Passport queue
Photograph: Shutterstock

ワクチンパスポートについて知るべき5のこと

旅行、遊び、仕事でどう使われるのか、問題点は何か

Huw Oliver
テキスト:
Huw Oliver
広告

世界中の国々がパンデミックから抜け出すための明確なルートを確立するために、ワクチンに賭けている。しかしどの国の政府も今、旅行、演劇、コンサート、仕事など、経済活動の各分野を全ての人に開放するのか、それとも、ワクチン接種した人だけを対象にするのか、という大きな問題に直面している。

初期の研究では、主要なワクチンのうち少なくとも2種類は、ウイルスの感染を防ぎ、重症化を軽減する効果があることが示されている。それゆえ、企業、職場、国境が再び「開く」場合に、新たな感染リスクを抑制するための一つの方法として、「健康パス」または 「ワクチンパスポート」と呼ばれるようなワクチン接種証明を求めることが検討され、一部で導入されているのだ。

この問題は、すでに道徳的、倫理的、法的な問題を抱えている。ほとんどの国では、ワクチンは義務化されず、接種の進捗(しんちょく)を見る限り、我々の多くは接種までまだ数カ月待たなければならないと予想される。医学的な理由でワクチンを接種できない人も多く存在し、信念に基づきワクチン接種に反対する人もいるかもしれない。そして、接種を受けた人だけに特定の自由と特権を与えることは、恐らく多くの人から差別的とみなされるだろう。

バーやレストラン、劇場に入るには、本当にワクチン接種証明書の提示が必要になるのか? 休暇前に予防接種を受けておく必要があるのか? そして何が接種の証明とみなされ得るのか? ここではこれまでに「ワクチンパスポート」について分かっていることを紹介する。

1. 2021年の旅行にはワクチンパスポートが必要になるかもしれない 

ワクチン接種の世界的な展開はまだ始まったばかりだが、すでに接種した人たちは、旅行に関して優位な立場にある。多くの国の政府は依然として自国民に海外旅行を控えるよう忠告、もしくは完全に禁止しているが、観光に依存している国の中には、政府がワクチンを接種した人たちに対して、国境を開放し、旅行制限を撤廃しているケースも増え始めているからだ。

ポーランド、エストニア、アイスランド、ルーマニア、グルジア、セーシェルなどはすでに、既存の検査や隔離の代わりとしてワクチン接種証明を認めることを発表。つまりワクチン接種を受けた人は、ほかの人に課せられる厳しい規制をスキップすることができるのだ。今後も多くの国がこの動きに続くことになるだろう。また、まだワクチン接種を入国条件にしている国はないが、ワクチンがさらに広く普及すれば、それが標準とされる可能性もある。

旅行において、何らかの証明が必要になるのは国だけではない。旅行会社や航空会社も同様である。50代以上の旅行を専門とするクルーズ会社、サガは全ての乗船者にワクチン接種を求め、オーストラリアのカンタス航空も、今後全ての搭乗前にワクチン接種の証明を提示を求めることになるという考えを繰り返し表明している。

2. ワクチンパスポートは文化やナイトライフを開放してくれるだろう

海外旅行の予定がなくても、自国での生活を最大限に楽しむためには、ワクチン接種の証明が必要になるかもしれない。

すでに人口の約半数が接種を受けているイスラエルでは、それが現実になっている。イスラエルでは、2回のワクチン接種を受けた人が特定の場所への出入りを再開できる『グリーンバッジ』システムを開始。2021年2月21日から、『グリーンバッジ』を持っている人は、ジム、カルチャーイベント、礼拝所、ホテルにアクセスできるようになった。イスラエルでは、ロックダウンが緩和されるにつれ、このシステムが映画館や劇場のような、ほかのリスクの高い場所にも拡大されると考えられている。

また、国家がワクチン接種についての情報を中央管理していなくても、民間企業がイベント会場などへの入場時に独自のシステムを使う可能性は高い。そのシステムを導入することで、多くの客を受け入れることができるのでれば、なおさらだ。

実際、現在多くの民間企業が、個人の医療記録とリンクするアプリの開発に取り組んでいる。これらは、ワクチン接種の証明を必要とするイベント会場などの入り口などで使われるだろう。例えば、イベント会場へ到着し、アプリを立ち上げると、ワクチン接種をしたことを示す「QRコード」が表示され、それを見せて入場するということがことが想定される。そう、チケットレスの入場システムとほとんど同じだ。

業界関係者は、このようなワクチンパスポートは、ビジネスを再開させ、軌道に乗せるための鍵になるだろうと述べている。イギリス全土で地域に根差したライブハウスなどを代表している慈善団体であるMusic Venue Trustは、ワクチン接種または直近の検査における陰性のいずれかの証明を必要とすることが、2021年にライブを開催するための唯一の実行可能な方法であると考えているようだ。

同団体の最高経営責任者(CEO)であるマーク・デイヴィッドは「経済的に成り立つイベントは、ソーシャルディスタンスありきでは実現できない。ワクチン接種の確認は、ライブハウスがフルキャパシティで公演を行うために有効なツールの一つだ」と述べている。

訪れる先の規模によっても対応の違いが出てくるかもしれない。イギリスでは、政府がレストランやパブなどではワクチンパスポートの導入を否定している。しかし2021年2月に同国首相であるボリス・ジョンソンは、演劇やコンサートなどの大規模なイベントが当面行われる場合、入場時に免疫の証明を要求するしかないと述べた。周りの人が予防接種を受けていることを知ることで、外出することへの人々の信頼感が高まり、経済が再び元気を取り戻す可能性も確かにある。

