インタビュー:高柳潤

人と環境に優しいヘアケアを、表参道の美容師が語るこれからのサロン

テキスト:
Miroku Hina
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テキスト:倉石真純

90年代から全国にある美容院の数は増加の一途をたどっており、その数は現在約25万店と、なんとコンビニの5倍にも上る(参照)。東京にある美容院は約22000店と全国の中でもダントツだ。この規模を考えると、そこから流れ出るシャンプーや染色剤などが環境に与える影響や、ケミカルな成分で肌荒れに悩む利用者や美容師らの問題も、決して看過できないだろう。

こうした状況に対する疑問から、20195月に自らの発案で100%天然由来のヘアケアブランド余[yo]を作り出したのは、表参道アトリエ(omotesando atelier)代表で、自身もスタイリストとして店頭に立つ高柳潤(たかやなぎ・じゅん)。

2014年から、長野県安曇野市の美しい森の中に立つホリスティックリトリート穂高養生園で客の髪を切るという「yojoen atelier」を毎月開き、東京との2拠点で活動する高柳。長野で過ごす時間が環境意識を高め、乱立する美容院の在り方を考えるきっかけになったと話す。今回は余[yo]を生み出した背景や、今後、ヘアサロンが大切にしたいことを聞いた。

地球に優しいものは、人間にも優しい

―なぜ自身でケミカルフリーシャンプーを作ろうと考えたのですか。

僕自身、子どもの頃から頭皮の荒れに悩んでいて、美容師になってからはお客さまの髪にも、自分たちの手にもダメージを与えるプロダクトを使うことに常に疑問がありました。

お客さまからご縁があって5年前に始めた長野県の穂高養生園でのカットの経験も大きいです。養生園では森の中でカットするため、水質保全を考えた石鹸系シャンプーを使用していましたが、環境には良くても髪がきしみやすく手入れが大変。使いにくい製品は広がらないので、環境にも髪にもいいものを作りたいという思いは僕の中で強くなりました。

そんな時、現在、余[yo]の販売元となっているたかくら新産業社長の高倉健さんと出会い、シンプルだけど100%天然由来で、日常使いできるヘアケアラインを作ろうと意気投合したんです。

高倉さんはそれまでも自然派のボディーケア商品などを生産していましたが、お互い市場にある「植物成分」「オーガニック」をうたうヘアケアに満足していなかった。僕は美容師として、洗い上がりのテクスチャーなどを監修することになりました。 

―余[yo]のこだわりは。

「日本人の髪と肌質に合った、まっすぐなシャンプー」。これが余[yo]への思いです。防腐剤や保存料はもちろん、水以外の油出溶媒やシリコン系ポリマーといったケミカルな成分は一切使用せず、現時点で最も身体に負担のない生成法で作られた製品の一つだと考えています。

そして、日本の美しい自然を残すこともポリシーとしています。長野の養生園で澄んだ川を前にすると、「この川にも流せるようなシャンプーを作りたい」と思うようになりました。今では養生園でも余[yo]を使用しています。地球に良いものは人間にも良く、またその逆も然りなんですよね。

―自然の中で髪を切ることにどのような意義を感じていますか。 

切る側も切られる側も、森の中では五感がリセットされて、ふっと心が解放されます。心身がリセットされると、東京での活動においても周囲の雑音に流されなくなる。

美容師としては、カットやスタイリングにおいて流行などの形に縛られず、ただその人自身を「整え」、その人がその人らしくいられるスタイリングの提案が大事だと実感するようになりました。

都市生活者にこそ、日常生活から離れて心身をリセットできる場所が必要だと思います。今後、そうしたことを叶えるリトリート施設は、より注目されてくるのではないでしょうか。 

ヘアサロンもストーリーが大事になる

―これからのヘアサロンの在り方をどう考えますか。

 今後は、価格やおしゃれな外観、写真などの表面的なものだけではなく、サロンのポリシーやスタイリストがどんな活動をしているかなどの「背景」も大事になってくるのではないでしょうか。

世界的な環境意識の高まりもあり、消費者もこれまでから一歩踏み込んだことを重視するようになる時代は、そこまで来ていると感じています。

[yo]のような製品を選ぶサロンや消費者が増えれば、環境への負荷を軽減できるでしょう。「東京でできることは何か」と、意識を高く持ったヘアサロンが増えることを期待しています。 

表参道アトリエ(omotesando atelier)の詳細はこちら

ライタープロフィール

倉石 真純 Masumi Kuraishi ライター
環境ビジネス、伝統工芸、職人、日本酒を中心に取材。「環境ビジネス」「SDGs経営」に執筆するほか、「Discover Unknown Janan」では日本についてインバウンド向けに発信。国際利き酒師。

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東京で広がるアーバン・ファーミングの魅力
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今、世界中の都市で、ビルの屋上やベランダなど、都市空間の隙間を利用して農業に取り組む「アーバン・ファーミング」が盛り上がりを見せている。東京にあるNPO法人アーバン・ファーマーズ・クラブでは、「都会だからこそ実践できる、サステナブルでオーガニックな都市型農的ライフスタイル」を提唱している。代表の小倉崇に、多くの都市生活者の心を捉える、アーバン・ファーミングの魅力を尋ねた。

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