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インタビュー:オリィ研究所・吉藤 健太朗

世界初、障がい者らが接客する「分身ロボットカフェ」開催への思い

テキスト:
Miroku Hina
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インタビュー:日南美鹿
撮影:豊嶋希沙

11月26日(月)、障がい者らがロボットを遠隔操作して接客する世界初のカフェ、「分身ロボットカフェ DAWN ver.β(ダーン バージョンベータ)」が港区の日本財団ビルに期間限定でオープンする。開催期間は障害者週間に合わせ、12月7日(金)までの2週間(土日は除く)。ロボット開発を手がけるオリィ研究所(港区)、日本財団、一般社団法人分身ロボットコミュニケーション協会の協働開催だ。 

ALS(筋萎縮性側索硬化症)患者や脊髄(せきずい)損傷者など、重度の障害を抱える人はこれまで就労者の対象として考えられていなかった。しかし、期間中はそうした障害を抱える人々約10名が、交代で分身ロボット「OriHime-D(以下オリヒメ-D)」を遠隔操作し、注文をとったり、コーヒーを出したりするなど、カフェでの接客に応じる。寝たきりになっても、社会に出て働くことができる可能性を示す、実験的な試みとなる。

本イベントを企画したオリィ研究所は、カフェ開催を通して、どのような未来を見据えているのだろうか。同研究所代表であり、ロボット開発者でもある吉藤健太(よしふじ・けんたろう)に聞いた。 

カフェはある種の「公開実験」

カフェはある種の「公開実験」

−カフェでは、どのような人がロボットを操作するのでしょう。

操作者は、あらゆる理由で外出困難だった人を対象に募集しました。ASLやキンジストロフィーなどの難病を抱える人のほか、精神的な理由で外出が難しい人など、様々です。遠隔操作が可能になるため、最も遠距離では、島根県から操作する人もいます。

今回、ロボットを操作する人全員に共通しているのは「働きたい」という強い意志です。例えば事故で突然体が動かなくなったら、在宅でできる仕事は限られてしまいます。しかし、今回ご紹介するような遠隔操作があれば、自分にもいろいろできる、と感じていただけたと思います。

 

−カフェ開催を通して、期待することは。

今回のように、重度障がいを持つ人たちがロボットを遠隔操作して客をもてなすのは、前代未聞の試みです。ロボットたちのチームワークや、SNSを使用したチームでの反省会などがうまくいくのかなど、まさに実験だらけ。ある種の「公開実験」でもあり、ある意味では、ロボットを操作する人が、カフェ運営でどのようなところにつまづくのかという「失敗」を発見することこそ、大きな学びになるでしょう。今回の開催で、膨大なデータが溜まると思うので、それを次のステップにつなげて行きたいですね。 

そして、ロボット操作をしてくれた人が楽しく働けたかというのも、大事なポイントです。重度の障害を抱える人は、障害者受給などの給付もあり、給料のために就労したい、という人は少ないのかもしれない。しかし、誰かの役に立ちたいという思いがあるから働くわけで、そこを楽しくできないと、カフェの開催自体が無意味になります。

 

—全身型ロボットのオリヒメ-Dを開発されたきっかけは。

昨年に亡くなりましたが、私には、番田という親友で、かつ我社の秘書も務めた男がいました。彼も交通事故による脊髄損傷のため、首から下は動かせず、オリヒメを使って出社していました。そんな彼とは、将来的には卓上型や、持ち運びに便利な小型のものなど、様々な形のオリヒメを製作し、使い分けるようになるだろう話していたんです。

彼は食事面でのサポートが必要でしたが、自分の代わりに動かせる分身ロボットがいれば、食事を自分の口に運んだり、誰かを出迎えに行くなど、できることが増える。すると、自分の介護も自分でできる日が来るかもしれない。そんな思いから120cmのオリヒメ-Dは生まれました。

そのように分身ロボットがもっと普及すれば、自分の分身を世界各地に置いて、瞬時に移動して仕事をしたり、車輪をつけて本来の自分よりも早く走ったり、生身の体以上のことができるようになるかもしれませんよね。

目指しているのは、福祉ではなくSFとしてのサイボーグ

目指しているのは、福祉ではなくSFとしてのサイボーグ

−ある意味で生身の人間よりも、万能になる日がくるかもしれないと。

はい、番田も、体は動かせませんでしたが、だからこそ、電車に乗ったて移動したり、着替えたりする必要もなく、オリヒメを使って瞬時に出社できました。つまり、オリヒメを用いることは「福祉」という枠組みではなく、SFなんです。

