中村壱太郎
Photo: Keisuke Tanigawa | 中村壱太郎
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インタビュー:中村壱太郎 マルコス浄瑠璃『金閣寺』

スペインの鬼才の演出・振付で、刺激的な国際共同制作に挑む

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タイムアウト東京 > カルチャー >インタビュー:中村壱太郎  マルコス浄瑠璃『金閣寺』

テキスト:高橋彩子(舞台芸術ライター)

スーパー歌舞伎『もののけ姫』サン役の好演も話題の歌舞伎俳優・中村壱太郎(なかむら・かずたろう)が、『もののけ姫』閉幕の翌週から、早くも新作舞台に立つ。スペイン出身の振付家マルコス・モラウが演出・振付を担い、歌舞伎俳優、文楽人形遣い、アイドル、ダンサーなどが共演する国際共同制作、マルコス浄瑠璃『金閣寺』だ。新たな挑戦が続く壱太郎が語る、今の思いとは?

様々な活動で見聞を広めたい

―Time Out Tokyoでは2016年、シンガポールの演出家オン・ケンセン演出の『三代目、りちゃあど』で壱太郎さんにお話しを伺っています。ちょうど10年後の今年はスーパー歌舞伎『もののけ姫』にマルコス浄瑠璃『金閣寺』と、挑戦が続きますね。

これまで「システィーナ歌舞伎」(バチカンの礼拝堂を原寸大再現した大塚国際美術館のホールで上演する新作歌舞伎公演)でのフラメンコとの共演など、一度きりで終わらず長くご縁が続いているものがあります。

それに加えてコロナ禍が明けてから、かなりいろいろなご縁をいただいていたり、それをきっかけに自分で発信していったりということが増えています。今回のこの企画も、ここ数年、いろいろなことにアンテナを張り、様々な出会いの中でできてきたことだなと思うので、うれしいです。

―確かに壱太郎さんはコロナ禍の中で尾上右近さんと映像作品「ART歌舞伎」を発表されるなどしていましたし、コロナ禍が明けてからの歌舞伎界では一気に世代交代が進んでお忙しくなった印象です。

おっしゃる通りで、僕ら平成生まれの歌舞伎俳優でやっていこうというような機運ができたのは事実です。歌舞伎を主軸にしつつプラスアルファのところで、例えば尾上右近くんや中村隼人くんは、あれだけ歌舞伎をやりながら、メディアにたくさん出て、様々なお客さんを歌舞伎観劇へと連れてきてくれている。

一方、僕は、女方ということもありますけれど、歌舞伎のほか、創作することが、もう一つの主軸になってきた感があります。 同じ世代でもアプローチできる客層がそれぞれ違うのはいいことだと僕は思っていますし、そういう大きな視点に立った時、自分のやっていくことがより明確に出てきています。そうやって同世代それぞれのやってきたことが、歌舞伎の本公演に昇華されていくというか、また集まって新たな力になっているのを感じますね。

―もちろん、歌舞伎俳優の方はどなたも踊りをなさいますが、やはり日本舞踊も一つ、壱太郎さんを語る上で欠かせないものですよね。今回の舞台にもそれは大いに生きると思いますが。

そうですね。母方がずっと吾妻流という日本舞踊の流儀をやっている家ですので、吾妻の家元としてもやっていく、というのが僕のもう一つの柱ですので、そのお仕事として所作を指導したり振付をしたりという機会が増えてきたというのも、自分のパーソナリティを確立していく一つの要素にはなっていると思います。

―さらに最近、鳴物(なりもの)の藤舎(とうしゃ)流の名取になられたとか。

はい。そこはもう趣味が高じてですけれども。歌舞伎俳優にとって三味線や鳴物、とくに打楽器を習うことは勉強になることで、別に必修科目ではないのですが、僕は両親のおかげで小さい頃から習っていました。

けれども大人になり、歌舞伎を本格的にやっていくとお稽古をする時間がなくなっていく中、唯一、好きで続けていたのが鳴物で、そこのお流儀のお名前をこの前いただきました。プロとして活動していくわけではないのですが、一つのライセンスのようなものをいただくことで、造詣を深めていけたらと考えています。

―プロとして活動はされないとのことですが、会などにはお出になりますか?

そういうお話もいただいています。とにかく今、どんどん名前が増えていっているんですよ(笑)。本名が林壱太郎で、歌舞伎俳優としては中村壱太郎、日本舞踊では吾妻徳陽(とくよう)、脚本・演出の時は春虹(しゅんこう)、そして藤舎流では藤舎穂船(すいせん)。あと2個作ったら、7つの顔を持つ男になるので、次はマルコスさんに外国名をお願いしなくては(笑)。冗談はさておき、それくらい見聞を広めたいという思いがあるんです。

