スプレッドのスタッフ 中央がKamada Tomoki
スプレッドのスタッフ 中央がKamada Tomoki

サブスク型で毎日配信、生き残りをかけたクラブの挑戦

給付金やクラウドファンディングでの金策が望めない「新入り」クラブ、高品質で持続的な配信コンテンツを開拓

作成者: Kunihiro Miki
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東京都が5月22日に発表した「新型コロナウイルス感染症を乗り越えるためのロードマップ」では、感染状況を見ながら1から3までのステップで段階的な活動再開を目指す計画が示された。そこでは、「3密」になりやすい高リスクの施設、「接待を伴う飲食店」やカラオケ、スポーツジム、そしてライブハウスとナイトクラブの要請解除の時期は未定とされている。

全国のほぼ全てのライブハウスやナイトクラブは4月7日の緊急事態宣言から、またはそれ以前から客を入れての営業を行っておらず、休業期間は間もなく二ヶ月を数えることになる。

現在、彼らの経済的な柱になっているのは大きく分けて三つ。①行政からの給付金や融資/業界団体からの支援金、②クラウドファンディングやグッズ販売、そして③オンラインでのコンテンツ配信から得る収益だ。

これら三つの金策全てを活用できる店もあれば、そうでない店もある。開店して間もない店や、宣言期間中に開店予定だった新店がそれだ。前年の売り上げ実績が必要な持続化給付金は受け取ることができず、店に客がまだついていないためにクラウドファンディングをしても支援金が集まらない。配信にしても、フォロワーや固定ファンがいる店の方が有利である。

そうした、世にでる前に人知れず閉店の危機を迎えているという悲惨な店が全国で少なからずあるわけだが、そうした状況だからこそ、思い切った企画に打って出た店もある。

2020年2月末に下北沢にオープンしたクラブ スプレッドは、数回のイベントを開催しただけで営業自粛となった。彼らは今、5月8日から6月7日(日)の30日間にわたって毎日動画配信行う『VIDEO SERVICE "AMUSEMENT"』を開催している。

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平日は仕事終わりの20時から24時まで、週末は夕方から配信をスタートし、配信した映像はアーカイブされる。料金は定額制で、1,000円を払うことで全ての配信とアーカイブ映像を契約期間中に観ることができる。

映像はプロのカメラマンが複数のカメラを駆使して撮影し、さらに照明やVJの演出も加わる。出演者は、東京の気鋭のDJたちのほか、アンダーグラウンドなシーンで人気のバンドやラッパー、シンガーなどを総勢110組集めた。

ライブの有料配信はそのほとんどが一回きりのチケット制で行われているなか、ハイクオリティーな配信コンテンツを定額制、見放題で提供するというアイデアはなぜ生まれたのか。

他店と同じことをしても埋もれるだけ

「配信をやろうと決めたのは3月後半。それまでは5月ごろには営業再開ができるんじゃないかというつもりでいたんですが、段々ともっと長引くだろうということが見えてきて、これはまずいな、と」

そう語るのは、スプレッドでブッキングやイベント制作を担当するKamada Tomoki。自身もYELLOWUHURU名義でDJ活動をしながら、スプレッドに勤める以前から『FLATTOP』やGEZANのマヒトゥ・ザ・ピーポーと共催の『BODY ODD』など、多くのイベントを主催してきた。

「うちはとにかく知名度がまだないので、他店と同じことをしても埋もれてしまう。かといってこのままなにもしないと、母体の会社やグループ店全体に迷惑をかけることになってしまう。

なにか面白いことをしなくては、ということで4月から配信設備を整えつつ、テスト配信を行い、仕込みと並行して5月6日からの企画のブッキングの構想を固め始めました。

歴史のある店やファンがついている店と違って、世間に全く知られていないうちはラフなクオリティーの配信では誰にも注目してもらえないだろう、という危機感が強くありました。なので、やるなら画質や音質のクオリティーにはめちゃくちゃこだわろうと。

