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Photo: Jasmina Mitrovic | Tanpopo Pachinko
Photo: Jasmina Mitrovic

東京、リミナルスペース9選

映画『バックルームズ』から飛び出してきたような奇妙な「レベル」を体験

Jasmina Mitrovic
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一度も訪れたがないはずなのに、「この場所、前にも見たことがある」と感じたことはないだろうか。誰もいないホテルの廊下、夜の公園、利用者のいない屋内プールに浮かぶ青い光。何か恐ろしいものがあるわけではない。むしろ、どこか妙に心地よく感じることさえある。それでも、何かがおかしい。長くそこにいると、その心地よさは少しずつ不穏なものへと変わっていく。

「バックルームズとは?

インターネットをよく利用する人なら、こうした場所を「リミナルスペース」や「ドリームコア」、あるいは「バックルームズ」と表現するのを見たことがあるだろう。これらの言葉には重なる部分もあるが、それぞれが全く同じ意味というわけではない。

建築や人類学において「リミナル(liminal)」とは、ある場所から別の場所へ移る境界、つまり「間」にある空間を指す。インターネット上では、その定義はより曖昧になっている。廊下や待合室、駅のような実際の「移行空間」と捉えられることもあれば、本来そこにいるはずの人々がいないことで、見慣れた場所が不気味に感じられる空間を意味することもある。

ドリームコアは、子どもの頃の記憶や夢の奇妙な論理に、より重点を置く。遊び部屋、人工の雲、どこまでも続く野原、実際に経験した記憶がないのに懐かしく感じる古い写真などが、そのイメージだ。バックルームズは、そこにある感覚をさらに一歩進め、二度と抜け出せないかもしれない場所へと変えてしまう。

もちろん、何をバックルームズの「レベル」と捉えるかは人によって異なる。ある人にとってはバックルームズでも、別の人にとっては古びた公民館に過ぎないかもしれない。重要なのは、厳密なルールに沿っているかどうかではなく、その感覚にある。どこかで見たことがある気がするのに、はっきりと思い出せない。心地よさと不安が入り混じり、見えている先にも空間が続いているような気がする。そうした感覚こそがバックルームズなのだ。

映画『バックルームズ』
© 2026 Backrooms Rights LLC, PC Films, LLC. All Rights Reserved.映画『バックルームズ』

バックルームズの始まりは、窓のない部屋を写した1枚の写真だった。染みの付いたカーペットや黄色い壁紙、蛍光灯が並ぶ天井は、これ以上ないほどありふれている。それなのに、部屋を仕切る壁はどこにもつながっていないように見える。この画像は既にネット上で出回っていたが、2019年5月、海外の匿名掲示板「4chan」のスレッドに「ただ何となく不穏に感じる画像」を投稿するよう呼びかける書き込みとともに登場した。

ある匿名ユーザーは、この部屋にまつわる物語を付け加えた。現実から誤って「ノークリップ」してしまえば、そこにはバックルームズが広がっている。湿ったカーペットとブンブンとうなる照明に囲まれ、何百万マイルも続く空間に閉じ込められる。そして、さらに恐ろしいことに、そこには自分以外の何かがいるかもしれない。

優れたインターネットフォークロアの多くがそうであるように、誰も物語を所有していなかったからこそ、誰もがそこに何かを加えることができた。新たなレベルや脱出ルート、敵対的な「エンティティ」が次々と考案され、黄色い部屋一つだった世界は、始まりも終わりもない巨大な共同創作の世界へと広がっていった。廃オフィスやホテルのようなレベルもあれば、水没した廊下、無人の住宅街、現実にはあり得ない野原、半分しか覚えていない子どもの頃の記憶から再構成されたような屋内遊び場が広がるレベルもある。

