インタビュー:春ねむり

海外で孤軍奮闘するポエトリーラッパー、飛躍の背景は

作成者: Kunihiro Miki
Advertising
インタビュアー:八木志芳

横浜出身のシンガーソングライター/ポエトリーラッパーの春ねむり。東京を拠点に音楽活動をスタートさせたが、最近は海外での活躍が目立っている。作り込まれたサウンド、激しいライブパフォーマンス、そして日本語でつづられたリリックを武器に、言葉の通じない観客を沸かす。

2019年は、ヨーロッパを代表する20万人級の巨大フェス『Primavera Sound 2019』(スペイン)への出演を含むヨーロッパツアーを成功させ、2020年3月からは自身初となる北米ツアーを開催。アメリカ・テキサス州オースティンで開催される世界最大規模のフェス『SXSW(サウス・バイ・サウス・ウェスト)』を含む6都市でのライブを行う予定だ。

しかし彼女は、海外での活動が目覚ましいにも関わらず、あくまでも日本語でのポエトリーラップにこだわり続ける。詩を聞かせることに比重が置かれるジャンルにも関わらず、なぜ海外で評価されているのだろうか。春ねむり本人へのインタビューから探ってみた。

Photo : Yuki Nakamura

歌うべき星の下に生まれていない……

―もともとバンドをやっていたとか。

そうなんです。ギターボーカルがいて、私はシンセサイザーを担当して、ドラムは打ち込みで出すという2人組のバンドでした。元々は美術が苦手で、物を作ることは得意でなかったんですが、バンドをきっかけに楽曲を作るという物作りにハマりました。

―ソロで活動するきっかけはなんだったんですか。

そのバンドのギターボーカルが辞めることになって、バンドが解散したんです。ただ、物作りに夢中になっている時だったので、音楽活動は止めたくなかった。そこでソロで活動しようと思ったんですが、私、歌がめっちゃ下手なんですよ(笑)。歌うべき星の下に生まれていないなと。

でも、ライブがしたかったし、自分で表現したかったので、今のポエトリーラップというスタイルになりました。

―歌詞が文学的で印象的です。

志村正彦さんが生きていた時代のフジファブリックや大森靖子さんが好きで参考にしていました。文学的なところで言うと、作家の高橋源一郎さんや、宮沢賢治さんも好きです。自分のアルバムタイトルにも『春と修羅』という名前をつけています。

私は日記から歌詞を書いていくのですが、けっこう論理的な歌詞作りをしていると思います。歌詞で誤解されたくないという気持ちは強いです。

歌詞の捉え方をリスナーに委ねるタイプの人もいると思いますが、趣旨が誤解されることなく伝わることを一番に考えて歌詞を書いています。

サウンドを評価したアメリカのYouTubeチャンネル

―最近は海外での活動が活発ですね。海外進出のきっかけはなんだったんでしょうか。

きっかけは、アメリカの音楽評論YouTubeチャンネル「The Needle Drop」で『春と修羅』が紹介されたことです。このチャンネルは登録数が200万人以上いて、結構影響力があるみたいで。このThe Needle Dropのスタッフに日本のアンダーグラウンドミュージックが好きな人がいるらしく、その方の推薦があって、取り上げられたそうです。そこから海外のリスナーが増えました。


―海外を意識して作られていない作品にも関わらず評価された理由はなんだと思いますか。

聞いたことがない曲を作りたいという意識がある一方で、広く伝えたい気持ちもあるので、ポップさもある面白いバランスのサウンドを作っているという自信がありました。ただ、国内ではあまり音楽の実験的な部分を評価されたことはなかったんです。

The Needle Dropでは、その実験的な音作りを評価して頂いて、そして、ハードコアやパンクの要素もしっかり伝わっていたので嬉しかったです。ポエトリーラップをやっている人は、「詩の朗読」を重視してい人が多いですが、私は音楽を作っているという思いがあります。

