高橋彩子
舞台芸術ライター。現代劇、伝統芸能、バレエ・ダンス、 ミュージカル、オペラなどを中心に取材し、「SPICE」「AERA」「The Japan Times」や、各種公演パンフレットなどに執筆。第10回日本ダンス評論賞第一席。年間観劇数は250本以上。現在、ウェブマガジン「ONTOMO」で聴覚面から舞台を紹介する「耳から“観る”舞台」、エンタメ特化型情報メディア「SPICE」で「もっと文楽!〜文楽技芸員インタビュー〜」を連載中。

タイムアウト東京 > カルチャー >東京、2月に観るべき舞台5選
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寒さ厳しい2月だが、ホットな舞台が目白押し。
中村屋ゆかりの演目ほかが並ぶ歌舞伎座の「猿若祭二月大歌舞伎」、歌舞伎の人気演目を太夫と三味線と人形で観る文楽『勧進帳』では、今も色褪せることなく鮮やかに息づく古典の力が味わえる。
同様に、東京二期会オペラ劇場『カヴァレリア・ルスティカーナ/道化師』でも、クラシックのオペラの現代性が、音楽と演出によって証明されること請け合いだ。
『不思議の国のアリス』のモデルであるアリス・リデル・ハーグリーヴスと『ピーター・パン』のモデルとなったピーター・ルウェリン・デイヴィスの対話を描く『ピーターとアリス』では虚像/実像、虚構/現実、瞬間/永遠について様々に考えさせられるだろう。
中国残留孤児を描いた山崎豊子の小説の舞台化である『大地の子』では、日中を巡る過去・現在・未来に今こそ思いを馳せたい。
今月の歌舞伎座は「猿若祭二月大歌舞伎」を上演する。「猿若祭」は、初代猿若(中村)勘三郎が1624(寛永元)年、江戸で初めて幕府公認で芝居小屋「猿若座(のちの中村座)」を建て、これが江戸歌舞伎の発祥とされることから、江戸歌舞伎のさらなる発展を願って1976年に十七世中村勘三郎を中心に歌舞伎座で開始した公演。現在は中村勘九郎、中村七之助らが中心となり、中村屋ゆかりの演目などを上演している。
「猿若祭」の由来を強く感じさせるのが、昼の部の『弥栄芝居賑(いやさかえしばいのにぎわい)』。江戸の芝居小屋「猿若座」が舞台上に再現され、座元をはじめ様々な人が集まって歌舞伎のますますの繁栄を寿ぐ。猿若座座元の勘九郎、猿若座座元女房の七之助ほか、ゆかりの俳優達が並び、呉服屋松嶋旦那新左衛門の片岡仁左衛門も登場。
続く『積恋雪関扉』は、桜が咲き誇る雪の逢坂の関を舞台に、前半では良峰少将宗貞とそのもとを偶然訪れる恋人の小野小町姫との再会が描かれ、後半では関守の関兵衛が実は天下を狙う大悪人の大伴黒主であるこ
夜の部の『一谷嫩軍記(いちのたにふたばぐんき)』「陣門・組打」では、勘九郎と中村勘太郎の親子が親子役で共演。源平合戦の世、一ノ谷に構えた平家の陣に名乗りを上げて入る熊谷小次郎直家。その父・熊谷次郎直実は陣に駆け込み、負傷した小次郎を救出。やがて須磨の浦、平敦盛と一騎打ちになった直実は、敦盛を助けようとするが、この敦盛は実は小次郎で……。
熊谷次郎直実に勘九郎、熊谷小次郎直家/無官太夫敦盛に勘太郎。また、七之助扮する深川芸者仇吉と中村時蔵扮する深川芸者米八が、中村隼人演じる丹次郎を巡って恋の鞘当を展開する『梅ごよみ』は、粋で楽しい芝居だ。
※2月1日~26日/歌舞伎座/昼の部は11時から、夜の部は16時30分から/休演日は9・18日/料金は5,000円から(席によって異なる)
もし、幼少期のあなたをモデルにして生まれた物語のキャラクターが、あなたの存在と人生を脅かすほど有名になったら、大人のあなたはどうするーー?
