リアルな声と考える台湾進出の鍵

日本人目線で補わないことが大切。台湾進出で失敗しない秘訣とは

テキスト:
Shiori Kotaki
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毎回多彩なゲストを迎え、様々なテーマで意見を交わすタイムアウト東京主催のトークイベント『世界目線で考える』。過去3回の開催も大好評だった台湾編の第4弾が2月28日、恵比寿のタイムアウトカフェ&ダイナーで開催された。今回は、FUJIN TREE GROUPのCEO(執行長)の小路輔を講師に迎え、「台湾進出で失敗しないためにはどうすれば良いのか」というテーマで、熱いトークが繰り広げられた。


小路輔(こうじ たすく) プロフィール
FUJIN TREE GROUP CEO / 執行長
1979年埼玉県生まれ。2002年よりJTBグループでインバウンドやビジットジャパン関連の業務に従事する。2012年よりスタートトゥデイにてZOZOTOWN・WEARの海外事業を手掛ける。観光庁「VISIT JAPAN! VISIT ZOZOTOWN!(官民連携事業)」などを実施。経産省「越境電子商取引(越境EC)連絡会議」などに参画する。2014年にFUJIN TREE TOKYOを設立するともに、FUJIN TREE GROUPのCEO(執行長)に就任。台湾最大級の台日カルチャーイベント『Culture & Art Book Fair』『Culture & Coffee Festival』をオーガナイズするなど、日本と台湾のカルチャーやライフスタイルの交流をテーマに活動中。2016年、台北市富錦街における「地域・コミュニティづくり」でグッドデザイン賞「グッドデザイン・ベスト100」を受賞

イメージできるから、失敗する

FUJIN TREE GROUPについて知っている人も多いかもしれないが、まずは彼らがどんな仕事をしているのか簡単に紹介したい。FUJIN TREEの仕事は、大きく3つある。1つ目は、カフェやレストラン、アパレルショップ、ギャラリーなど、10業種10店舗の経営。2つ目は、ウェブマガジン「haveAnice」、オンラインショッピングサイト「haveAnice…Shop」の運営と、『Culture & Art Book Fair』や『Culture & Coffee Festival』などのイベントの企画運営。3つ目は、日本や中国、欧米から来る企業の視察、アテンドの対応と、プロデュースの仕事だ。今回の話では、この3つ目の仕事がキーとなる。

2017年、FUJIN TREEが視察とアテンドの対応をした企業は301社。その先の仕事に繋がったのは66社だった。プロデュースの仕事は、2016年が6件だったのに対し、2017年は34件になったそうだ。ここで覚えておいてほしいのが、「プロモーション」ではなく、「プロデュース」であること。

というのも、FUJIN TREEとして、カフェやレストランなどを展開するときのプロモーションはどれも成功していたのに、それを日本の企業や自治体の「プロモーション」として実施するとなかなか台湾のユーザーには刺さらず、思ったほど上手くいかなかったのだという。小路は、この「上手くいかなかった」というところに、日本の企業や自治体が台湾展開する上でのヒントがあるのではと話した。

成功した例と、上手くいかなかった例では一体何が違ったのか。簡単に言ってしまうと、FUJIN TREEが全体をプロデュースしているか否かだ。たとえば、FUJIN TREEが日本食のレストランをやるとしよう。当たり前だが、全てを自分たちで判断して、決定し、店を作り上げていく。しかし広告会社やクライアントなど、日本の誰かのプロデュースが入ってくると、だんだん現地の人と噛み合わないところが出てきてしまうのだ。これに対して小路は、「台湾人目線で日本からプロデュースするのは、すごく難しいこと。僕は、多分世界中で一番難しいのではないかと思います。難しいと考える理由は、近いから。距離的にも近いので、2017年は450万人が台湾から日本に来ているんですよ。全人口が2300万人しかいないうちの450万人が来ちゃっているんです。それが毎年繰り返されたら、やはりほかのマーケットとはアプローチの仕方を絶対変えないといけないですよね」と語った。

