新聞と一緒に焼きたてパンを配達、「くちどけの朝じゃなきゃ!!」がオープン

テキスト:
Miroku Hina
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テキスト:清水美穂子

2019621日、東急田園都市線用賀駅からほど近い商店街に、高級食パン専門店「くちどけの朝じゃなきゃ!!」がオープンした。

食パン専門店ブームの昨今だが、同店は一般的な店舗とは一味違う。新聞販売店が運営し、早朝6時ごろから焼きたてのパンを新聞とともに地域の人たちに配達するのだ。「ASA」用賀・二子玉川を経営する井口忠寿(いぐち・ただひさ)が、新聞販売店ならではの配達能力を有効活用しようと始めた新しい試みだ。食パンを乗せた配達バイクと井口

まずは店頭での食パンの販売がスタート。8月から用賀・二子玉川地域の新聞契約者を優先してパンの配達が始まる予定だ。契約者にとっては、早朝から焼きたての食パンを、家にいながらにして受け取れるうれしいサービスになる。

食パンは2斤サイズが2種類。プレーンの『おめざの幸せ』(900円)は口当たりの良さを重視して、微細粉にひいた小麦粉、国産バターと生クリーム、国産の蜂蜜、宮古島の雪塩を使用している。

ちぎるとふんわりと伸びながらほどけていく生地は、ほのかな甘みがあり、なめらかで柔らかな食感だ。皮(ミミ)が薄いので焼かずに食べてもおいしく、厚切りトーストにも向く。

レーズン入りの『完熟モーニング』(1,100円)は、甘くジューシーなサンマスカットレーズンがアクセントのリッチな味わい。有塩バターを乗せて食べると、そのおいしさが一層際立つ。

毎朝パンと新聞を一緒に楽しめるこのプロジェクトを始めたきっかけを、井口はこう語る。

「本屋も豆腐屋も牛乳屋も、モノを売る商売が次々と姿を消しています。新聞も携帯での購読が始まった頃から契約者数が激減し、折込みチラシはこの販売店を建てた当時の半分以下になりました。

このままではいけないと試行錯誤を繰り返すうち、新聞販売店もパン屋も、朝一番早い職業だということに思い当たったんです」

そこで思い付いたのが、新聞と一緒にパンを届けるサービスだ。朝食の定番として親しまれている食パンならば、はやりすたりも少ないと井口は考えた。人気店の食パンをあれこれ試食するうち、ベーカリープロデューサーの岸本拓也が手がけた店のパンに出合って、心を決めた。

それから、かつて新聞配達員の賄(まかな)いを作っていた地下の食堂をパンの厨房にリニューアルし、社員に製パン研修を受けさせ、準備を進めた。井口の新聞販売店はにわかに活気付いてきた。

同店をプロデュースした岸本は「この店で地域を活性化し、街の価値を高めたい」と語る。話題のベーカリーを多数プロデュースしてきた岸本

震災後の三陸でパン店を開店させるなど、さまざまなプロジェクトを手がけてきた岸本は、以前から高齢化社会の中で店が担える役割を考えてきた。足腰が弱く、毎日パンを買いに行けない高齢者のための配達サービスを思案していたところ、井口と出会い共感した。新聞契約をしている多くは高齢者。用賀は文化度、食への意識の高い人も多い。ミミまで柔らかく口溶けがいいパンは、お年寄りにも喜ばれるだろう。

「新聞を読みながら食パンをかじって、『これじゃなきゃ!!』と思ってもらえるような店にしたい」と岸本は話す。食パンの味も飽きがこないように、濃すぎないギリギリのところを狙った。

新聞に限らず、パン店も客を待つだけでは人が集まりにくくなっている今の時代。高齢化のニーズに応えたデリバリーという付加価値が光る。時代にマッチしたこのようなコラボレーションは今後、需要が増していくに違いない。

くちどけの朝じゃなきゃ!!の詳細はこちら

プロフィール

清水美穂子 ライター・ブレッドジャーナリスト

東京都出身。2001年より総合情報サイトAll Aboutでパンのガイドを務め、執筆活動を開始。伝統文化、職人仕事に興味がある。著書に『月の本棚』(書肆梓)、『BAKERS おいしいパンの向こう側』(実業之日本社)、『日々のパン手帖パンを愉しむsomething good』(メディアファクトリー)他。

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