現状の「福祉」とは、問題なく生活できる健常者に対して、障がい者が足りていない部分にフォーカスし、補うこと。足りていない部分を埋めようとしている限りは、イノベーションが起きて社会が進歩すればまた差が開き、永遠に追いつけません。

しかし、テクノロジーの力を借りれば、健常者すら超える効率性や、能力が発揮されることがある。パラリンピックでも、先進的なサポート器具を使った場合には、オリンピックを凌ぐ記録が出ることがありますよね。将来的には、健常者も器具を身に付けたいと考える日さえ訪れ得ると思います。 

だから我々が目指しているのは現在の福祉の形や、健常者のように「普通」になることではなくSFとしてのサイボーグを世に作り出すことなんです。

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今の当たり前は、50年前はそうではない

今の当たり前は、50年前はそうではない

例えば、50年前にタイムスリップすれば、当時の人は自分たちのアナログな作業をきっと「不便」とすら感じていないでしょう。それと同じで、寝たきりの人はそのまま毎日を過ごすというのが、今の一般的な考えかもしれませんが、20年後にはそれも大きく変わっているかもしれない。

テクノロジーという手段を用いて、視野を広げれば、不可能が簡単に可能になりうるんです。何か不自由なことがあった時、「我慢や大変な努力で乗り切る」という旧来の概念を壊していくのも、テクノロジーに携わる者としての使命だと感じています。

 

−寝たきりだと住む世界が限られるという考えは、まだ当然のようにありますね。

「そのままでもしょうがいない」といったあきらめが、人を殺しているのです。多くの人は、ALSの患者さんが日本に1万人いることも、そのうちの3割しか、延命に必要な呼吸器をつけないことも、ご存知ないでしょう。そして、呼吸器をつけた3割の人の多くも家から出ることができず、「家族に迷惑かもしれない」という思いに苦しみ、自殺を望んだとしても、その権利すらも奪われている。そういった現状が、海外から残酷であると指摘されていることも、あまり知られていません。 

日本は長寿大国だと言いますが、いま健常な人もいつ寝たきりになるかはわからない。そして、そうなった後もポシティブに生きられるという希望を抱けるようなロールモデルがないんです。だからこそ、あきらめないということはとても大事です。オリィ研究所は、カフェの開催後も、働きたいという意欲がある人は引き続き募集していきますし、職種もカフェだけではなく、観光案内所や、企業の受付など多様に展開したいと考えています。

そうすれば、たとえ呼吸器をつけたままでも、社会と関わって行けるでしょう。働いて給料をもらい、逆に健常者すら羨むような仕事ができることが理想です。 

これからは心の時代

これからは心の時代

−吉藤さんをここまで動かす原動力は何でしょう。

私は学生時代に引きこもりを経験して、天井だけを2週間、眺め続けていたことがあります。そんなことはもう二度としたくないという思いは、強いモチベーションのひとつですね。

私のやりたいことは、孤独の解消なんです。そのためには、コミュニテイーの中で自分の役割を自覚し、必要とされていると感じられることが大切です。地球には何億もの人がいますが、実際に親しくなれるのは、自由に行動できる私たちですら、ほんの一部の人とです。外出困難な人にとっては、そのパイがさらに減る。

では、外出せずにどうやってコミュニティに参加し、必要な存在になり、自信を得て、新しいことにチャレンジしたいという生きがいが芽生えるのか。尊厳死を選ぶALSの患者さんたちが、どうすれば尊厳をもって、死ぬ瞬間まで自分らしく生き続けることができるのか。それが私の研究テーマです。

 

−伝えたいメッセージはありますか。

番田はずっと、「これからは心の時代」だと言っていました。体が資本という考えだと、体が動かなくなった途端、絶望してしまう。そして、いくら体が動いていたとしても、忙しさに追われ、心が病んでしまうこともあります。ですから、「体が動くか否かに関わらず、心をどれだけ自由にしていられるかが大切なんだ」と話していました。

今回のカフェの開催で、寝たきりの人に、体に縛られるのではなく、体から解き放たれて、どこにでも行けるのだと感じてもらえたらうれしいです。訪れた人にも、寝たきりでもこんな働き方があるんだということを、示せると良いですね。

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働く日本計画!「分身ロボットカフェ DAWN ver.β」

日時:11月26日~12月7日 13:00~17:00 ※土日休

場所:日本財団ビル1階(東京都港区赤坂 1-2-2)

・チケット代金 1人1,000円

・当日チケットは27日の12時〜販売(26日はクラウドファンディングに参加者への限定公開)

・入店は1時間交代制。13時、14時、15時、16時からそれぞれ受付

・カフェエリア以外でも、分身ロボット「OriHime」や、視線入力PC「OriHime eye」の体験などもあり

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