―去年はヨーロッパツアーを行われたんですね。

約20日間で6ヵ国15公演を回る、メロコアバンドみたいなストイックなツアーでした(笑)。初日のドイツで、邦画を上映する映画祭に出演したんですが、CDがものすごい勢いで売れたんですよ。ツアー途中、持って行ったCDがすべて売り切れてからは、デモ音源が入ったCD-Rを現地で手作りして売りました。

Advertising
Xavier Mercade

海外では流行以外の評価基準がきちんとある

―ツアーは好評だったようですが、ご自身では評価の理由をどう分析していますか。

黒髪ロングで、一見大人しそうな日本人女性なのに、ライブが始まると、この体からすごい絶叫が出てくるというギャップにインパクトがあったみたいです。

あと、私のライブってキャッチーだし、曲もわかりやすくてノリやすいし、そこは海外でも伝わっていました。あとは、日本語の響きも面白がってもらえたようです。

印象的だったのは、イギリスでライブをした時に、見るからにナードな男の子が見にきていたんですね。でも彼はライブが始まったら、めちゃくちゃ踊ってくれて、そのあと物販に来て話した時に、「日本語の意味はわからないけど、落ち込んでいる日に聴くとエモくなる」って言ってくれたんです。歌詞の意味は分からなくても、伝えたいことが伝わるんだと思いました。

Jan Lenting

私のパフォーマンスは、国内だと「暑苦しくてウザい」って言われることが多いんですよ。今の東京の音楽シーンだと、クールに一歩引いているところがかっこいいと思われる風潮があると思うので。

去年、シカゴ在住のミュージシャン、Sen Morimotoくんの来日公演に出演したんですが、日本人のお客さんよりも外国人のお客さんの方が反応が良かったんです。Senくんも気に入ってくれて、今でも連絡をとっています。

日本では評価が流行に左右される部分があるけれど、海外では個々の個性をきちんと評価してくれるから、今は日本よりも海外のリスナーが多いのかもしれません。

どこに属しているかよりも、まずはライブを見て欲しい

―今年は北米ツアーもあり、ますます海外での活動が活発になっていきますが、これからも歌詞は日本語で作られるんですか。

そうですね。やっぱり日本語が好きなので、日本語にはこだわっていきたいです。

―2020年はどういう年にしたいですか。

1月10日に『ファンファーレ』という曲をリリースしたんですが、今年は他にもリリースも決まっています。(3月20日に新アルバム『LOVETHEISM』をリリース)

私は今、日本のどの音楽シーンにも属していないんですよ(笑)。最初はアイドル系のライブにも出ていましたが、合わなくて。あと、私はそこらへんのバンドマンよりもバンドっぽいことをしていると思っているけど、バンド界隈にもいないし、オシャレ系の人からもスルーされるし。

どこかに属したいという訳ではないですが、見てもらわないと判断もできないと思うので、まずはより多くの人にライブは見てもらいたいです。最近、「日本を捨てた人」みたいな扱いになっていますが、東京でもライブもしていくので。

 

プロフィール

春ねむり
横浜出身のシンガーソングライター/ポエトリーラッパー。自身で全楽曲の作詞・作曲を担当。

ファーストフルアルバム『春と修羅』はアメリカの有名音楽ブロガーアンソニー・ファンターノを筆頭に海外でも多く取り上げられ、様々なメディアの2010年代ベストアルバムへピックアップ。現在、同作はアメリカ最大の音楽評価サイト『RYM』で2018年のアルバム作品として世界で30位にランクイン。これは日本人アーティストとして最高位。

2019年、1月より全5都市を回るアジアツアーを開催。5~6月にはヨーロッパを代表する20万人級の巨大フェス『Primavera Sound』への出演を含む6ヵ国15公演のヨーロッパツアーを開催し、多数の公演がソールドアウト。

