無限の可能性を秘める「イヌコロ」とは

日常も変えてしまう?「イヌコロ」が持つ投球補助機以上のポテンシャル

作成者: Shiori Kotaki |
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「障がいがある人もない人も同じ土俵で戦える。あまりない状況ですが、イヌコロならできるんですよ」。うれしそうにこう語ったのは、西川精機製作所代表取締役の西川喜久。『イヌコロ』という新たな可能性を作り上げた一人だ。

イヌコロって?
『イヌコロ』とは、1960年に創業した町工場の西川精機製作所と、障がい者が過ごしやすい社会を目指して活動するINU Projectが共同開発したボウリングの投球補助機。投球補助機は、車いす利用者や高齢者、子どもなど、自分でボウリングの球を転がすのが難しい人の投球を補佐するものだ。従来の据え置き型のものでは、他者によって設置された球をレバー操作で転がすことしかできなかったが、この『イヌコロ』では「自分自身で球を転がす」という体験を可能にした。

従来の据え置き型の投球補助機 

クラウドファンディングを経て商品化された『イヌコロ』6号機。『イヌコロ』と名付けられた理由は、INU Project代表でエンジニアの松田薫が大の犬好きであることから。「犬」と「転(ころ)がす」をかけたそうだ 

使い方もいたってシンプルだ。器具を車いすにセットしたらこいで前進し、程よいタイミングでキュッとハンドリムを握ってブレーキをかける。そうすると球が転がり落ちる仕組みになっているので、スピードや、球を投げる方向を自分でコントロールすることができる。

『イヌコロ』で遊んでいる様子。動画で使われているものは5号機 

この全く新しい投球補助機を作ろうと思ったきっかけについて、西川精機製作所代表取締役の西川はこう語る。

「印刷業をやっている友人が持ってきたボウリング用品のカタログで、初めて投球補助機を知りました。障がい者や高齢者、子どもは、こういった器具がないとボウリングができないんだと言われたのですが、カーブもシュートもできないこの器具を使ったプレイで、本当にボウリングを楽しんだと言えるのかと疑問に思いました。なので、自分の意思で球に回転をつけたりできるような器具を自分が作ってやろうと思いました」

西川精機製作所代表取締役の西川 

「生の声」を大切に重ねた改良
2014年から江戸川区の新製品開発助成金を受けながら、この熱い気持ちで開発を進めていた西川だったが、1号機は失敗に終わる。球を左右にカーブさせることには成功したものの、サイズが非常に大きく、なんだかんだで置き型だったのだ。西川は、「『絶対にあの人たちのためになる』と勝手に思い込んで作っていたのが失敗の原因だった」と当時を振り返る。

1号機の失敗後に共通の知人を介して知り合ったのが、日頃から障がいのある人々に寄り添っているINU Projectだった。一方のINU Projectも、企画担当で理学療法士の井手麻衣子が「ボウリングを気軽に楽しみたい」とある女の子から言われたことを機に、新しい投球補助機を作ろうしてしていたのだ。5号機以降から本格的にタッグを組むことになり、ユーザーが本当に欲しているニーズを分かりきれていなかった西川精機と、「なんでボールがきれいに転がらないのか」という検証ができずに悩んでいたINU Projectがお互いを補い合うことで、『イヌコロ』は一気に進化を遂げた。

また、試作機が完成しては実際に使用してもらい、「生の声」を大切にすることも意識したという。時には理学療法士からもアドバイスをもらい、デザインにも反映したそうだ。例えば、当初の『イヌコロ 』は、自走の車いすにしか対応できないデザインだったが、6号機は自走や電動など、さまざまなタイプやサイズの車いすに対応できるデザインになっている。これも「みんな一緒に見えるけど、実は電動の車いすと自走の車いすでは全然座高が違うのよ」という、理学療法士からのアドバイスがあったからこそだ。

西川の「ボールが落ちる瞬間にキュッと車輪の向きを変えてみたり、『イヌコロ』を使って一喜一憂する子どもの姿を見ていると、家族とボウリングに行った自分の子ども時代を思い出してうれしくなる」という話も印象的だった

イヌコロが変える未来
2016年、ついに6号機が完成。商品化もされたが、現実はまだまだ厳しかった。実は、『イヌコロ』が常設されているボウリング場は一つもなく、残念ながらまだ気軽に楽しめる存在ではないのだ。しかし、西川はいたって前向きだ。まずは、『イヌコロ』を用いたイベントの定期開催を目指しつつも、いずれは『イヌコロ』だけを用いたボウリング大会の開催ももくろんでいる。

「カラフルなイヌコロを数台作って、イヌコロ限定のボウリング大会を仕掛けたいと思っています。健常者も手で球を投げるのではなく、イヌコロに乗って転がすんです。いざやってみると健常者の方が難しいかもしれません。でも、うまく投げられないと悔しくなるじゃないですか。だから、変に気を遣ったり、手を抜いたりできないので、障がい者も健常者も本気でできるのが面白いと思うんですよ」

『イヌコロ』が世の中に浸透するにはまだ時間がかかるかもしれないが、もしこの大会が開催されたならば、西川の言う「障がいがある人もない人も同じ土俵で戦える」という状況が実現するだろう。また、外に出ることを躊躇(ちゅうちょ)している車いす利用者も『イヌコロ』をしようと外に出る機会が増え、彼らの生活の質も上がるかもしれない。さらに、常設されるボウリング場が増えれば、車いすを利用する子どもたちの遊びの幅もきっと広がるはずだ。

『イヌコロって何?」と聞かれれば、誰もが本当のボウリングを楽しめる投球補助機となるわけだが、この投球補助機にはそれ以上のポテンシャルがある。人々の日常も変えてしまうような、投球補助機の域を超えた可能性が秘められているのだ。

現在、この取り組みに協力してくれるチームメイトも募集中。イヌコロが変える未来に興味を持った人は、ぜひINU procjetのオフィシャルサイトをチェックしてみてほしい。

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