NEXTOURISM KICKOFF MEETING
Photo: Kosuke Hori | ORIGINAL Inc. 代表取締役でタイムアウト東京代表の伏谷博之(右)と、サフランCEO兼共同創業者のジェイコブ・ベンブナン
Photo: Kosuke Hori

「今、日本が取り組むべきブランディング」とは? サフラン・ブランド・コンサルタンツCEOが講演

世界の最前線でブランディングに取り組む同社の世界標準のプレイスブランディングなどを紹介

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2025年6月25日、一般社団法人日本地域国際化推進機構の2025年度のキックオフミーティングが開催され、世界的なブランドコンサルタント会社であるSaffron Brand Consultants(以下:サフラン)のCEO(最高経営責任者)兼共同創業者、ジェイコブ・ベンブナン(Jacob Benbunan)がオンラインで特別講演を行った。

サフランは、FacebookからMetaへの企業リブランディングを手がけた実績を持つ、ブランドコンサルティングの世界的な第一人者だ。100人規模のブティックでありながら、Amazon.com, Inc.をはじめ、そうそうたる世界企業が相談に訪れるという。

同社は、これまで地域を対象とした「プレイスブランディング」の領域でもさまざまな実績があり、その領域においても世界各地から相談を受けるオーソリティーだ。今回は、来日10回を数え、日本文化を愛してやまないベンブナン自身が直接、日本の取り組むべきプレイスブランディングについて語った貴重な機会となった。

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少数精鋭のコンサルタント集団・サフランとは

サフランは多様なキャリア、文化、視点を持ち合わせたメンバーが世界中から集まり、マドリードとロンドンを拠点に、世界のさまざまな地域で活動している。企業のブランディングだけでなく、国や地域、都市といった単位でプレイスブランディングを手がけてきた、少数精鋭の集団だ。

社名の由来について、ベンブナンは「日本ではあまり使われないかもしれませんが、ヨーロッパでは毎日のように使われているスパイスの『サフラン』が由来です。スペインの料理でいえば、パエリアが有名ですね。一つまみ加えるだけで、白いご飯を黄色くするなど、色も味も変える能力と可能性を秘めています。情熱や感情と深く関わるスパイス・サフランのように、弊社はクライアントを内側から大きく変えることを目指しています」と説明した。

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世界の都市が直面する競争の現実、ブランディングの重要性

講演の冒頭でベンブナンは、現在、世界には約1万の都市があるが、その半数は40年前には存在していなかったことに言及。都市数の増加は観光だけでなく、ビジネスや教育、資本、人材など、あらゆる場面での熾烈(しれつ)な都市間競争を意味していると、現在の都市の置かれている状況に言及した。

このような状況下でグローバルな競争に勝つためには、ほかの都市より際立つ存在でなければならない。しかし「多くの場所が同じような主張をしている」と、ベンブナンは指摘する。

「欧州では、『ヨーロッパの神髄』『大きな心を持つ小さな国』『ヨーロッパの中心』といった、どの国にあてはめても違和感の生じないブランドタグラインが蔓延(まんえん)しています」

そして、日本でも同様の課題が見受けられる、とベンブナンは続けた。「観光庁が訪日観光を海外市場でPRする際に使用しているブランドメッセージは、『Japan Endless Discovery (尽きることのない感動に出会える国、日本)』です。幸運にも私は過去10年で10回ほど日本を訪れる機会があり、日本は常に感動と驚きを与えてくれる場所だと思っています。しかし、それはケニアでもスペインでも、ロシアにでも言えることではないでしょうか」

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ブランディングを成功に導く3つの要素

次にベンブナンは、強力なブランドを構築するための3つの基軸を提示した。それは「信頼性」「関連性」「差別化」である。

「あなたらしい唯一無二の魅力とは何か? なぜあなたが必要とされるのか? 人々の暮らしにどう寄り添い、どんな価値を届けているのか? これらを明確に伝えることが、さまざまな相手に「あなたらしさ」を印象づける鍵となります。ブランディングのどのプロジェクトも、この3つの柱に常に立ち戻ることが欠かせません。ブランドとは、どんな体験を提供するのか、それを明確化して約束することが重要なのです」

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ブランドが「記憶に残ること」の重要性とそれを生み出す6つのキーポイント

ブランドが認知されて存在し続けるには、人々に一度は体験されて、何かしらの記憶に残る必要があるという。さらに、「体験」されることはもちろんだが、「記憶に残ること」と「想起性」が重要なのだと、ベンブナンは言う。

「82%の人が認知しているブランドを、即座に選択します。73%の消費者がより高い価格でも想起性の高いブランドの購買を望み、想起性の高いブランドの顧客生涯価値は306倍になるのです」