そして2022年1月、当時オンラインで「Kane Pixels」の名で知られていた16歳のVFXアーティスト、ケイン・パーソンズ(Kane Parsons)が、YouTubeに『The Backrooms (Found Footage)』を投稿する。BlenderとAdobe After Effectsで制作されたこの短編では、カメラマンが一見すると果てしなく続く迷路へと落ち、静寂が安全を意味するわけではないことに徐々に気づいていく。パーソンズはその後、謎めいた研究組織が空間へのアクセスと調査を試みる設定を加え、ウェブシリーズへと発展させた。

これによって、実際の映画が存在するより前に、この世界観にはすでに「映画」が生まれたようなものだった。やがてバックルームズはTikTokの一大美学へと発展し、サブカルチャーの枠を超えてメインストリームへ広がっていった。

映画『バックルームズ』
© 2026 Backrooms Rights LLC, PC Films, LLC. All Rights Reserved.映画『バックルームズ』

東京のバックルームズ

何を探せばいいのか分かるようになると、東京はこの美学を楽しむにはうってつけの場所に見えてくる。戦後の復興、高度経済成長期の野心、平成初期のデザインが重なり合い、まるで先週未来からやって来たかのような建物と今も隣り合っている。他の場所では姿を消した色や看板、素材をそのまま残す建物も多い。

都心を離れると、その感覚はさらに強くなる。地方のリゾートや郊外の娯楽施設、年季の入ったショッピングセンターには、空間の広さ、偶然に保たれてきたデザイン、そして何よりも「人がいない」という、東京ではなかなか得られない条件が揃っている。東京にも理想的な建築はたくさんあるが、問題は訪れるタイミングだ。16時に公園へ行けば、ただの公園。朝食前のまだ青みがかった静かな時間に戻ってくれば、いつ始めたのかも覚えていないゲームの最終レベルのように見えてくる。

映画『バックルームズ』
© 2026 Backrooms Rights LLC, PC Films, LLC. All Rights Reserved.映画『バックルームズ』

ここでこうした話をしているのには、理由がある。パーソンズが作り上げた世界が、2026年9月4日に日本で公開されたのだ。A24が制作した映画『バックルームズ』(Backrooms)では、家具店の地下で奇妙な扉が発見されたことをきっかけに物語が展開する。キャストにはキウェテル・イジョフォー(Chiwetel Ejiofor)やレナーテ・レインスヴェ(Renate Reinsve)らが名を連ねる。パーソンズはまだ10代のうちから映画の開発に取り組み、北米興行ランキングで初登場1位を記録した作品を監督した、史上最年少の映画監督となった。

既に耳にしているかもしれないが、『バックルームズ』は北米で8,150万ドル(約126億円)、世界で1億1,800万ドル(約183億円)の興行収入を初週末に記録し、A24作品として過去最高のオープニング記録を打ち立てた。匿名の4chan投稿から始まり、YouTube動画やファンWiki、そして黄色い部屋について考えるのをやめられなかった人々が作ったゲームを通じて広がったものとしては、驚くべき飛躍だ。

これは、今の文化がどのように広がっていくのかについても多くを物語っている。インターネット上の都市伝説には、何十年もの歴史も、既存のハリウッドフランチャイズも必要ない。同じ「何となく不気味」という感覚を何百万人もの人が共有するだけで、十分な場合もあるのだ。

アナログホラー、子どもの頃のノスタルジー、あるいは色彩豊かな悪夢のような世界観。どんなスタイルのバックルームズが好みでも、東京周辺にあるこれらの場所を訪れれば、現実から「ノークリップ」することなく、その世界に入り込んだような気分を味わえるだろう。

「辰巳の森海浜公園」の広々とした芝生や運動場は、人がいないとまるでコンピューターで生成されたように見える。

平らな芝生、等間隔に並ぶ木々、遠くにそびえる集合住宅が地平線まで続き、空間のスケールを測る手がかりはほとんどない。近くにはパンダを模した小さな構造物が数十体並び、巨大な赤いタコの滑り台もある。のどかな公園というより、どこかゆがんだ子どもの頃の夢のような雰囲気だ。