2020年1月、『ファンファーレ』をリリース。3月には自身初となる北米ツアーの開催が決定。そして、『春と修羅』以降2年ぶりとなる新作『LOVETHEISM』(ラブジイズム)が、2020年3月20日(金)にリリース決定。

これが新世代のジェイポップ、こころはロックンロール。

【リリース情報】
2020年3月6日(金)デジタルシングル『Riot』
2020年3月20日(金)サードミニアルバム『LOVETHEISM』 

※デジタル配信(World)/12インチアナログ盤(USA) 

【LIVE 情報】
『HARU NEMURI“North America Tour 2020”』

2020年3月20日(金)アメリカ・テキサス州 オースティン『SXSW2020』
2020年3月22日(日)アメリカ・テキサス州 ダラス『Three Links』
2020年3月24日(火)アメリカ・ニューヨーク州 ブルックリン『Knitting Factory』
2020年3月25日(水)アメリカ・イリノイ州 シカゴ『Sleeping Village』
2020年3月27日(金)アメリカ・カリフォルニア州 ロサンゼルス『Echoplex』
2020年3月29日(日)アメリカ・カリフォルニア州 サンフランシスコ『DNA Lounge』

【関連リンク】
Facebook:https://www.facebook.com/harunemuri
Instagram:https://www.instagram.com/haru_nemuri
Twitter:http://twitter.com/haru_nemuri
Spotify:https://open.spotify.com/artist/3cn7Ujrlj3rdyuqmOYhBJT
Official Website:http://harunemuri.love
Official Website(JP):http://ねむいっす.com

インタビュアー

八木志芳  
ラジオDJ、ナレーター。大学卒業後、IT企業・レコード会社を経て、ラジオ福島にてアナウンサー、ディレクターとしてのキャリアをスタート。Tokyo FmグループのMUSIC BIRDを経て現在は関東を拠点にフリーのラジオパーソナリティー・ナレーターとして活動。FM PORT「LIKEY」MC、FM FUJI『SUNDAY PUNCH』レポーター出演中。

Twitter

関連記事

インタビュー:DJ Nobu

音楽

今や世界でも指折りのテクノDJのひとりとなったDJ Nobuの夏は、今年も多忙を極めた。日本でのパーティやレイヴの合間を縫うように、数々のヨーロッパのフェスティバルへ、時にはヘッドライナーとして出演している。フランスの『The Peacock Society』やベルギーの『Crossroads』、そしてエレクトロニックミュージックのフェスティバルの最高峰であるスペインの『Sónar Festival』やオランダの『Dekmantel Festival』など、錚々たるイベントが彼をメインアクトとして呼び寄せる。9月には4度目となるアメリカツアーも成功させた。 このインタビューが行われたのは、『Sónar Festival』から凱旋し、彼が8年連続で出演してる長野のフェスティバル『rural』でのプレイを終えた翌日だ。最前線を駆ける彼の言葉から滲(にじ)み出るのは、日本のクラブシーンへの深い愛ゆえの苦悶。そして、グローバルな活躍から得た経験と知見を国内に還元し、新たなシーンのあり方を模索する姿勢だった。

