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インタビュー:藤井美穂
ありのままの自分を愛するために選んだ、プラスサイズモデルという道
薄着の季節になると、メディアではダイエットを促すような広告や特集が目立つようになる。「痩せた体は美しい」という世間からの無言の圧力が、世の女性たちを追い詰めているのも、また事実だろう。
そんな「体型への呪い」を解くかのように、アメリカから日本へ向け日々発信している日本人女性を知っているだろうか。
彼女の名前は藤井美穂。5年前に渡米し、ハリウッドで女優や、スタンドアップコメディアン、そしてインフルエンサーとして活動している。
彼女を見てまず目を引くのは、やはりその豊満な体型だろう。163センチ、80キロの体型は、日本でいうとぽっちゃりといえる。しかし彼女はその体型をいかして「プラスサイズモデル」として活躍しているのだ。プラスサイズモデルとは、プラスサイズ、つまり大きめのサイズの服を着用したモデルのことで、アメリカではトレンドのジャンルの一つだ。藤井のInstagramは、そのふくよかでなめらなか曲線をしなやかなポーズで表現した写真が多く並び、フォロワーは6万7,000人にもなる。
そんな彼女も、もともと自分の体型が好きだったわけではない。家族や友人から体型を批判され、自分のことを好きになれない時期があった。しかしプラスサイズモデルとして活動する中で、コンプレックスだった外見が好きになり、さらには自分自身に自信が持てるようになったという。
どのように彼女は変わっていったのだろうか。ロサンゼルスに住む藤井へ電話インタビューし、彼女のこれまでとこれからについて聞いた。
「私は何をやってもいいんだ!」と思えるように
ー藤井さんはもともとは短大で劇団に入るなど日本で芝居を始めたそうですが、ハリウッドへ行かれたきっかけは何だったんですか。
ある日突然思い立って、決めました。ただ、本当に考えなしに来たので、英語もできない上にお金もなくて。でも、日本ではやる気のスイッチを入れられなかったんですよ。女優としてのやる気を出せるよう、自分を追い込むために、来るしかなかったという感じです。
行ったばかりのころは「生まれ直して赤ちゃんから始めた」という感覚ですよ。英語が話せないから、自分のことを分かってもらえられない、思いを伝えられないというのは苦労しましたね。
ープラスサイズモデルになってから、ご自身にどんな変化が起こりましたか?
プラスサイズモデルなったことは人生のターニングポイントでしたね。自分の外見が好きになるということは、自分に自信を持てることにつながると思うんですよ。プラスサイズモデルになり、体型を人から褒められるようになって自分を好きになったことで、「私は何をやってもいいんだ!」と思えるようになりました。
ーTwitterでフォロワーからの質問にも細かく答えていますよね。ただの悪口のようなネガティブな質問にも丁寧に回答しているのはどうしてでしょうか。
Twitterを始めたのは2018年12月からと、かなり遅めなんです。どうして始めたかというと、自分の意思がはっきりしてきて、どんな批判が来てもしっかり意見が言えると思ったから。実際に批判的なリプライも来ますが、それらと戦う姿勢を見せることは、同じような悩みで苦しんでいる人にとって励ましや救いになるんじゃないかと思っています。
昔から自分の意見ははっきり言うタイプだったんですけどね。これでも丸くなったんですよ(笑)。自分の外見を好きになれたから、他の人の意見も受け止められる余裕が生まれたんだと思います。
日本の感覚とのギャップ
ー藤井さんの毅然とした態度に救われている人は多いと思います。日本ではまだハッキリと意見を言ったり、個性を主張する女性が疎まれる傾向があります。そのような日本の風潮に対して思うことはありますか。
日本にしばらく帰っていないので、SNSを通じて知る日本とアメリカの文化のギャップに驚くことばかりですね。2、3年前に一度実家に帰った時に、とてもショックな体験がありました。アメリカで着ていた服を家族や周囲の人間に否定されて日本では着られなかったんですよ。「その服は露出しすぎでしょ」「体型が出過ぎでしょ」って。
アメリカに行って、自分の外見も好きになれて、自分は生まれ変わったと思っていたのに、昔の自分に逆戻りしたような気持ちになってしまって。私の親は、プラスサイズモデルをしていることをいまだによく思っていないんです。「いつになったら痩せるの」って。それは私の健康を思ってだとは思うんですが、親と感覚がどんどんズレていることは悲しかったです。
とにかく「好きなことをやる」