『ピーターとアリス』は、あの『不思議の国のアリス』のモデル、アリス・リデル・ハーグリーヴスと、『ピーター・パン』のモデル、ピーター・ルウェリン・デイヴィスが1932年にロンドンの書店のイベントに同席した実話をもとに創られた作品だ。
本作の舞台となるのは、1932 年、ロンドンのとある書店で開催された「ルイス・キャロル展」の開幕式。アリス・リデル・ハーグリーヴスは 80 歳、ピーター・ルウェリン・デイヴィスは35歳。自分から生まれたキャラクターに従属する影のようになり、そこから逃れられない人生となってしまった2人が、過去を振り返りながら会話する。
『不思議の国のアリス』の作家ルイス・キャロルと『ピーター・パン』の作家ジェームス・バリーとの出会いや創作、その結果として訪れた様々な事柄、そして多くを失った第一次世界大戦……。いつの間にかピーター・パンと不思議の国のアリスのキャラクターたちも現れる。アリス・リデル・ハーグリーヴスとピーター・ルウェリン・デイヴィスが身を持って知った、虚像/実像、虚構/現実、瞬間/永遠を巡る複雑な関係性は、観客と舞台にも通じるだろう。
かくして特殊で特別な選ばれし子供の物語は、普遍性をもって私達に迫る。ぜひじっくりと味わいたい。アリス・リデル・ハーグリーヴス役に麻実れい、ピーター・ルウェリン・デイヴィス役に佐藤寛太ほか。
※2月9日~23日/東京芸術劇場/昼の部は13時(14時30分)から、夜の部は17時(18時30分)から(日によって異なる)/休演日は10・17日/料金は9,500円から(席によって異なる)
人形浄瑠璃「文楽」を観たことがあるだろうか。ユネスコ無形文化遺産にも、能、歌舞伎と並んでいち早く認定された、日本が誇る伝統芸能だ。登場人物の台詞や心の内から筋の進行や情景描写まで全てを語る"太夫(たゆう)”、情景や心情を音楽面から描く"三味線弾き”、三人で一体の人形を動かす"人形遣い”が総力を上げて送るその舞台は実に美しく、迫力に満ちている。
国立劇場の建替えが難航し東京での拠点を失っている中、文楽は様々な劇場で公演を行っており、
物語の舞台は、兄・源頼朝に追われた源義経一行が山伏に変装して奥州へ落ち延びる途中でさしかかった安宅の関。関守の富樫之介正弘から呼び止められるが、弁慶がとっさに持ち合わせた巻物を東大寺勧進の勧進帳であると偽って読み上げ、無事に関を通過するーー。
歌舞伎でも、富樫に怪しまれながら弁慶が勧進帳を読み上げる緊迫感、疑いを払うために主君である義経を弁慶が杖で打つ機転とその後の涙、通過を許された喜びや安堵、そして弁慶が「飛び六方(ろっぽう)」という独特の動きで花道に引っ込む幕切れまで、短い中に見どころぎっしりだが、これを人形がどう演じるのか?
文楽の人形の人間顔負けの繊細かつダイナミックな動き、そして全くもって伴奏などではなく熱く主張してくる太夫の語りと三味線の演奏を、お見逃し/お聴き逃しなく!