インタビュー:マイカ・ルブテ

音楽

ニューアルバム『Closer』を2019年7月12日に発表し、初めてのスペインツアーを終えたばかりのシンガーソングライター、マイカ・ルブテ(Maika Loubte)。スペインという異国の地でも驚くほど堂々としたライブパフォーマンスを披露し、オーディエンスを圧倒した。幼少期から10代までを、日本とフランスの地で過ごしてきた彼女は、「小さい頃からどこにいてもちょっと浮いている存在だった」と語る。英語とフランス語、日本語で歌われる彼女の音楽は、エレクトロニクスでもロックでもない。もしくは、その要素を全て兼ね備えた良質なポップス、と表現するのが正しいのかもしれない。シンセサイザーをメインに織りなされるみずみずしくコズミックなサウンドと、透き通ったボーカル。繊細なのに、どっしり聞き応えの楽曲たち。「本物の音楽ファン」を魅了し、日本のミュージックシーンではちょっと特殊な存在として注目を集めるマイカ・ルブテを、ツアー先のバルセロナでキャッチした。 スペインでのライブの様子 ー初のスペインツアーはどうでしたか? とっても楽しかった!スペインのオーディエンスはノリがいいっていうのと、あと自分に正直な人が多いっていう印象でしたね。つまらないと、はっきりつまらない顔をするし、楽しいとめちゃくちゃ盛り上がる。熱量が高いというか、自分が投げかけたのをちゃんと返してくれるって印象。その分すごく感激しました。 ー今回のツアーのきっかけは何だったのでしょうか? 「CERO EN CONDUCTA(セロエンコンドゥクタ)」っていうバレンシアのイベントオーガナイザーチームの人が、私の曲をどこかで聴いてくれて。気に入ってくれたっていうのがきっかけです。Instagramから突然オファーが来たんです。彼らすごく若いのにストイックにいろんなアーティストを世界中から呼んでて。情熱と実行力に感心しました。本当に彼らのおかげで貴重な体験ができました。 ージャンルにとらわれず「本物の音楽好き」が、ライブに集まったように感じました。リスナーの層はどんな人が多いですか? ライブに来る人は女の子も多いですね。なんか、面白いことにオーガニックが好きな人とか、多かったり。あと、意外とロックが好きな人が多い。もちろん電子音が好きな人も来ますし。でも大きくいうと、音楽が好きな人が多いかな。 スペインでのライブの様子 ーマイカさんのバックグラウンドについて教えてください。 日本で生まれて、その後すぐにフランスへ渡ったんです。4歳から10歳まで日本で過ごして、その後10歳から15歳まではフランスで過ごしました。そのあとは少し香港にいた時もあるけど、それからはずっと日本ですね。 ーフランスと日本を行ったり来たりしながら受けた音楽的影響はありますか? もともと5歳からクラシックピアノを習っていたんです。コンクールのために地方まで行ったりとか、パリ国立高等音楽院の入学試験を受けたりとかも。10歳の頃、2度目のパリ移住の時は、言葉がわからなかったっていうのもあって、ピアノを弾く事で自分の自尊心を保てたというか。人にはできなくて自分にできること、みたいな。ピアノを弾けることが助けになってて。それでなんか、ピアノが上手だねっていうことでクラスの中にちょっとだけ溶け込むことができたり。支えであったりコミニュケーションの手段でしたね。 ーそれはハードな経験ですね。もともと音楽の最初の入り口はクラシックピアノ

Advertising

インタビュー:The fin.

音楽

インタビュー:小田部仁/構成:多田愛美撮影:谷川慶典 2016年9月にイギリスに拠点を移し、日本というフィールドに留まらずグローバルに活動を続ける3人組ロックバンド The fin.。今年3月には約3年ぶりのセカンドアルバム『There』をリリースした。フロントマンのYuto Uchino(Vo./Syn.)の手によってひとりで作られたという本作は、水面のような静謐さと胸の奥底に潜む熱い気持ちを揺り動かすようなグルーヴが同居する、グローバルスタンダードなポップアルバムだ。 彼らの2018年の夏は、ロンドンでワンマン公演を行った後、 7月にはウランバートルで開催された音楽フェス『Playtime Festival 2018』に出演、次いで8月には『SUMMER SONIC FESTIVAL 2018』で凱旋帰国を飾るなど、引っ張りだこの状況だった。世界中を飛び回り成長してきた彼らは自らのアイデンティティをどこに置いているのか。今という時代をどのように捉えているのか。メンバーのYuto Uchino、Kaoru Nakazawa(Ba.)、Ryosuke Odagaki(Gt.)の3人に話を聞いた。

おすすめ

    関連情報

      Advertising