3. 仕事でもワクチンパスポートが求められるかもしれない

旅行はおろか、ライブイベントにも出かけることはない? それでも、まだワクチンパスポートが必要になるかもしれない。なぜなら、企業が従業員がワクチン接種を求める可能性があるからだ。

BBCによると、イギリスでは、ある配管工事会社が従業員にワクチン接種を受けるように要求し、順守しないスタッフには辞めてもらうかもしれないという方針を示しているという。イギリスの司法長官であるロバート・バックランドは、契約書に記載されている限り、企業はスタッフにワクチン接種を要求することができるようになるとの考えを示している。

ただ、新しく入社するスタッフにはそうした対応は取りやすいが、既存スタッフについては、企業がそのような要求をすることは考えにくい。なぜなら、ワクチン接種を必要要件にすると、障害、宗教的信条、または妊娠を理由として接種を受けないスタッフから、不当解雇や差別だと訴えられる可能性があり、対応コストもかさむからだ。

雇用問題専門の弁護士たちは、そうした雇い主からのワクチン接種の要求は、ケアホームのスタッフや海外出張が多い人など、接種が「重要」だと考えられる職種では現実になるだろうと話している。

4. すでに運用されているワクチンパスポート

各国政府はワクチンパスポートのメリットを検討していて、一部の国では導入を開始している。先に紹介したイスラエルの『グリーンバッジ』だけでなく、ほかにも一握りの国で、ワクチン接種を受けた人がすぐに海外旅行へ出られるよう、証明書の発行を始めているのだ。

アイスランドでは、ワクチン接種を2回受けた市民に証明書が発行されるようになっていて、デンマークでもワクチン接種を受けた人が旅行へ出る際、政府のウェブサイトから接種証明書を印刷することが可能だ。同国ではまた、ワクチン接種を受けたことをパスポートチェックで証明するためのスマートフォンアプリをリリースする予定がある。一方、バーレーンでは、国が管理するワクチン接種情報にリンクした「QRコード」の表示機能を含む、『BeAware』という独自アプリをリリースしている。


もちろん、世界中を自由に飛び回るのはまだ難しい。誰かに聞かれたときに、ワクチン接種を証明できる完璧な「印籠(いんろう)」となる、広く認知されたワクチンパスポートは今のところない。国によってワクチン接種を証明する要件が違い、また何が必要な要素なのかを明確にしていない国も多いというのが現状だ。そのため今のところは、自分の国が公式に独自のワクチンパスポートを発行していない場合、ワクチン接種時に受け取った書類をなくさずに、それが旅先でも使えることに期待するしかない。


ただ現在、さまざまな企業や機関が世界的なワクチンパスポートの開発プロジェクトに取り組んでいる。国際航空運送協会(IATA)は、旅行者がワクチンや検査の詳細をデジタルアプリに保存できるようにする『トラベルパス・イニシアチブ』を立ち上げ、また、スイスの非営利団体であるコモンズプロジェクトと世界経済フォーラムも同様のアイデアに基づいた『コモンパス』をスタートした。

国際的なワクチンパスポートの課題は、使いやすく、旅行者のデータを保護しつつ、世界中の複雑で変化し続けるルールや制限に対応できるシステムを作ることだろう。これを実現するには時間がかかるため、特定の国(または国のグループ)が、ワクチンを接種した旅行者の相互渡航を可能にする、個別の協定を締結することもあり得ると見られている。

例えば、ギリシャの首相であるキリアコス・ミツタキスは、欧州委員会に対し、ワクチン接種を受けた人のために
欧州連合(EU)域内での渡航の自由を認める予防接種認証プログラムの作成を要求。アメリカのハワイ州は、独自のワクチンパスポートシステムに取り組んでおり、早ければ5月には、アメリカ国内のほかの地域からワクチン接種を完了した人が同地を訪れることができるようになるかもしれない。また、スペインのマヨルカ島とイビサ島は、イギリス人旅行者を引き込むため、試験的なワクチンパスポートスキームを構築するようスペイン政府に求めている。

5. 倫理的な騒動を引き起こしている

そう、ワクチンパスポートには深刻な倫理的な問題が浮上しているのだ。イスラエルの『グリーンバッジ』は、ワクチンを受けた人と受けていない人を差別するものであると、すでに物議を醸している。一部の人が、この制度が「二層社会」を作り出し、特定のアレルギーや免疫系の病気、妊娠などの正当な医学的理由のためにワクチン接種を受けないように勧められる人もいる、という事実の見落としがあると主張。イスラエルではワクチン接種が法的に義務付けられていないことは言うまでもないし、接種を受けるかどうかは個人の選択次第だ。

イギリスでは、政府が人々が劇場やライブハウスに行くことを禁止することについて「倫理的な問題」が伴う可能性があると見解を示している。これらの問題は、数カ月後に予定されている公式報告書で取り上げられる予定だ。

きっと世界中の国々で、今後も似たような議論が展開されることになるだろう。しかし、それにもかかわらず、強い権威主義的な傾向の少ない国の政府でさえも、長期的にはワクチン普及を促進するための一つの方法として、個人の自由を犠牲にしてまで地域における「パスポート」導入をよしとするケースも増えるかもしれない。

ワクチンパスポートにはまだ不確実性がたくさんあるが、一つだけはっきりしていることがある。それは(可能であるのに)ワクチン接種を選択しなかった場合、2021年においてはたくさんの楽しみを否定されるリスクがあるということだ。 

原文はこちら

関連記事

外国人もワクチン接種の対象に、河野太郎が明言

アメリカの一部コストコ店舗でワクチン接種が可能に

アメリカの各州で最も検索されている旅行先

2020年、世界で最もクールな40の地域

世界の移住したい国ランキングで日本が第2位に

最新ニュース

    広告