インタビュー:嶋浩一郎

なぜ紙の雑誌はこのデジタル社会でいまだ存在感があるのか
インタビュー:嶋浩一郎
作成者: Time Out Tokyo Editors |
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テキスト:Marcus Webb

クリエイティブエージェンシー  博報堂ケトルの代表取締役社長、嶋浩一郎。彼の印刷(=書籍)に対する思い入れの強さは、嶋の経歴を見ればどれほどのものか分かるだろう。カルチャーマガジン『ケトル』の編集長、そしてNPO法人本屋大賞実行委員会の創設者であると同時に、これまで5冊の書籍を執筆。2012年には下北沢にビールが飲める本屋、B&Bをオープンさせた。電子書籍の普及が進み、インターネットにはコンテンツが氾濫する今日、嶋は印刷をどのように考えているのか。イギリスのスロージャーナリズム雑誌『Delayed Gratification』の編集者マーカス・ウェブが聞いた。

—「印刷は過去のものとなった」と言われている時代に本屋を開いたのはなぜですか?

「印刷は過去のものとなった」と思ったことは一度もありません。本は依然として多くの人に読まれています。読んでいる本に物理的に触れることで生まれる感情や、今の自分にピンとくる本を探しながら本棚を見て回る楽しさなどは、ほかのものでは代用できません。そうは言うものの、印刷に投資する人は減ってきているのは事実で、それは残念ですね。

—印刷に投資するほか、紙の雑誌(『ケトル』)の編集もしていらっしゃいますが、その雑誌の哲学は何ですか?

この雑誌には1つ規則があります。掲載される記事すべてに、僕を驚かせる、僕が知らなかった事実が最低1つは入っている、ということです。編集会議の際は、ライターにそういったネタを準備しておくよう伝え、私が「それは知らなかった」という情報が入っていればその記事は掲載。逆にそうでなければ、新しいネタを考えてもらいます。

—そうすることで、面白い記事ができるのですね……。

ええ、そう願っています。読者を驚かせることができなくなると、雑誌は型にはまったものになってしまう。『ケトル』ではそうならないようにしたいと思っています。雑誌はそういう細部へのこだわりが大事だと思うのです。

インタビュー、マーカス×嶋さん

—印刷は本当にデジタルコンテンツと競うことができるのでしょうか?

僕は競争とは見ていません。バランスのとれた食事のように、両方が必要だと思います。印刷用に書かれた文章はデジタル用の文章とは違い、PVを稼げるようなタイトルをつける必要はなく、雑誌の持つテンポで徐々にストーリーを引き出すことができる、そう考えています。

—印刷は、デジタルとは違ったものを提供する責任があると思いますか?

どんな媒体も複数の側面、顔を見せる責任があると思います。印刷物は様々な情報を一覧できるので、人に発見をさせることができます。表紙を見て選んだ雑誌だとしても、なかには自分が興味を持つとは思わなかった記事が20ぐらい入っているかもしれない。マーカスさんの雑誌『Delayed Gratification』も、そこがとても気に入りました。ざっと目を通しただけで、読みたい記事を4つも見つけました。一方、ネットは読むつもりのなかった記事に出会うより、ひとつの情報を深く掘り下げるのに向いているため、そういった記事を見つけることは難しいと思います。アルゴリズムによって、僕が以前読んだのと同じような記事をレコメンドとして出してくるからです。なんで似たような記事をまた読まなくてはいけないのか。新しい記事に驚かされたい、僕は常にそう思っています。

—最後に、本屋を経営することで最も良いことは何ですか?

本屋をやってみると何事も興味深いですね。でも、一番は開店前の店で本棚を見ながら歩き回ることが楽しみです。自分の店なのに発見があって欲しい本が見つかるんです。そこで出会った本が、今日の僕が読むべき本と考えています。フィクションでもノンフィクションでも良いのですが、必ず何か惹かれるものがあります。誰かが時間をかけて執筆したのなら、僕も時間をかけて読みたいと思っています。

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