では、記憶に残るためには何が必要なのか。ベンブナンは6つのポイントを挙げた。

1つ目は「感情喚起」。感情は記憶に残るブランド体験の原動力であり、感情を呼び起こすブランドは、人々の心に残り選ばれやすくなるという。2つ目は、「注目」。注目を集め、関心を維持することでブランドは際立つ。しかし、過剰になり過ぎずに引き付け続けるバランスが重要だという。3つ目は「ストーリー性」。物語の力は時代を超えて人を引き付けて共感や信頼を生み出し、ブランドの個性を伝える軸になる。

4つ目は「関与」。人々をブランド体験の主役にすることで参加意識と愛着が生まれ、それが記憶に残り、支持や共感へとつながる。5つ目は「反復」。ブランドの象徴や体験を繰り返し届けることで、認知が強化されて記憶に定着する。6つ目は「一貫性」。いつでも変わらない印象や体験を提供することで、安心感や信頼を醸生し、ブランドは見慣れた存在になっていくのだ。

最後に、日本での彼らの取り組みが紹介されたが、会場限定で、とのことなのでここでは割愛する。

来場者との質疑応答、国際社会における日本の価値復活はあるのか

講演後の質疑応答の様子を追記しておこう。最初の質問は、「国際社会において日本の競争力は低下していると思うが、サフランが日本市場にどの程度注力しているのか」というものであった。

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ベンブナンは少し間を置いてから、国際社会において日本のブランド力が低下している今だからこそ、逆にポテンシャルを感じていることや、日本の製品が国際社会から消えてしまっているように感じるのを残念に思っていることを話し始めた。

「1980年代や1990年代の話をしましょう。日本は私たちの生活の一部でした。私はキヤノンやニコンのカメラで写真を撮り、ソニーやパナソニックのテレビを使い、JVCやソニーの機器、ソニーの『ウォークマン』で音楽を聴きました。カシオの時計を着け、カシオやシャープの電卓を使うなど、日本のあらゆるものが私たちの生活の一部でした」

「しかし今では、私はカリフォルニアでデザインされて中国で組み立てられた機械で写真を撮り、韓国製のテレビや冷蔵庫を使っています。スウェーデンの会社・Spotifyが配信している音楽を、アメリカのブランドであるAppleの機器で聴きます。日本の製品はどこへいったのでしょうか?」と、私たちには耳の痛い話が続いた。

しかし、それでも「日本のイノベーションが消えてしまったわけではない」とベンブナンは主張する。むしろ、国際的な場面で活躍したいという意志が見られないのが問題ではないか。だからこそ「持っている技術やポテンシャルを実際の現場に戻すために、『ブランディング』に、日本の皆さんと一緒に取り組むことが必要とされているのではないか」と訴えた。

次に、「ブランディングにおける紙媒体の価値」について問われたベンブナンは、「美しい質問をありがとうございます」と前置きしつつ、アナログレコードの復活を例に挙げて答えた。

「アイデアを伝える上で、紙の力に匹敵するものはありません。紙は五感に訴えかけてくるからです。ページをめくる時の紙の感触、インクの匂い――もちろん視覚も使いますし、ページをめくる音も聞いているでしょう」

「アナログレコードがブームになっているように、紙媒体の再評価が進むと思います。たくさんの書店が存在している日本は、特に恵まれているのではないでしょうか。私自身も東京の『代官山 蔦屋書店』という美しい書店が大好きです」と日本の書店文化を高く評価し、自身の見解を述べた。

登壇者

ジェイコブ・ベンブナン(Jacob Benbunan)

Saffron Brand Consultants CEO兼共同創業者。
スペイン国籍、マドリード在住。話す言語は英語、スペイン語、フランス語。

1985年、ボストン大学院工学部修士修了。1986年、KPMGに入社。
1991年から英国のブランドコンサルティング会社、ウルフ・オリンズでグローバル通信企業オレンジの立ち上げなど、数々の案件を手がける。2001年、サフラン・ブランド・コンサルタンツを創設。ウルフ・オリンズ時代の恩師でブランド戦略づくりのパイオニアである故ウォーリー・オリンズ氏とともに、マドリードとロンドンの2拠点でブランドコンサルティング事業を展開。

2025年現在は6都市(マドリード、ロンドン、ウィーン、イスタンブール、リヤド、東京)に拠点を置く約100人の多国籍チームを束ね、クライアントは全世界に及ぶ。これまで担当した企業は、Meta、Amazon、YouTube、Valuable 500、Art Basel、Gulf Airなど。Visit London 、ウィーン市、トルコをはじめとする、多くの都市や国のプレイスブランディングも手がける。

社外では、カンヌライオンズのデザイン審査員やテクノロジーカンファレンス「Collision」のキーノートスピーカーなども務めてきた。

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