―先ほど、歌舞伎以外の挑戦が歌舞伎の本公演に昇華されていくというお話がありましたが、具体的にどのように歌舞伎に昇華するのでしょうか。

歌舞伎だけをやっていると、どうしても“歌舞伎脳”といいますか、稽古の仕方、舞台の居方(いかた)含め、それが当たり前に思えてしまうのですが、一歩外に出たらそれは当たり前ではなく、自分たちの常識が非常識になるということがあります。だからといって歌舞伎のやっていることがいけないということではなく、速いスピードで動き、誰もが何でもすぐに手に入る時代の中、根本から変えなきゃいけないことや、作品ごと、やる人ごとに変えていかなければいけないことに対して、まっさらになって気づかされるというところがあります。

表現の上でも、例えばフラメンコをさせていただくと、体幹などすごく似ている部分もあれば、「こんな違う動きをするんだ、これ僕、絶対できないな」という動きもあります。そうした経験の中、自分の表現というのはどこにあるんだろうということを考えますし、古典の表現に持って帰るものもあります。 10年前に『三代目、りちゃあど』でも同じことを思ったのですが、やっぱり外部出演では引き出しを試される。10年経って、また違う形で国境を越えて新たな企画に臨めるのはうれしいしいことです。

―ちなみに、『三代目、りちゃあど』以来の国際共同制作になりますか?

そう言われると確かにそうかもしれないですね。外国の方と何か演技をするのも、それ以来だと思います。奇しくも、場所が同じ東京芸術劇場で、10年経って戻ってきたという感覚もありますし、だからこそまた10年前とは違う感覚で臨みたいという思いもあります。あの時はバリの森の奥に2週間、監禁状態(笑)で稽古していました。歌舞伎の舞台を4〜5ヶ月ぐらい休んで臨んだのを覚えています。

今回も9月は歌舞伎を休むと早々に決めることができたので参加できました。『もののけ姫』の本番があるので少ない稽古時間にはなりますが、参加した時にどれだけマルコスさんの印象に残れるか、そしてどれだけ言われたことに対して表現できたり提案ができたりするかが鍵になるので、集中して臨みたいですね。

中村壱太郎
Photo: Keisuke Tanigawa中村壱太郎

金閣寺と三島由紀夫の人生

―マルコスさんの作品は映像などでご覧になりましたか?

3年前になさった作品の映像を拝見しました。歌舞伎にも舞踊の作品はありますが、そういったことではない、もっと内面を描き出す作品という印象を受けましたね。歌舞伎は、特に古典は役者中心に考え、その人に合う道具や衣裳にしますが、そうではなく作品としての世界観の統一感がすごく素敵だなと感じました。

―今回の作品タイトルは『金閣寺』ですが、三島由紀夫の小説の世界をそのまま描くわけではないようですね。

『金閣寺』は市川雷蔵さんの映画や宮本亞門さん演出のストレートプレイなどにもなっていますが、今回は全く違うアプローチ。物語を見せるというより、三島の人生を、言葉ではなく身体で表現していくことになります。僕らもその都度、役割が変わっていくもかもしれません。皆さんご存じの通り、破滅的であり美学がある三島由紀夫の人生と世界観が、マルコスさんの手で美しいものに昇華されていくと思います。その中で、僕と(尾上)眞秀(まほろ)くんで日本舞踊や歌舞伎舞踊の表現を担っていくことになるので、素材としてマルコスさんがどう料理してくださるか。今までやってきた女方の所作や踊りが生かされる出演になることでしょう。

眞秀くんとは初共演なのですが、少し前に歌舞伎座で『連獅子』を踊って、『踊る。遠野物語』にも出演していますし、マルコスさんが“人形振り”を使われるのではないかという想定の下、これまで舞台でやったことはないけれど早くから稽古していたそうです。貪欲にいろいろなものを観たいというところがあると思うので、今回の稽古でどんなことをやってくるのか僕も楽しみです。

出演者のうち末永(光)くんと眞秀くんはバルセロナで稽古したのですが、文楽の人形遣いの吉田玉助さんと僕は別の公演があって参加できませんでした。バルセロナでの熱量がある中で、途中から入るこちらも即座に応えられるのか、引き出しを試されることになります。

―“人形振り”のお話が出ました。これは歌舞伎俳優が文楽人形のように動くというものですが、今回、本物の文楽の人形と歌舞伎の人形振りの共演になるわけですよね。

マルコスさんが最終的にどんな動きを使われるかは分かりませんが、人形振りではないにしても、人形との共演として、かなり新しいものになるのではないかと思うんです。というのは、これまでさまざまな方が人形とやっていらっしゃるけれど、例えば文楽の演目を歌舞伎化した演目など、共通認識が持てる作品でなさっていたと思うんです。けれども今回は、三島由紀夫の『金閣寺』は歌舞伎でも文楽でもないわけですし、三島の人生を描いた作品ももちろんない。お互いが知り得ているものではない作品をやることになるので。ある意味、自分の役者としての30年をつぎ込むような感覚になってくるでしょうね。

―文楽はよくご覧になりますか?