※2月11日~23日/KAAT神奈川芸術劇場/18時30分から/休演日は16日/料金は4,000円から(席によって異なる)
東京二期会オペラ劇場が、『カヴァレリア・ルスティカーナ/道化師』を公演する。イタリアにおけるリアリズム=ヴェリズモのオペラを代表する、同時代の庶民の日常をリアルに描いた演劇的なオペラ2作の同時上演だ。
前者は作曲家ピエトロ・マスカーニ26歳の頃に1幕物オペラ・コンクールで絶大な支持を得て優勝した作品、後者は作曲家ルッジェーロ・レオンカヴァッロが30代半ばで前者の成功に触発されて書き上げた作品だけあって、勢いのあるドラマティックなオペラなのだが、今回はさらに、現在50歳の鬼才ダミアーノ・ミキエレットが演出を手掛けている点も、タイムアウト東京の読者にオススメする理由だ。
『カヴァレリア・ルスティカーナ』の物語はこうだ。トゥリッドゥはサントゥッツァと付き合いながら、かつての恋人であり今はアルフィオの妻であるローラと関係を持っており、苦悩するサントゥッツァがアルフィオに真実を告げると、アルフィオとトゥリッドゥは決闘することになり……。一方、『道化師』は、旅芝居一座の座長カニオが、一座の女優でもある若い妻ネッダに浮気され苦悩しながらもぐっとこらえ、芝居の幕を開けるが、道化師が失恋する喜劇を演じるうち、現実と虚構の境目がわからなくなるという物語。
オーソドックスな演出では、『カヴァレリア・ルスティカーナ』は教会やトゥリッドゥの母親が営む居酒屋のある村の広場だが、ミキエレット版ではパン屋となり、建物の壁に『道化師』のポスターが貼られ、そしてその公演が行われる公民館か集会所といった雰囲気で『道化師』が展開。つまり2つの世界は繋がっているのだ。回り舞台を効果的に使うミキエレットの演出は今回も健在で、舞台が回るたび、ドラマが刻々と動いていく。
世界の第一線で活躍する気鋭の演出家のリアルなオペラを、ぜひ。
※2月12日~15日/東京文化会館大ホール/14時から(12日は18時から)/料金は3,000円から(席によって異なる)
中国残留孤児を描いた山崎豊子の小説で、95年にはドラマ化もされた『大地の子』が、マキノノゾミ脚本、栗山民也演出で舞台となる。
日本の敗戦によって戦争孤児となり、妹と生き別れになった日本人の少年は、小学校教師をしている中国人の陸徳志(ルートウチ)に拾われ、「陸一心」(ルーイーシン)の名で、一家の一員として愛情をもって育てられる。
しかし、中国人として成人した一心および陸一家は、文化大革命で苦境に立たされ、運命の荒波へと飲み込まれていく。親子の絆を作った中国人の父と、終戦後に再会した日本人の父。2人の父を持ち、2つの国に翻弄された一心を通して、戦争の残酷さと、国境を超えた人間の情愛を描く、感動巨編だ。
マキノノゾミの脚本では、生き別れになった一心の妹にも焦点が当てられ、また、日中関係が冷え込む現代に接続する物語ともなっている。プロローグには、大地に屹立する無数の木々を記憶の林とする記述があり、歴史の記憶装置としての演劇を演出のテーマとしている栗山の姿勢が色濃く反映されている。本作を通して、日中の国と人の歴史、そして未来に思いを馳せたい。
陸一心に井上芳雄、一心の実妹の魂のような存在である張玉花(ツァンユウホワ)に奈緒、中国の父・陸徳志に山西惇、一心の実父・松本耕次に益岡徹、ほか。
※2月16日~3月17日/明治座/昼の部は13時(12時)から、夜の部は18時(17時)から(日によって異なる)/休演日は3月5日・13日/料金は5,000円から、土・日曜・祝日・千秋楽は6,000円から(席によって異なる)
高橋彩子
舞台芸術ライター。現代劇、伝統芸能、バレエ・ダンス、 ミュージカル、オペラなどを中心に取材し、「SPICE」「AERA」「The Japan Times」や、各種公演パンフレットなどに執筆。第10回日本ダンス評論賞第一席。年間観劇数は250本以上。現在、ウェブマガジン「ONTOMO」で聴覚面から舞台を紹介する「耳から“観る”舞台」、エンタメ特化型情報メディア「SPICE」で「もっと文楽!〜文楽技芸員インタビュー〜」を連載中。
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