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近いがゆえに、さらにネックになってくるのが、日本人が台湾をイメージしやすいということだ。日本に来る台湾人が多いように、距離的な気軽さから、台湾に行ったことがある日本人も多いだろう。台湾を特集した本も、本屋やコンビニで目にしないことの方が少ない時代だ。一見、相手のことを理解できているように感じるが、この曖昧(あいまい)な理解や、なんとなくイメージできてしまうことが、台湾進出で失敗する理由ではないかと小路は言う。なぜかというと、聞いたことや見たこと以外を日本人目線で補ってしまうから。

「日本人目線で補わない」ことがなぜ大切なのか。鹿児島県鹿屋市のいも焼酎仕込みの梅酒『小鹿梅酒』の案件を例に出して紹介してくれた。この案件は、もともと梅酒をカフェで出してほしいというシンプルなものだった。プロモーションであれば、「分かりました。やりましょう」と簡単な話なのだが、FUJIN TREEは「プロデュース」、つまり「日本人目線で補わせない」方法で実施させて欲しいと話をしたという。プロデュースするにあたって、まず行ったのがウェブマガジン用の取材。生産地に足を運び、梅酒の工場はもちろん、オフィスやイモ農家、街の居酒屋など、あらゆるところを取材した。そして、どういう人たちが作っているのか、どういう気持ちで作っているのか、現地ではどういう風に楽しまれているのかという、梅酒の背景を紹介した。最後は、もともとの希望にもあったように、FUJIN TREEが手がけるカフェで梅酒を提供した。ここでポイントなのが、使っているグラスと付け合わせのチョコレート。ただ単に「この梅酒をカフェで出して」という話だったら、梅酒はチープなグラスに入れられ、付け合わせはナッツだっただろう。しかし、FUJIN TREEがプロデュースという形で携わったことによって、梅酒は台湾の作家、林靖蓉 Lynn Linが作ったグラスに注がれ、付け合わせは、世界的にも有名な台南のビーン トゥ バーチョコレート店、福灣巧克力莊園のチョコレートが採用された。

そしてもう1つ、日本人では決して理解できなかったであろうエピソードがある。カフェで提供された梅酒のソーダ割りの話だ。なんと、この時に提供された梅酒のソーダ割りには、氷が入っていなかったのだそう。日本人の感覚であれば、ありえないだろう。実際に、小路自身も絶対にダメだと反対したという。しかし、「梅酒の香りと味わいが良いとウェブマガジンで紹介しているのに、氷が溶けたら薄まってしまう」という店長の意見から、最終的には氷なしで提供したそうだ。これが、台湾人の感覚。「台湾人目線」というものだ。もちろん、個人の好みもあるので、正直なところ何が正解なのかは分からない。しかし、日本人目線をなるべく外すことで、台湾進出がうまくいったり、インバウンドやアウトバウンドがうまくいく確率が上がるのではないかという話で、第一部は締めくくられた。

©Fujin Tree Group All rights reserved.

カフェで提供された『小鹿梅酒』/©Fujin Tree Group All rights reserved.

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ほとんど台湾人スタッフに丸投げという感じ

第2部では、タイムアウト東京代表の伏谷博之が聞き手として参加し、「台湾人目線」「日本人目線」について、さらに深くトークが繰り広げられていった。まず語られたのが、『ガチャピン』と『ムック』の案件。FUJIN TREEのカフェで、イベントをやりたいと持ちかけられたときの話だ。FUJIN TREEのカフェでイベントを実施するだけでも良かったのだが、台湾人スタッフから絶対にやったほうが良いと提案されたのが、あるポストとのコラボレーション。2015年の台風で、看板が落ちてきた際に曲がってしまったというこのポストは、色が緑色と赤色であることから、台湾人にとっては『ガチャピン』と『ムック』がこのポストにしか見えないのだそう。そのため、もともとの予定にはなかったものの、台湾人スタッフの勧めで、その場を訪れて一緒に写真を撮影。その写真をTwitterに投稿すると、1万を超えるリツイート、1万5千を超えるいいねを獲得した。

