する株式会社侍のほか、一般社団法人アスリートソサエティ、株式会社Xiborgなどを通じて、スポーツと社会、教育、研究に関する活動を幅広く行っている。

梅澤高明(A.T. カーニー日本法人会長/NEXTOKYO)

日米で20年にわたり、戦略、イノベーション、組織関連のコンサルティングを実施。クールジャパン関連委員会の委員を歴任するほか、オリパラ組織委員会「テクノロジー諮問委員会」委員でもある。また東京の都市構想チーム「NEXTOKYO」を主導している。

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