インタビュー:渡辺俊美

音楽、福島、弁当作り……走り続けるその理由とは

作成者: Time Out Tokyo Editors
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インタビュアー:八木志芳
写真:中村悠希

今年の夏に渡辺俊美 & THE ZOOT16として新作アルバム『NOW WAVE』をリリースした渡辺俊美。彼は、Tokyo No.1 Soul Setをはじめ、NHK紅白歌合戦にも出場した猪苗代湖ズやソロなど、幅広い音楽活動を続けている。また、2014年に発売のエッセイ本『461個の弁当は、親父と息子の男の約束。』は漫画化・テレビドラマ化され、先日には『461個のおべんとう』として、井ノ原快彦(V6)、道枝駿佑(なにわ男子)出演で映画化されることも発表された。さらに、2017年公開の映画『パパのお弁当は世界一』では主演を務め、俳優デビューも果たしている。

多方面で精力的に活動する中で、東日本大震災とそれに伴う東京電力福島第一原子力発電所の事故により大きな被害を受けた故郷・福島県でのライブも、定期的に行っている。

それぞれの活動を経て生まれた新作に込められた思い、そして、その活動の先に何を目指しているのか。インタビューでその考えを聞いた。

応援する、から一緒に楽しもう、へ

ーリキッドルームは渡辺俊美さんにとっても思い出の場所なんじゃないですか? 
※本インタビューはリキッドルーム2階のタイムアウトカフェ&ダイナーで行われた。

去年まで毎年Tokyo No.1 Soul Setで年末にライブをしていたからね。新宿時代のリキッドルームのラストはTokyo No.1 Soul Setとゆらゆら帝国のツーマンだったから。しかも2デイズ。その時のゆらゆら帝国のマネージャーが、最近、Tokyo No.1 Soul Setのマネージャーになって。

ー渡辺さんは現在、さまざまな名義で活動されていますが、今年は7月24日に渡辺俊美 & THE ZOOT16としてアルバム『NOW WAVE』がリリースされました。本作が2枚組になったのはなぜですか。

最初は、(インストゥルメンタル中心の2枚目を)初回特典にしようと思っていたんだけど、インストだけで歌がなくても聞けるサウンドに仕上がっていて、それはバンドとしてサウンドを追求した結果だと思います。以前までのZOOT16は僕が中心だったけど、何十年後かのステージを想像したときに、歌よりも音楽を続けていきたい、周囲のミュージシャンと気持ち良く演奏してきたいという気持ちが強くなってきた。

これまではサックス以外は全て自分で作っていたところも多かったけど、今は自分ができない部分をバンドメンバーにも頼りながら作っている。あと、ソロ名義なら弾き語りで十分だし、ユニットならTokyo No.1 Soul Setもある。自分の中で、もう1つの音楽的側面として、バンドという表現の場所を作りたかったというのはあります。

ー今作には、家族や故郷である福島への思いも込められているように感じました。収録曲の『Happy Island』は福島という漢字を直訳したタイトルですよね。

あの曲は、当初ジャズをやりたかった気持ちとメンバーの結婚式に歌う曲を作りたいという思い、そして、リハから生まれたカリプソっぽいアイランドミュージックが合わさって「幸せなソング、カリプソ、アイランド……Happy Island……って福(Happy)島(Island)じゃん!」という風につながっていったんです。


福島への思いは変わらないし、最後に『夜ノ森のカーニバル』も入っている。

JR常磐線の富岡駅(福島県富岡町)〜浪江駅(同浪江町)が2019年度末に再開する時に、駅前でバンドで演奏したいという気持ちがあって。だから、震災から8年経って、しっとりとした曲ではなく、再開を祝うお祭りのような曲にしたくて、サンバっぽい曲調になったんです。

※夜ノ森とは福島県富岡町の地名。桜の名所としても有名で、一部はまだ帰還困難区域となっている。

ーソロ名義のアルバム『としみはとしみ』(2012年発売)に入っている『夜の森』とは全く違う曲に変化していますが、それは俊美さん自身の福島に対する気持ちの変化でもあるのでしょうか。

そうですね。今までは猪苗代湖ズも含めて、福島出身者として「応援する」という気持ちが強かったけど、今は「一緒に楽しまない?」という気持ち。

心境は変わらない部分もあるけど、音楽は進化したい。自分の成長も見せたいし、周囲の成長している人へ向けて「生きていてよかったね、一緒に踊りませんか?」という気持ちを表現したかったんですよ。

あと、ここ1年で「怒らないでいよう」って思うようになたんですよ。例えば原発についても、レベルミュージックを用いて意思表明していた部分もあって。それはそれで大事なことなのだけど、ノーを突きつけるなら、こちらにも提案できるものがないといけない。その考えの究極が「怒らない」こと。怒らない方がコミュニケーションがとれるし、怒りからは何も生まれないですからね。それは、子育てから学んだことでもあります。

