【特集】日本酒をめぐる旅 関西編

日本酒をめぐる旅 関西編

伏見、灘五郷、丹波など。関西に行ったらぜひ訪ねたい酒造を紹介

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Kirsty Bouwers
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何年もの間、日本酒は廃れていく運命にあると思われていた。しかし、最近になって、特に海外の顧客を基盤に復活の兆しが見えてきた。良い日本酒作りには、良質な米、ミネラル分豊富な水、冬場の寒さはもちろん、確かな技術が重要だ。日本酒作りが盛んな関西は、それらをすべて持ち合わせていると言える。ここでは大規模な工場から少人数の醸造所に至るまで、タイムアウト東京が厳選した2、3日の旅行で行きたいスポットを紹介。大吟醸と本醸造の違いや、醸造工程についてもっと学びたいと思っているなら、ぜひ参考にしてほしい。 

京都、伏見

もし海外の日本食レストランで日本酒を飲んだことがあれば、恐らくそれは『月桂冠』だろう−製造元の月桂冠は1989年にアメリカに支部を設立しているため、実際に日本で製造、瓶詰されたかどうかは疑わしいが。月桂冠は、水がおいしいことで知られる京都の伏見にある酒造で、1637年創業の、世界で最も古い企業のひとつだ。同社が経営する月桂冠大倉記念館(京都府伏見区南浜町247, 電話 075-623-2056)を訪ねれば、日本酒についてより詳しく学ぶことができる。いくつかの言語で説明があり、とても勉強になるだろう。ガイド付きツアー(前日までに要予約)もあり、隣接する小さな醸造所に入ることができる。

いくらか空き時間があれば、伏見の町を散策するのもいいだろう。立派な伝統的な家屋や堀が目につく街並みに時々現れるのは、月桂冠の酒樽が置いてある小さな寺。ここが月桂冠の街であることを実感するだろう。

兵庫、丹波

かつて、丹波の杜氏(酒を作る職人)は、冬になると人手不足の灘の醸造所で酒を造るために旅に出た。そして今日に至るまで、同地の杜氏は尊敬を集めている。しかしこの丹波という地、そう簡単に行ける場所ではない。かなりの田舎で、点在する駅に来る電車は1時間に1本あるかないか。それでも、勇敢な日本酒愛好家にとってはこの地は訪れる価値が十二分にある。

手始めに西山酒造(兵庫県丹波市市島町中竹田1171, 電話 0795 86 0331)に行ってみてはいかがだろう。160年以上の酒造りの歴史を持ち、時代についていくために少しの変化も敬遠したりしない。ここは1年を通して様々な日本酒を生産しており、国内での販売に加え、世界24ヵ国に出荷している。蔵見学(要予約)もあるので、ぜひ参加してみてほしい。

もし時間があるなら、近くの福知山城まで足を伸ばしてみよう。夜は温泉で旅の疲れを癒すのもいいかもしれない。福知山温泉へはタクシーで20分ほどで行けるのでおすすめだ。

兵庫、灘

大阪と神戸の間には、灘五郷と呼ばれる5つの村がある。それぞれ西から、西郷、御影郷、魚崎郷、西宮郷、今津郷と呼ばれ、良質な日本酒の生産地として全国にその名をとどろかす。国内の日本酒の約3割が灘で作られており、日本酒を学ぶのにここ以上に適した地はないだろう。同地の酒造所はあわせて40を超える。酒造を惹きつけるもの、それは信じられないほどミネラルが豊富に含まれた「宮水」だ。六甲山から流れ出る宮水は、辛口の日本酒を生み出す。

キャラの立つ灘五郷だが、特に西部と中央部が恐らく最も面白く感じるだろう。古い酒造所の建物が博物館になっており、散策も楽しい。一方、西宮と今津は特筆すべき観光スポットが少なく、酒造所ツアー(要予約)がごくたまにある程度だ。

灘は丹波と比べてだいぶアクセスしやすい。JR住吉駅から徒歩15分、阪神住吉駅から徒歩5分のところにある、白鶴酒造所資料館(兵庫県神戸市東灘区住吉南町4-5- 5, 電話 078-822-8907)はぜひ行ってみてほしい。外観からはあまり興味をそそられないかもしれない。また、敷地内にある巨大な建物が酒造所と聞けば、伝統的な建物のイメージとはかけ離れていることだろう。しかし、心配は無用だ。低層の建物の中にある、無料の博物館が重要なのだ。醸造工程全体の説明という点では、恐らく筆者が今まで見たなかで最高の展示だと言える。説明と館内で見られる動画は複数の言語に対応しており、またQRコードをスキャンすれば、さらに詳細を知ることができる。今後ほかの酒造所を見に行く際の知識強化ができるだろう。 

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続いて、白鶴から徒歩10分の距離にある菊正宗酒造記念館(兵庫県神戸市東灘区魚崎西町1-9-1, 電話 078-854-1029)を見に行こう。菊正宗は、アルコールの元となる酵母を育てる「酛(酒母)」を、水と米と米麹(こうじ)から手作業で造り上げる昔ながらの製法「生酛(きもと)造り」を継承する、数少ない酒造所のひとつだ。この過程は館内の映像でかなり詳細に説明されている。

ミュージアムショップでは日本酒の試飲に加え、化粧品とスキンケア製品のチェックも忘れずに。酒造家は発酵した麹と酒母(イースト菌)を扱うため、特別に綺麗な肌を持っていると言われる。そのため、多くの酒造所では高品質な保湿液や洗顔料、クリームといった商品も製造している。

浜福鶴は小規模な酒造だが、同社が運営する浜福鶴吟醸工房(兵庫県神戸市東灘区魚崎南町4-4-6, 電話 078-411-8339)は、おそらく灘で最も面白いスポットだ。なぜなら、実際の作業工程を見ることができる唯一の場所だからだ。なんと、発酵中の酒の香りが吹き出るボタンまである。

灘の多くの酒造と同じく、元々の醸造所は1995年の阪神大震災で完全に破壊されてしまった。しかし、地元のコミュニティを再び活気づけ、灘の酒造としての誇りを回復するため、たった1年で奇跡的に操業を再開した。その記念に作られた銘柄が『空蔵(くぞう)』だ。カウンターで試飲が可能なのでぜひ試してみてほしい。そのほかのおすすめはスタッフに尋ねてみよう。

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どんな呑んべえでも、酒ばかり飲んでいては腹は膨れない。東灘地区は工場や住宅街が多くあまり飲食店がないので、腹が減ってきたら駅前まで出よう。おすすめはJR住吉駅の近くの自然派中華クイジン(兵庫県神戸市東灘区住吉南町3-14-12, 電話 078-821-5350)。自然派由来の食材を豊富に使った中華風ランチセット(1,200円)で腹を満たしたい。

西日本を探訪するなら…

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タイムアウト東京 > トラベル > 石見でしかできない10のこと 島根県西部「石見地域」は、日本の歴史や伝統が感じられる素朴な街だ。この特集では、民泊から、2007年に世界遺産となった石見銀山周辺エリア、豊かな自然に恵まれ、日本海の幸が楽しめる石見の食などを紹介する。秋には、豊作を祝う伝統芸能である「石見神楽」も神社などで盛んに行われるので、チャンスがあればこの季節に足を運んでみてほしい。

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