©FUJITV KIDS

台湾人からすると『ガチャピン』と『ムック』はこのポストをイメージさせる/©FUJITV KIDS

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次に、2月に花蓮で起きた地震に関する話。地震が発生した時、今こそ3.11の恩返しの時だと言い、Facebookなどで義援金の募集を呼びかけていた日本人が多かった。もちろん、純粋な気持ちで義援金を呼びかけた人も多かったと思うが、なかには、ネガティブに捉えられていたものもあったそう。理由の1つは、地震が起こる前、台湾には今世紀最大級の寒波が来て、その時にも50人を超える人が死亡していたから。寒波の時には何も言わないのに、地震の時だけ取り上げるのはどうなのだろうと疑問に思った人もいたという。もう1つは、必要以上のネガティブキャンペーンをしていたから。投稿の中には、2年前の台湾南部地震で崩れた建物の写真まであげていた人もいたらしく、「このやり方、ちょっとずるいよね」と感じた人も多かったそうだ。しかし、その過剰さとは反対に、安全宣言が出された時には、ほとんどの人が拡散をしなかった。建物が倒れてしまったところは駐車場になり、すでに多くの車が入っているのだが、花蓮の観光の人数は、地震前と比べて9割減のまま。そのため、「ここまでケアしてくれないのって、ちょっと違うのでは」とネガティブに捉えている人もいるようだ。台湾進出という話とはまた違うが、まさに、日本の感覚で行動すると、台湾ではうまくいかないというリアルな意見。「日本人目線ではないやり方をしないと、どんどんネガティブな関係性になってしまう」と小路も懸念していたが、感覚の違いからすれ違い、台湾との関係そのものが良くないものになってしまうのは悲しい話である。

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イベントが終盤に差しかかった頃、「日本が海外展開をする際、現地のマーケットを見ていない。海外に行きましょうとなった時に『日本の良いものを持って行ったら絶対売れる』みたいな、強い思い込みだけでやっているところがある気がする」と伏谷が投げかけた。これに対しては、小路も「自分たちと同じような日本のブランドが現地でどうやっているのかだけを見て、マーケットを知らずに海外に挑戦していっている。ほかの国が何をやっているのかを見ていない」と、旅行博を例に挙げながら同意した。たとえば、旅行博が4日間開催されるとしよう。韓国は、イベントの前後でビッグアーティストのライブを行い、旅行博とあわせて、うまく「韓国に行きたい」という気持ちを誘発させている。しかし日本は、4日間という限られた時間でしか勝負していないという。「日本が好き」「親日」というアドバンテージがあるので、うまく展開できれば、ほかの何百というブースの中で1番になれる可能性がある。しかし、うまくアプローチできずに、埋もれてしまっているのはもったいないことだ。

また、今の日本の台湾での展開状況について、小路はこんな話もしていた。「台湾は4、5年前から劇的に変化しているのに、日本のプロモーションはあまり変わっていません。SNSやインフルエンサーなどは加わりましたが、本質的には全然何も変わっていないので、おそらく一からやり直さないといけないと思うんですよね。台湾がガラッと変わっているのだから、前のやり方の延長線ではうまくいきません。もし、同じやり方をずっと続けていけば、おそらく台湾では成功しづらいでしょう」。この話を聞くと、根本的なところで変わらなくてはいけないことが多いと考えさせられる。

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白熱したトークイベントもいよいよ終わりの時間に。最後に1つ、Q&Aで印象的だった質問を紹介する。それは、「台湾人と一緒に働く上で、台湾人の意見を尊重するボーダーラインはあるのか」というもの。小路は以下のように答えた。

「(台湾側が日本の企業や事業者に)どこまでわがままを言っていいのかというのは、僕が判断します。でも、そこから先は、方向性だけを確認しながら、ほとんど台湾人スタッフに丸投げという感じですね。このさじ加減がFUJIN TREEなのかなって思っています」

スケジュールや宣伝の方法など、台湾の企業にプロデュースを依頼するにしても、やはり日本人目線をきれいに捨てることは難しいだろう。しかし、小路のように密に台湾人と仕事をしている人だけでなく、台湾への進出を考えている人にとって、この感覚は必要なのではないだろうか。その土地に住む人の感覚を信頼し、相手の意見を聞き入れ尊重する。もしくは、自分と感覚が合う人と一緒に仕事をする。とてもシンプルで当たり前のようなことだが、ここに失敗しないヒントがあるように感じた。

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