サントリー美術館
画面手前に深見陶治の作品

リニューアルオープンしたサントリー美術館に行くべき3のこと

山口晃や南蛮美術のコレクション、「誰が袖図屏風」など

作成者: Ryuichiro Sato
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2020年7月22日、新型コロナウイルス感染症で休館し、緊急事態宣言解除後も改修工事が未着手の箇所があったために再開を延期していたサントリー美術館がリニューアルオープン、開館記念展ART in LIFE, LIFE and BEAUTY』を開催した。今回の改修は、同館が2007年に現在の六本木に移転後、初の大規模な改修でもある。本記事ではリニューアルしたポイントや展覧会の見どころを紹介していく。

隈研吾設計のエントランス

今回の改修は機能面が中心であり、外観や建物の導線などに目立った変化はない。その中で特筆されるのはエントランスの全面リニューアルであろう。同館を設計した隈研吾建築都市設計事務所が監修、「和の素材を使用したぬくもりのある空間にマッチする洗練されたデザイン」をコンセプトとしたという。特に隈研吾本人による「水」を想起させる新しいカウンターのデザインが印象的だ。照明もLEDに変更されている。

サントリー美術館
照明は高演色LEDに変更、自然光のような展示が可能に

コレクションの名品を堪能する

展覧会の構成は「第1章 第1節 装い:浮線綾螺鈿蒔絵手箱と化粧道具」〜「第3章 第2節 異国趣味の意匠(デザイン)」の7つに分かれており、それぞれが充実した展示内容となっている。

サントリー美術館
画面右側に『浮線綾蒔絵手箱』

会場を入ると、まず深見陶治の『遥カノ景〈空ヘ〉』が出迎えてくれる。その奥には、同館が誇る鎌倉時代の蒔絵箱の名品『浮線綾螺鈿蒔絵手箱』が鎮座する。この作品は、浮線綾文という円形の花文様を表面に散らしており、一つの文様は、13片もの貝のパーツを精緻に組み合わせた螺鈿(らでん)技法で描かれている。その文様の美しさのみならず、源頼朝の妻、北条政子が所有していたとも伝えられる由緒の正しさも含めて端正な名品と言える。

「第3章 第1節 異国趣味:南蛮屏風と初期洋風画」では、同館のコレクションの特徴の一つである初期洋風画や南蛮美術のコレクションを知ることができる。これらは安土桃山時代以降に制作され、ヨーロッパなど諸外国の影響を受けたり、イエズス会宣教師の布教などキリスト教に関連する題材の作品だ。

サントリー美術館
画面右側に『泰西王侯騎馬図屏風』

17世紀初めに制作された『泰西王侯騎馬図屏風』は、現在神戸市立博物館が所蔵する屏風と元は一対をなし、会津松平家の若松城に伝来した。ペルシア王、エチオピア王、フランス王アンリ四世が描かれ、左端の人物が誰かについては諸説ある。

この作品の出典は、1606〜07年に刊行されたオランダのウィレム J. ブラウ制作の世界地図をもとにピーテル・ファン・デン・ケーレが制作した世界地図の一部とされ、江戸幕府による禁教令の1614年までに制作されたという説が有力。題材や陰影法などはヨーロッパのものを採用しながらも下書きの墨線や顔料、朱地に金箔(きんぱく)を押す技法など日本美術の技法が使われている点も興味深い。何より地図のような比較的小さなメディアを、大画面の屏風に仕立て上げた絵師の技量には素直に敬意を表したい。

今と昔を往来する

本展覧会の面白い点は、初期洋風画が海外の造形を再解釈したように、美術史上の作品と現代のアーティストの作品を並べて展示しているところにある。つまり、美術を通して地域の交流だけでなく過去と現在という時空も往来させようとしているのだ。

例えば、狩野山楽筆と伝えられる『南蛮屏風』は、山口晃『成田国際空港 南ウィング盛況の圖』(ミヅマアートギャラリー)と対置される(第3章 第1節)。 山口の作品には『南蛮屏風』に描かれる人物を引用しているからだ。この作品自体は『南蛮屏風』だけを意識して制作されたのではないはずだが、比較してみると共通点だけでなく、今昔の東西交流を古今の移動手段を交えて混交させる手法、版画という技法など翻案によって生まれる元の作品との違いといった相違点も感じさせられる。

サントリー美術館
左から山口晃の作品、『正月風俗図屏風』

ほかにも、山口の作品と『正月風俗図屏風』、野口哲哉が作り出す中世の兵士たちのような立体作品と祭礼図屏風の比較など同様の試みが会場の随所に見られるので、探してみるのもいいかもしれない。

学芸員のワクワク感を追体験する

もう一つ知っておきたいのは、この展示では絵画の世界を実際に再現するという試みにも積極的だということだ。例えば、『誰が袖図屏風』に描かれた情景を当時の道具で再構成した展示を見ることができる(第1章 第2節)

サントリー美術館
左から『誰が袖図屏風』の再現、『誰が袖図屏風』

誰が袖図とは衣桁(いげた)に掛けられた衣装などを画中に配し、その持ち主の面影を偲ぶという趣向の主題を指す。この主題の作品に描写された衣装や道具を実際のそれと比較、比定する研究は論文として過去に発表されてきたが、実際の当時の道具で再構成するという取り組みはあまり例がない。多くの収蔵品を有する同館だからこそ実現可能なのだ。

学術的な視点を実際に自分の目の前に作り出して検証してみたい、それ以上に絵画を実物で再現したらどのような世界が開けるのだろうか、という学芸員のワクワクした気持ちが伝わってくるかのようだ。

同様の再現は、伝菱川師宣『上野花見歌舞伎図屏風』に対しても行われている。自分の目で絵画と実際の宴席の再現とを比べてみると楽しめるはずだ。

サントリー美術館は1961年の開館以来、「生活の中の美」を基本理念としてきた。奇しくもコロナ禍で日常や生活が問い直されている現在、生活の中の美も問い直される局面にあるのかもしれない。それを示すように、本展覧会では過去や現在を結びつけたり、絵画の世界を現実に再現して見せたりと新たな世界を開いている。まさに、六本木移転後のミュージアムメッセージ「美を結ぶ。美をひらく」の始まりといえるのだ。

ART in LIFE, LIFE and BEAUTY』の詳しい情報はこちら

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