ここは、訪れる時間によって場所の印象が大きく変わることを実感できる場所の一つ。晴れた週末なら、家族連れやランナー、スポーツチームが思い思いに利用している。日の出ごろ、あるいは遊具から人がいなくなった遅い時間に訪れると、色鮮やかな遊具が『不思議の国のアリス』の一場面のように見えてくる。

2020年にオープンしたばかりなのに、「ゲームセンター タンポポ」はまるで「遊べるタイムカプセル」のような場所だ。長く一般のホールから姿を消した昔のパチンコ台を並べ、昭和時代のパチンコ店の雰囲気を再現している。

店内には軍歌が流れ、スタッフが昔ながらの大当たりアナウンスを再現。青いベルベットの椅子の横には、銀色の玉が入った受け皿が並ぶ。景品交換は行っていないため、賭博ではなく時間制のゲームセンターとして楽しめる。パチンコを一度も触ったことがなくても、時間分の料金を支払えば、スタッフに遊び方を教えてもらえる。

台が光り、ベルが鳴り、玉が次々と受け皿に流れ込む。それでも、この空間全体が、古い写真や映画の中でしか見たことのない日本の一時代に属しているように感じられるだろう。元祖バックルームズの空っぽの黄色い廊下とは全く違い、にぎやかで明るい空間なのに、そこには「自分がいない間も、別の世界が動き続けていた」ような感覚がある。

台の列を広く撮影したいなら、平日の開店直後がおすすめ。ただし、店内の騒音や人の動きも雰囲気の一部なので、そこも含めて楽しみたい。撮影をする場合は、スタッフに確認し、他の利用客が写り込まないよう配慮しよう。

※10〜20時/定休日は水曜

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足立区の静かな住宅街を抜けた先、普通の住宅に挟まれるようにして、鮮やかなピンク色の家が現れる。「あさくら画廊」のほぼ全ての目に入る場所には、アーティストの辻修平による作品が飾られている。丸い顔、大きな目、小さな体、そして「かわいい」と「責められている」の間にあるような表情――。

中に入ると、その数はさらに増える。壁や天井、家具、そして部屋に詰め込まれたさまざまな物の上まで、作品で埋め尽くされている。キャラクターが1体だけなら愛らしい。ところが何百体もから一斉に見つめられると、独自のルールが存在するレベルに入り込んだような感覚になる。ただし、そのルールを誰も説明してくれない。

人のいない駅の廊下とは違い、ここで感じる不気味さは偶然生まれたものではない。人のいない駅の廊下とは違い、ここで感じる不気味さは偶然ではなく、生み出されたものだ。世界そのものが意図的に作られている。それでも、そこにはノスタルジーやユーモア、そしてかすかな不安が混ざり合う。最初に入った時は、きっと笑ってしまうだろう。しかし、数分その場にいると――。

撮影には別途条件や料金が設定されているため、個人的なスナップ写真以上の撮影を予定している場合は、事前にギャラリーへ問い合わせたい。

※9〜18時/休廊日は水曜/料金は1,000円、小・中学・高校生600円

芝浦で1973年から営業を続ける「東京ポートボウル」は、長い歴史をそのまま魅力に変えている。7階のボウリングフロアには、色の組み合わせ、幾何学的なレーン、レトロなディテールが混在し、ノスタルジーを演出するために作られたセットよりもはるかに魅力的だ。黄色い照明に照らされたボウリングポスターの並ぶ奥の廊下さえ、一つのレベルのように見える。

今も現役のボウリング場であることが、むしろこの空間の魅力を際立たせている。人の少ない状態で撮影したいなら、平日の開店直後を狙い、事前にリーグ戦や大会の予定を確認しておくといい。