ーチャレンジの一つとして、スタンドアップコメディの舞台にも立っているんですよね。
はい。英語の間違いや、人種の違いなど、アメリカ人とは違う私なりの視点の盛り込んだネタをやっています。関西の血なのか、しゃべりで笑いを取りたいという気持ちが強いんです。ステージではけっこうウケてますよ。
ースタンドアップコメディもかなりストイックに取り組んでいるんですね。
そうですね。やっぱり女優の仕事につなげたいんですよ。ハリウッドで女優の仕事をつかむためには、英語がしっかり話せないといけないし、英語力を鍛えるためにも、漫談でしっかり笑いを取れるようにならなければいけないと思っています。

ー女優、プラスサイズモデル、コメディアンと多方面に活動されていますが、仕事をする上で大切にしていることはなんですか。
とにかく「好きなことをやる」ということですね。自分の気持ちが上がることじゃないと、続かないし、パッションは生まれないですからね。自分の好きなことを取り組むことが、自分を表現することにもなると思います。自分の好きなことで、かつ自分にしかできないこと、そして人の役に立つことじゃないとやっても意味がないかなと思っちゃうんですよ。
自分の人生をコントロールできるという自信
ー自分らしさというのをとても大切にされていると思うのですが、それも自分に自信を持つための秘訣ですか。
自分に自信があるというよりも「自信が持てるようになった」という事実が、自信につながっていると思います。自分の人生を自分でコントロールできて、自分のやりたいことはやればできるんだという。そこが、誰かにメッセージを伝えるときの根拠になっていると思います。
ー「ありのままの自分を愛する」というメッセージに励まされている方は多いと思います。それでもなかなか自分の容姿や体型に対しての強いコンプレックスを拭えず、辛い思いしている人もいると思います。そんな方へはどんなアドバイスがありますか。
私の場合は、自分を変えない代わりに周囲の環境を変えました。アメリカにはボディポジティブ(自分のありのままの体型を受け入れること)やプラスサイズモデルが多いので、彼女たちの影響を受けてどんどん価値観が変わりました。美しさにも多様性があるんだって。
ただ、日本から出ることは簡単なことではないと思うので、自信をつけるという意味では、肉体改造もありだと思います。「なんでお前がそんなこと言うんだ!」って思われるかもしれませんが、痩せるでも、太るでも、理想の体になる為の肉体改造に取り組むことは、自分の体をコントロールすること。それは「自分で自分の人生を変えることができた」という自信になると思います。
あと、自信をつけるためには心のバランスを整えることも大事だと思います。これは色々な方法がありますが、瞑想や運動などで、不安な時間をなるべく少なくすることが、心の安定につながると思います。
ー藤井さんご自身も不安な日々がありましたか。
海外生活で、女優なんていう不安定な職業をしていたら、心は病むばかりですよ(笑)。でも、不安だと立ち止まってしまうので、常に行動して、ネガティブになる時間を減らすことで、心をコントロールしました。その体験もまた自信へとつながっていきます。
あとは、私のようにコンプレックスを武器に変えて発信している人間が増えることが、大事かなと思っています。海外に行かなくても、付き合う人を変えるのもありです。さらに、今はインターネットで自分の好きな人をフォローして、自分の好きな世界を作っていける。自分を励ましてくれる存在の発信に触れることで価値観が変わって、古い価値観に縛られる人たちの救いになるんじゃないかと思っています。
ー今後の目標を教えてください。
いろいろなことに挑戦したいので、必要とされるのであれば、世界中どこへでも行きたいです。ハリウッドでの活躍はもちろんですが、生まれ育った日本のテレビや映画への憧れもあるので、いつかは逆輸入のような形で日本で活躍できたらと思っています。そのためにも今はハリウッドで経験を積みたいです。
また、アメリカでも日本でも自分のストーリーも見せていきたいです。私も自分に自信がない状態から変わっていったので、自分の変化を伝えることで、誰かの励ましになればいいなと思っています。表現の幅も広がると思うのでミュージカルにも挑戦したいです!
藤井美穂

八木志芳
ラジオDJ、ナレーター。大学卒業後、IT企業・レコード会社を経て、ラジオ福島にてアナウンサー、ディレクターとしてのキャリアをスタート。Tokyo FmグループのMUSIC BIRDを経て現在は関東を拠点にフリーのラジオパーソナリティー・ナレーターとして活動。FM PORT「LIKEY」MC、FM FUJI『SUNDAY PUNCH』レポーター出演中。