時間に触れる15日間「恵比寿映像祭」が開幕

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Hisato Hayashi
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映像と芸術領域の国際フェスティバル、恵比寿映像祭が今年も開催を迎えた。会期は2020年2月23日(日・祝)までの約15日間、東京都写真美術館を中心に近隣地域の施設やギャラリーも交えて展示、上映のほか関連イベントを展開する。

今回のテーマは「時間を想像する」。誰にとっても身近な主題ながら、映像の本質であり観客との対話を要する「時間」を巡って3つの視点から構成されている。参加作家はヴェネツィア国際映画祭で受賞歴もあるベン・リヴァース、舞踊術の研究から成る作品を示すナム・ファヨン、ダムタイプのメンバーであり、個人の映像作品から舞台まで幅広く活躍する高谷史郎など、17国78組による多彩なプログラムが組まれている。

ここではそれぞれの視点と、印象的な作品をピックアップする。例年ながら、本年は一層のこと15日間で終了してしまうのが惜しい内容だ。観覧の際は、映像作品はもとよりインタラクティブ・アート作品や立体作品など、多種多様な展示空間を余すことなく楽しんでほしい。

1. 「時間を記録する:新しいドキュメンタリー」

ー歴史の継承、記憶の再編成

語り継ぐことは、過去と未来を行き来する行為だ。参加作家のニナ・フィッシャー&マロアン・エル・ザニは、《移動の自由》(2017)にてサハラ以南のアフリカ人初となる金メダリストのアベベ・ビキラの軌跡を追い、グラダ・キロンバは《イリュージョンズ(幻想)第2章―オイディプス》(2018)のモニターの中に自身が語り部として登場し、多様な人種のパフォーマーの横で父殺しの物語を語る。これは誰の物語か? という問いのもと、西洋史には存在しない黒人の歴史をあぶり出そうとしている。

小森はるか+瀬尾夏美は、震災以後の岩手県陸前高田にて撮影した新作を発表。映像の中で、そこに生きる土地や人々について「語り直し」をする《二重のまち/交代地のうたを編む》(2019)のインスタレーション展示を行う

ニナ・フィッシャー&マロアン・エル・ザニ《移動の自由》2017

ニナ・フィッシャー&マロアン・エル・ザニ《移動の自由》2017

小森はるか+瀬尾夏美《二重のまち/交代地のうたを編む》2019

小森はるか+瀬尾夏美《二重のまち/交代地のうたを編む》2019

2. 「時間を表現する:ポストヒューマン」 

ーまた、宇宙、自然、動物など人間以外にとっての時間とは

例えば愛犬と過ごす時に、動物の感じる時間について考えてみたことはないだろうか。人間よりもはるかに短い寿命の中で、果たして犬は10分間をどのように感じているのだろう。ベン・リヴァースの《いま、ついに!》(2019)は、ナマケモノを撮影した40分間におよぶ壮大な作品だ。観客はほとんどの時間、木にぶら下がって動かないナマケモノの「時間」を見つめることになる。

岩井俊雄《マシュマロスコープ》2001

岩井俊雄《マシュマロスコープ》2001

minim++《Tool’s Life ~道具の隠れた正体》2001

minim++《Tool’s Life ~道具の隠れた正体》2001

 触れると道具の影が動き出すminim++の《Tool’s Life ~道具の隠れた正体》(2001)は、写真美術館の収蔵作品。しまっていた時間の経過による錆(さび)などを今回の展示のために磨いている。道具にも人の死と同じように、さびて朽ちるまでの時間がある。ではAI(人工知能)はどうだろう?

アンナ・リドラー《モザイク・ウィルス》2018-2019

アンナ・リドラー《モザイク・ウィルス》2018-2019

3. 「イマジナリータイム(虚時間)」

ー時間の存在を問いかける

高谷史郎は『《Toposcan/Ireland》(2013)』の撮影場所を東京に移した新作委嘱作品、《Toposcan/Tokyo》(2020)を出展。16:9の8面モニターに映し出された東京の風景が、1ピクセル分ずつ横に引き伸ばされていく。今作では現代の風景をモノクロで撮ることで、どこか遠い昔の景色を見ているように感じられる。現代の風景を過去のように感じるということは、つまり未来から現代の東京を見ることと同意なのだと高谷は語る。

また、2020年2月9日(日)には、ジュリオ・ボアトが監督する高谷の活動を追ったドキュメンタリー《SHIRO TAKATANI, BETWEEN NATURE AND TECHNOLOGY》2019の特別上映を予定。キュレーターの長谷川祐子らのトークセッションにも期待が寄せられる。

高谷史郎《Toposcan/Tokyo》2020

高谷史郎《Toposcan/Tokyo》2020

レセプションに参加する出展作家

ハナビリウム
「ハナビリウム」制作チーム 《ハナビリウム》2019

「ハナビリウム」制作チーム 《ハナビリウム》2019

恵比寿ガーデンプレイス センター広場では、巨大なドーム型テントが設置されている。ここでは寝転びながら360度全方位に広がる打ち上げ花火の映像体験が叶えられる。

恵比寿映像祭ではほかにもトークセッション、ワークショップ、ライブ、シンポジウムなどが予定されており見逃せないイベントがそろっているが、冒頭でも伝えた通りこのフェスティバルはたった2週間の期間限定なのだ。恵比寿に足繁く通う15日間となることが予想されるだろう。

  

第12回恵比寿映像祭「時間を想像する」
Yebisu International Festival for Art & Alternative Visions 2020:
The Imagination of Time

2020年2月7日(金)~2月23日(日曜・祝日)※月曜は休

10時00分〜20時00分(最終日は18時まで)

東京都写真美術館、日仏会館、ザ・ガーデンルーム、恵比寿ガーデンプレイス センター広場、地域連携各所ほか

入場無料(定員制のプログラムは有料)

詳細はこちら

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