ーなるほど。ご両親はどういう教育だったんですか。
そのまんまの教育。それに感謝してるかな。
ー勉強しろとかもなく。
ないね、ゼロ。直接聞いたことはないんですが、親父が何かの雑誌でインタビューされたときに2つだけ言ってましたね。「子どもっていうのは、親の言うことを聞かない。親のすることをする。俺は子どもの邪魔はしない」って。これがうちの親父の教育方針。で、僕はあーせい、こーせいって言われたこともないし、親子喧嘩が一度もない。それから、僕に反対したことも1度もないです。子どもに対して反対も賛成もないです。
ー賛成もないんですか。
お前が決めろだけですね。
ーアドバイスも。
聞けば答えるけど、聞かない限りないです。
ーなるほど。
それから、親父が泣いてる姿、愚痴ってる姿、人の悪口を言ったりと芯を乱してる姿は一度も見たことがない。まさに言ってることとやってることにブレがひとつもないわけですよ。ただ、しつけは厳しかったよ、物凄い。すごい厳しかったけど、でも怒られることはなかったな。だから僕が何をしようが、学校から悪い成績を持ってこうがなにも言わない。親の恐れを子どもに植え付けなかったっていうのがポイントです。恐れっていうのは、「お前勉強できなくて将来どうするんだ」、「お前大学に行かなくてどうするんだ」、「ヨットなんかやって食えんのか」という親の心配ね。心配が募ると恐れになる。心配=愛じゃないんだよ。だから勉強ができなくても僕は恐れないわけよ。勉強ができなくて大変なことになるぞって言われたことないから。ただ、人のせいにはするなって言われたんだよ。将来勉強できなくてお前が困っても絶対人のせいにするなよって。それで、さすがの俺も「分かった、人のせいにしない、これからも遊ぶ」ということでそれからもバーって遊んで。いっこうに成績は上がらなかったんだけど、ここでもう一つポイントがあるんだよ。親父は一言も言わなかった。ほとんどの親っていうのは好きにしなさい、勝手にしなさいって言ってるんだけど態度が言ってない。好きにすると怒るわけ。親っていうのは未熟なんだよ。自分がこうなったらどうしようという自分の恐れを抑えられない。それで子どもに言っちゃうんだよね。そうすると子供は親の影響力があって恐れるわけ。「勉強しなかったら自分はダメな人間なんじゃないか」ってなっちゃう。だから勉強できなくて落ち込んじゃうわけ。でも俺は勉強できなくても毎朝一番に学校行ってたんだよね。もう楽しくてしょうがなかった。好きだったのよ。勉強できなくても俺の中に恐れはないんだよね。英語ができなきゃ海外行けないなんてないよ、俺世界何周もしてるよ。
ー本当ですよね。
フランス語分かんなくたってフランスの女性と付き合ったよ。だから恐れないんだよね。うちの親父は尊重してくれたの、子どもの生き方を。そうすると、こんな男ができるわけ。
ーそれでは最後に、日本人としてヨットをやっている価値というか日本人だからこそというのはありますか。
あのね、師匠もそうだけど東洋の思想で戦おうと思ってるのよ。前回2位になったときも、師匠が優勝したときにもそれがあって。何かを征服しよう、成し遂げようというより一体感を僕は目指しているんだよね。地球との一体感。これ非常に東洋の思想なんですよ。たとえば西洋人に水っていったらH2Oなんだよ。物質だよね。でも東洋人っていうのは水のあり方を考える。上善如水ってあの老子の言葉ね。水がなきゃ暮らせないし、水は決して争わない。岩に穴をあけるくらいの勢いもある。でも、人の嫌がる一番下を流れるわけ。ただの物質としてだけじゃなくて、そこまで感じることができるのは東洋の思想だよね。テクノロジーはやっぱりフランスがナンバーワンですよ。それは僕とても大好きなの。ただ、思想は東洋の思想で戦いたいなと思ってるね。そっちのほうが気持ち良いし。それがほかのスキッパーとはちょっと違うところかな。