※10時〜23時30分(日曜・祝日は22時30分まで)/受付は閉店30分前まで

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1988年に開館した「夢の島熱帯植物館」は、3つのドーム型温室に滝や巨大な葉を持つ熱帯植物が広がる施設。メインの温室も魅力的だが、より奇妙な雰囲気が漂うのはその周辺である。曲線を描く連絡通路、年代を感じさせる案内表示、どう見てもこの世界のものとは思えない教育展示エリアの植物、そして突然現れるぬいぐるみ――角を曲がるたび、新たなレベルの入り口に立ったような気分になる。

小さな劇場で行われる映像上映も、何が始まるのか分からなくてもぜひ観てほしい。薄暗い照明と公共施設らしい雰囲気だけでも十分に楽しめる。この他、熱帯植物と日常生活との関わりを紹介する展示もあり、ココナツに関する情報が驚くほど充実している。かわいらしく、しかもかなり安価なギフトショップもある。

人のいない廊下を楽しみたいなら開館直後がおすすめ。あるいは最終入館時間の少し前に入り、時間に追われずにドームを順番に巡るのもいい。

※9時30分〜17時(入館は16時まで)/料金は250円

「東京タワー」の近く、周囲のオフィスビルやマンションの間に巨大な黒いピラミッドがそびえ立っている。「霊友会」の本部・礼拝施設である釈迦殿だ。傾斜した花崗岩(かこうがん)の壁、厳格な幾何学形状、巨大な共有空間には、写真では伝わりにくい物理的な重みがある。美しく、威圧的で、いつの時代の建物なのか分からなくなるような感覚を覚えるだろう。

外観や一般に公開されているエリアを訪れることはできるが、廃虚のような感覚を楽しむ場所ではない。霊友会は訪問者を受け入れているほか、一般向けのプログラムや、外国人住民を対象とした無料の日本語教室も実施している。

主要施設へのガイド付き入場には制限があるため、立ち入り禁止の場所へ入らないよう、事前に問い合わせておきたい。人の少ない景色を見たいなら、朝早い時間がおすすめ。ただし、現在も使われている礼拝施設であることを忘れず、声を抑え、スタッフの指示に従い、内部を撮影する際は許可を取ろう。

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バックルームズの中でも「Poolcore(プールコア)」寄りの、白いタイルや水に囲まれた無機質で幻想的な空間が好きなら、銀座にある「SPA&SAUNA コリドーの湯」はかなり近い。建築家・今井健太郎が手がけた浴場エリアには、青い照明、反射するタイル、整然とした幾何学的なラインが用いられ、CGで描かれた空間の中で入浴しているような感覚を生み出している。

浴場内での携帯電話やカメラの使用は禁止されているため、コンテンツのためではなく、自分だけの記憶として楽しんでほしい。

※11〜翌9時/料金はコースにより異なる

  • アート
  • 三鷹

荒川修作とマドリン・ギンズ(Madeline Gins)が2005年に完成させた9戸の集合住宅で、「死なないための住宅」の実験として造られた。球体や立方体、筒状の構造がぶつかり合うように組み合わされ、建物は14色で彩られている。内部には、傾斜した床、垂直に伸びるポール、通常の住宅にはない角のない部屋などがあり、身体感覚を揺さぶり、無意識に空間を移動することを妨げるよう設計された空間だ。

想像し得る限り最も楽しげなバックルームズのレベルに見えるかもしれないが、ここは今も人が暮らす集合住宅だ。外観は公道から眺めるか、利用できる場合は正規の見学ツアーを予約しよう。

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9. 東京の地下鉄駅

必ずしも特定の目的地へ行く必要はない。東京の地下鉄網には、タイル張りの廊下、繰り返し現れる柱、蛍光灯に照らされた乗り換え通路、そして先の見えないエスカレーターが十分過ぎるほどある。独自のファンWikiを作れるほどだ。

特にその雰囲気が強まるのは、始発前や終電後など、何千人もの人を運ぶために作られた駅がほとんど無人になる時間帯。ただし、無人のホームを撮影しようとして終電を逃すのはやめておこう。

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