公演地にいる時はできる限り合間に観に行くようにしています。今年3月に『曽根崎心中物語』を上演しましたが、去年の10月に文楽劇場で上演されたので観に行きました。文楽で一番すごいのは顔。僕らは表情をつけますが、文楽では表情が絶対に動かないのに表情が見えるところが、素晴らしい技術だなと思います。

―去年、脚本・振付・特別出演という形で参加されたフラメンコ舞踊団ARTE Y SOLERA(アルテイソレラ)の『イン・ヒューマン (in human)』でも人形ぶりがありました。

僕は人形の役でしたからね。今回は文楽という本当の人形との共演なので、同じようにしても違いが出るでしょうし、違うことをやる面白さもあるんでしょうし。

―『イン・ヒューマン (in human)』は江戸川乱歩の『ひとでなしの恋』を原作とする舞台でしたが、単なるフラメンコと日本舞踊の共演ではなく、従来の両ジャンルにはないような動きが入っていて面白いコラボレーションでした。

僕もコンテンポラリーに近い振付で臨みましたし、フラメンコの振付を初めてさせてもらったのも大きかったです。こちらも作家が大きな位置を占める作品でしたね。常々江戸川乱歩の『ひとでなしの恋』は舞踊作品になると思っていたので、提案したんです。

今回は「三島由紀夫」「金閣寺」というパワーワードが2つあるんで、そういう作家、文芸作品に焦点を当てて創作することが、これから自分にとって面白い動きの一つになる気がしています。

―『金閣寺』では、ダンサーとも共演します。

本当に多彩な国のすごい方々がオーディションで選ばれたということで、僕はオーディションを受けていないけれど大丈夫かな?と(笑)。今上演している『もののけ姫』も、新作とはいっても誰が何をやるかは、だいたい事前にイメージできましたが、今回はゼロですから、創作過程をとにかく楽しみたいですね。

中村壱太郎
Photo: Keisuke Tanigawa中村壱太郎

上方歌舞伎の俳優として

―壱太郎さんは『曾根崎心中』を含むレパートリーを持つ上方歌舞伎の家のご出身ですが、昨年来、お父様(中村鴈治郎)が歌舞伎指導に入られた映画『国宝』の影響で『曾根崎心中』がブームとなり、日本中が「心中」や「道行」に興味を持っていますね。

「死ぬる覚悟が聞きたい」が流行語大賞のように有名になって、僕も驚いています。だからこそ3月の公演もワーッと盛り上がって連日大入りでした。このワーッとなっているブームの時期にご覧になったお客様に、また歌舞伎を観たいと思ってもらえるようにしなくてはならないので、今が一番大事な時期だなと考えていますし、映画公開から1年経ってもまだ消えない流れの中で、『金閣寺』に出演させていただけるのもありがたいことです。

―今回も「浄瑠璃」と謳っていますし、マルコスさんが「道行」をキーワードに挙げておられます。もちろん、パッと見は古典とは異なるものになると思いますが、何があれば「道行」だと言えると思いますか?

たぶん、これがなければいけない、というものはなくて、「道行」という演出ですよね。死んで愛が成就されるという感覚は日本ならではでしょうし、三島も自決するわけですが、自害が美しいとされるところに、マルコスさんは一番ピンと来られたのではないでしょうか。

―今年5月には、上方歌舞伎にとって拠点とも言うべき大阪松竹座が閉場してしまいました。上方の文化の衰退も囁かれる昨今ですが、どうお感じになりますか?

僕が歌舞伎に本格的に出るようになる以前から、歌舞伎では江戸に比べて上方の俳優の方が圧倒的に少ない“希少部類”ではあったんですよね。その上で今、劇場の問題も出てきてしまいました。ただ、場所がないから残らないわけではないと思います。大事なのは、目に見えない芸の継承。広く伝われば伝わるほど散漫になる可能性もありますし、少人数だからこそ、この人とだったら分かり合えるという民族的な意識は絶対にあると思うんです。特に上方歌舞伎はチーム力が強いので、変に広げなくてもいいのではないかと思っています。

とはいえ、その土地でやるということも大事なので、1カ月の公演ではないにしても、必ず歌舞伎が大阪でかかるということを目指して、ゼロからまたスタートしていくことになります。

―先ほど10年前というお話がありましたが、今回の『金閣寺』を経て、円熟の年齢になっていく今後の10年に向けての抱負をお聞かせください。

世界を舞台に作品を創られているマルコスさんとやらせていただくことで、今という時代を感じるものを会得したいです。この『金閣寺』を2026年にやって、いつ再演できるか分かりませんが、それこそマルコスさんの故郷であるスペインなど、世界に羽ばたくような作品になればいいなと思いますし、自分の経歴の中でも一つのピンになり、次へつながっていくと思います。まずは初演を、10回しかないのがもったいないくらいの公演にしなければと考えています。ぜひ新たな表現をする僕を見てもらいたいですね。

ヘアメイク:渡辺多絵

Contributor

舞台芸術ライター。現代劇、伝統芸能、バレエ・ダンス、 ミュージカル、オペラなどを中心に取材し、「SPICE」「AERA」「The Japan Times」や、各種公演パンフレットなどに執筆。第10回日本ダンス評論賞第一席。年間観劇数は250本以上。

現在、ウェブマガジン「ONTOMO」で聴覚面から舞台を紹介する「耳から“観る”舞台」、エンタメ特化型情報メディア「SPICE」で「もっと文楽!〜文楽技芸員インタビュー〜」を連載中。

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