活動を続けることで、再会や交流の場が生まれる

ーアルバムには、MC、トラックメイカーであり、渡辺さんの息子でもある、ぎぎぎのでにろうさんが参加されていますよね。

息子には俺にできないことができるし、若いから若いなりの視点もあって、息子ながらに尊敬できる部分はある。親子の関係ってただでさえ難しいものだけれど、一緒に作品を作るとなるとさらに難しい。そういう部分も含めてメッセージになるかなと思っています。

ー今回の作品は、2018年に立ち上げられた自主レーベルから出されていますが、レーベルを主宰するようになって変わったことはありますか。

他人のことを考えるようになったかな。大竹涼華ちゃん(福島県出身のシンガーソングライター)のアルバムもうちから出したけど、福島の人にかかわらず、世の中に紹介したい人がいっぱいいて、いろいろと構想を練っているところ。僕は、今まで好きなことをたくさんしてきて、自分のキャリアについては満足しているんです。だからこれからは人の役に立つことをしたいと思っていて、そのために自分のレーベルがあれば動きやすいかなと。

ーアルバムを出したばかりですが、次に挑戦したいことはなんでしょうか。

いろいろなアーティストをプロデュースしたいし、渡辺俊美という名前を出さずに作品をリリースすることもやってみたいです。Daft Punkみたいに覆面をかぶって、とか。

誰もやっていないことをやりたいというのは常に頭にある。才能あるミュージシャンとか息子とか、自分のできないことができる人と一緒に取り組んで、刺激を受けて、自分自身をもっと成長させていきたいです。

あと、お弁当は極めたいかな! TOSHI-LOW(BRAHMAN)もお弁当の本を出したしね。お弁当に関する活動は、僕のことを知らない世代の人に知ってもらうためにも重要だし、誰かのために作るお弁当や食事って思いが込もるから面白いんですよ。

誰かのために何かを作るというのを大切にしていきたい。映画監督のウディ・アレンが好きなんだけど、彼は毎年何かしらの作品を発表している。彼のように調子のいい時でも悪い時でも常に考えて、毎年一つは何かしらの作品を出したい。

活動を止めてしまったら、会えなくなってしまう人がいるんですよ。この前、小さなフェスに出演するために3年ぶりに愛媛県の松山へ行ったんです。僕が久しぶりに会う人がいる一方で、僕を通じて久しぶりに会う人もいる。そういうのを見て「続けてよかったな」と思います。

ー活動を続けることで、再会や交流の場が生まれるんですね。

僕は「歌いに行っている」のではなく「会いに行く」と思っている。震災が発生した後、仮設住宅を回っていたこともあったんだけど、その時は、まずそこにいる人たちの話を1時間ぐらい聞くのね。

「で、あなたは何をしている人なの?」って聞かれたら「ミュージッシャンなので歌っていいですか?」と言ってギターを出してきて歌う。そしてお互いに「ありがとう」と言う。これが音楽をする上での基本というか、根本なのかなと。これからどんなミュージシャンが世に出てくるか分からないけれど、自分の音楽を残したいなら、人との交流を続けていってほしいなと思います。


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渡辺俊美 & THE ZOOT16の公式サイトはこちら

渡辺俊美

1966年12月6日 福島県川内村生まれ 富岡町育ち。

TOKYO No.1 SOUL SETのギター、ボーカル、サウンド・プロダクション担当。同バンドと並行してソロユニットTHE ZOOT16でも活動中。また、2010年9月に、同じ福島県出身である山口隆(サンボマスター)、箭内道彦(クリエイティブ・ディレクター)、松田晋二(バックホーン)らとともに猪苗代湖ズを結成し、2011年3月に東日本大震災のチャリティー曲『I love you & I need you ふくしま』を録音し、第62回NHK紅白歌合戦に出場。

当時高校生の一人息子の長男のために3年間にわたって作り続けた弁当が話題となり、これを記録したエッセイ『461個の弁当は、親父と息子の男の約束。』として2014年に出版した。 2015年にはこのエッセイが漫画化、および『461個のありがとう。 〜愛情弁当が育んだ父と子の絆〜』のタイトルでテレビドラマ化され、音楽もバンド名義で担当。

Let's天才てれびくんに、福島どちゃもん・さすらかすら役で声の出演。

2017年公開の映画『パパのお弁当は世界一』では、俳優デビューにして映画初主演を務めた。

インタビュアー

八木志芳  
ラジオDJ、ナレーター。大学卒業後、IT企業・レコード会社を経て、ラジオ福島にてアナウンサー、ディレクターとしてのキャリアをスタート。Tokyo FmグループのMUSIC BIRDを経て現在は関東を拠点にフリーのラジオパーソナリティー・ナレーターとして活動。FM PORT「LIKEY」MC、FM FUJI『SUNDAY PUNCH』レポーター出演中。

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