パラリンピアン

インタビュー:エリー・コール、ダニエル・ディアス

パラ水泳のスーパースターが、競技人生を語る

テキスト:
Miroku Hina
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いよいよ、来年に開催が迫る東京オリンピック・パラリンピック。近年では、パラリンピックの話題がメディアで取り上げられことも多く、パラスポーツの魅力も広く知られるようになった。なかでもパラ水泳は、障がいの程度が異なる選手が同じレースで競い合いオリンピックでは見られらないような逆転劇も繰り広げられる、見所満載の競技のひとつだ。

そのパラ水泳で、それぞれ腕や右足がないことをものともせず、多数のメダルを獲得してきたトップスイマーが、ブラジルのダニエル・ディアスと、カナダのエリー・コール。今回は、祖国でスーパースターと呼ばれ、東京大会に向けて注目が集まる2人に、競技人生の支えや、競技の魅力を聞いた。

ー水泳競技に夢中になったきっかけは?

エリー・コール(以下EC):12歳の時に、競技に出ました。年上のメダリストたちを相手に、なぜか「絶対に1位になれる」という自信を持って挑んだんです。でも、水に飛び込んだ瞬間にゴーグルが外れ、結果は惨敗。家に帰るまでずっと泣いていました。その日以来、世界一の水泳選手になってやろうと心に決めたんです。

ダニエル・ディアス(以下DD):16歳で水泳を始めましたが、当初は選手になりたいとは考えていませんでした。でも、やり続けるうちにやりがいが増してきて、翌年の2005年末には全国大会出場することができたんです。その大会で銅メダルを2個獲ったことで「国の代表選手になりたい」と思うようになりました。 

ーあなたの競技人生を支えてくれたものは何ですか?

 EC:トレーニングが辛くなった時に、話を聞いてくれる人、全員と言って良いかもしれません。実際、アスリートは、非常に多くの人に支えられています。競技を見ていると、アスリート本人だけに注目してしまいがちですが、コーチや理学療法士、マッサージセラピストなど、様々な人たちがいるんです。特に親しくはなくても、ほかのパラリンピアンたちの素晴らしさを目にすることも、とても励みになります。

DD:何と言っても家族です。結婚するまでは、両親は常に僕の味方でいてくれました。今は、妻と2人の息子がいる自分の家庭が、僕のモチベーションの原点です。辛いときにも必ず側にいてくれるという確信が、強さにつながっています。

―水泳競技では、障がいによってフォームや強みも異なります。ご自身の強みをどのように分析されますか。

EC:通常、足のない選手は、スタートキックがレースの大勢を決める短距離レースが得意ではありません。でもそこが面白いところで、私は腕のない選手と競争することもありますが、最初は彼らに先行を許しても、後に追い上げて50mレースで逆転することもあるんです。そういう点もパラスポーツならではの見どころじゃないでしょうか。

DD:僕の強みはやはり、脚力です。僕には足が一本しかないので、一本で二本分の仕事をしてくれるようにトレーニングしています。筋肉を鍛えるのはもちろん、筋肉の使い方を習得するなど、様々な工夫をしています。

―パラ水泳競技の楽しみ方を教えてください。

EC:競技について知るほど、楽しむことができるでしょう。パラ水泳は多種多様な障がいをもつ選手が一緒に競うため、ルールも複雑です。ロンドン大会では、レースの前にクラス分けシステムや、各選手の障がいを説明するビデオが流れました。それにより、人々は競技を理解し、より白熱することができたと思います。

DD:競技について知ろうとする姿勢を持ってもらうことが理想ですが、開催国や委員会などの組織が、できるだけ情報を流すことも重要ですね。例えばリレー競技で言うと、障がいの程度や、障がいの種類が違う選手がひとつのチームとなり競います。パラスポーツにしかない面白さですが、遠目から見るだけでは、理解しにくいかもしれません。

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ーお2人ともWOWOWで放送された『IPC&WOWOW パラリンピック・ドキュメンタリーシリーズWHO I AM』のシーズン1に出演されてましたね? 

EC:素晴らしい経験でした。番組への出演は、プロのパラリンピアンとしての責任を再認識する機会となりました。それは世界に「人間の持つ可能性」を示すということ。私自身、小さい頃にプロ選手の姿にインスパイアされましたが、今は自分自身が、子どもたちに力強いメッセージを届ける立場にあると知るのは、自身にとって重要なステップとなりました。

DD:5年にわたりパラリンピアンの姿を追うという、壮大な趣旨の番組に出演できたことを光栄に思います。間違いなく、パラリンピック、パラスポーツのムーブメントの歴史を飾る重要な1ページとなるでしょう。番組では、パラリンピックに関する知識を届けるだけではなく、パラリンピアンの人格や、普段の生活といった側面にも光が当てられました。アスリートである前に、一人の人間として紹介してもらった点に深い意義を感じました。僕らを見た誰かが「自分にもできる」と思ってくれれば、これほど嬉しいことはありません。

―アスリートとしての今後の目標は?

EC:私も年をとりました。最近では、朝起きた時に膝が痛み、年齢の影響を感じます(笑)。ですから、今、私にとって一番大切なのは、自分のベストを尽くすことです。メダルを目指すことはもちろんですが、そこに集中しすぎると、周囲の状況を見失いがちです。自身のベストを尽くすことで、自然とメダルにも近づくでしょう。

DD:僕は約1年前、コーチを始め、サポートチームを一新しました。すべては自分をベストコンディションに近づけるため。更にパワーとスピード感を上げて、記録を伸ばしていきたいと思います。

―東京大会に期待することは?

EC:東京ではすでに、パラリンピックの看板を各所で見かけました。歩いているだけで、人々がどれほど東京大会を待ち望み、コミュニティとして参加することに期待しているかが感じられます。大都市ですから、アクセシビリティの問題はあるかもしれませんが、各所で工事がなされ、努力されているのが見てとれます。その取り組みが2020年までにどこまで反映されるのか、本当に楽しみですね。 

DD:東京大会は、パラリンピック史上最高の大会になるのではないかと思っています。日本人の企画力や推進力、そして細やかさは、他国と比べても優秀です。ラテン系の国では考えられないような強みですよ(笑)。会場となる建設中のプールを見ただけで、期待感で胸がいっぱいになりました。

 

●プロフィール

ダニエル・ディアス(ブラジル/水泳)先天性の四肢奇形。16歳で水泳を始めるとすぐさま国際舞台へ。圧巻の身体能力であらゆるレースを制する。パラリンピックでは、男子水泳史上最多となる通算24枚のメダルを持ち、うち14枚が金メダル。もはやレースに勝つかどうかではなく、メダル獲得枚数と記録に注目が集まる、スーパースター。

エリー・コール(オーストラリア/水泳)神経の周りを包む珍しい腫瘍により、3歳の時に右足の膝上を切断。12歳で本格的に競泳を開始し、パラリンピックでは北京大会以降3大会で15枚のメダルを獲得。深刻な肩の怪我などを乗り越え、進化を続ける最強スイマー。爽やかさと知性を併せ持ち、東京パラリンピックでも要注目の競泳大国のエース。

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