配信の体制は、撮影に4人、音響エンジニアが1人、照明演出に1人、現場担当として自分という形です。照明は全て配信用に持ち込んでセッティングしていて、カメラなどは業者からレンタルしています」 

配信の収益だけでやっていくしかない、のっぴきならない状況

給付金の類はグループ全体で分配となり、新店のため店単体でクラウドファンディングをやっても支援が集まらない。そのため、配信のための機材や人材といった新たな出費と、出演者への出演料、そして家賃などの固定費といった全てのコストをこの配信企画から得る収益で賄うことを目標に設定した。

「登録者数は3000人を獲得できれば、一通りのコストが賄える予定です。現在は1日に50〜60人ほどのペースで増えています。

1,000円の定額制にした理由は、1度だけの生配信だと視聴者が配信時間に縛られてしまうし、見終わったらそれきりになってしまうから。生配信としてやってはいますが、そこまで生の臨場感にこだわりはない。それよりも、ある程度番組として成り立っているものがやりたかった。その方がアーカイブする価値があるし、視聴者も好きな時に見ることができる。YouTubeに上がっているオフィシャルの動画コンテンツと同じ感覚で、繰り返し見たくなるものとしても成立していた方がいいと思ったんです。

今までに主催してきた『FLATTOP』や、マヒトと共同開催してきた『BODY ODD』などに通ずる、クラブカルチャーとバンドのライブが混ざった番組を表現したかった」


配信によって生まれる可能性

動画配信は一度環境さえ整えれば、コロナ収束後も続けていくことができる。時間や距離の制約を受けない配信は、リアルのイベントとはまた違ったメリットや魅力を生み出す可能性を大いに秘めている。

「海外への発信も意識してはいますが、海外で知名度のあるコンテンツをそろえているわけではないので、東京のローカルでアンダーグラウンドなシーンを見ることができるチャンネルとして打ち出していこうと思っています。

動画はスプレッドからの生配信と収録した映像を混ぜていて、地方のアーティストに出てもらう場合は地元で収録した動画を送ってもらっています。

今後、例えば全国各地で同時配信するフェスなんかもしてみたいですね。距離に縛られないのも配信の良さだと思うので。気になっていたけど見たことがなかったDJやバンドを見る機会になったり、地方の音楽ファンやオーガナイザーが東京のシーンを知る機会にもなるかなと。アーティストたちがイベントにブッキングされるチャンスを増やすことにもつながるはず。

今回の配信動画はアーカイブして、後々DJやアーティストにデータとして渡そうと思っています。彼らにとっても使える映像になっていれば、良い循環が生まれるんじゃないかと。

いつ観客を入れて営業できる状況になるのか、配信スタッフへの給料や出演者へのギャラが払える状態になり得るのかがまだ読めない。先が見えない状態でブッキングの相談をしたりスタッフを動かすのは、体力的にも精神的にもつらい部分がありますね」

日本のクラブシーンは花盛りだった1990年代に比べると人口こそ減少したが、質の面では進化を続けており、世界的に見ても高い水準を持っている。DJがアートフォームとして認知されているヨーロッパで、フェスティバルのヘッドラインに名を刻むほど高い評価を得ている日本人DJも生まれている。

そうした才能を生み育てる場所が小さなクラブやライブハウスだ。そうしたカルチャーの土壌としての「ハコ」で働く人々は、短くない歴史のなかで結晶した純度の高いシーンやコミュニティーの担い手としての自覚を強く持っているからこそ、現在も必死で生き残りのためにもがいている。そうした挑戦の一端で生まれたものが、明るい未来を切り開く術になることを願いたい。


『VIDEO SERVICE "AMUSEMENT"』の詳しい情報はこちら

配信期間:2020年5月8日~6月7日(日)
アーカイブ:2020年7月7日(火)23:59まで視聴可能。

下北沢SPREAD
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