Women proving solo travel is for everyone
Photograph: Courtesy of Owners/Time Out

2023年の「一人旅」を再定義する3人の女性

気候変動のための旅をする「おばあちゃん」、SNSで人気の「ベールに包まれた旅人」、世界195カ国全てを旅した黒人女性

編集:
Grace Beard
テキスト:
Miriam G
Charlie Duffield
Syeda Khaula Saad
広告

一人旅が人生を変える魔法であることは、よく知られている。旅行ブロガーやインフルエンサーなどは、一人旅は力を与え人生を肯定する行為であり、世界の多様な文化に目を向けることができるもの、などとその素晴らしさを説いている。

しかし、旅が我々の世界観を広げる力を持っているにもかかわらず、一人旅について聞こえて来る声には、多様性が欠けているともいえる。TikTokやInstagramで「solo travel(一人旅)」とタグ付けされた投稿をスクロールしてみると、芸術的な夕日写真や旅のヒント動画の大半には、若い白人女性旅行者が登場する傾向にある。

しかし、ここで紹介する3人の刺激的な女性たちが証明するように、一人旅は誰にでもできるものだ。

72歳の「おばあちゃん」であるドロテ・ヒルデブラントは、スウェーデンからエジプトまで自転車で移動しながら、人々に持続可能な旅をするよう働きかけている。白人が多い旅行系インフルエンサーの世界で自分の居場所を切り開くのは、ニカブ(目以外の顔全体を覆うイスラム教の衣服)をまとったイスラム教徒の女性であるキヨナ・マイヤ・バックホルター。ジェシカ・ナボンゴは、36歳になる前に地球上の全ての国を旅した史上初の黒人女性である。

2023年の国際女性デーを迎えるに当たり、我々は彼女たちに一人旅をしながら、世界をどう見てきたのか聞いた。

ドロテ・ヒルデブラント

65歳の時、ドロテ・ヒルデブラントは定年後の人生を世界を旅することと、環境のために闘うことにささげると決意した。2022年、72歳になった彼女は自宅のあるスウェーデンから「COP27(第27回気候変動枠組条約締約国会議)」が開催されたエジプトまで、自転車で移動することに成功した。彼女は今、その帰路に就いている。彼女は自身の「気候変動のための旅」について、ミリアム・ガーデルに語った。

Dorothee Hildebrandt
Photograph: Courtesy of Dorothee Hildebrandt/Time Out

子どもの頃に始めた自転車旅行

戦後のドイツで育ったので、お金はあまりなかったんです。でも、夏になると父が自転車旅行に連れて行ってくれて、ドイツやスイスのあちこちを回りました。世界旅行に出たのは退職と同じタイミングで、2015年の11月。1年以上かけてニュージーランド、オーストラリア、カナダ、アメリカを訪れ、2年後にはメキシコとベリーズへ行きました。

グラスゴーで開催された「COP26(第26回気候変動枠組条約締約国会議)」に自転車で行くという、初めての「気候変動のための旅」をしたのは、2021年です。私はそれまでもいつもリサイクルをしてきましたが、2018年にテレビでグレタ・トゥーンベリを見て、事態が悪化していることを思い知らされました。私たちは豊かになりましたが、消費は賢くなったわけではなかったのです。

今回の旅は長いですが、一度やったことがあるからこそ、「必ず成功する」と信じて疑わなかったです。2022年7月にスウェーデンを出発して、1万キロ以上を走破しました。愛車は「ミス・ピギー」と名付けたピンクの電動自転車。COP27が開催されたエジプトのシャルム・エル・シェイクには、会議が始まる1日前に到着しました。

私は人々に、この距離を自転車で走ってほしいと思っているわけではありません。しかし、私たちは気候変動を真剣に受け止め、それを好転させるために全力を尽くさなければならないとは思います。

印象に残っているのは「人」

訪れた国はどこも楽しかったです。文化的モニュメントや思いがけない自然を見るのはいつも驚きですし、治安が悪いと感じたこともありません。今回の最も素晴らしい体験は、シワ・オアシスを実際に見たことです。子どもの頃に見た写真と同じものが、目の前にあったのですから。

今、私はイスラエルにいて、キプロス行きの次のフェリーが出る(2023年)4月まで待っています。旅を始めて8カ月がたち、ホームシックになるのはいつもこの時期。自分の小さなアパートが恋しくなります。計画では8月に戻る予定ですが、シリアとトルコで地震が起きたので、変更になるかもしれません。

一番印象に残っているのは「人」でしょうか。トルコでは、運転手が急な坂を越えるのを手伝うと言い、そのまま次の村まで連れてってくれました。何度も夕食に誘われたり、泊めてもらったりしたこともあります。ミス・ピギーだって、タダで助けてもらったり、直してもらったりしているんです。

Facebookで資金を送れないかと申し出てくれた人、励ましのコメントを残してくれた人、地元の人たちとつなげてくれた人などがたくさんいました。私は今皆さんに、ウクライナの戦争で被害を受けた子どもたちを支援するチャリティーとして、私の走行距離1キロにつき1ユーロ(約142円)を寄付するようお願いしています。

自分の年齢は気になりません。これからも長旅をたくさんしたいと思っています。今後の自転車旅はもっと短期間になるでしょうか。このような旅は、体と心さえあればできるものです。そう簡単にはいかないかもしれませんが、気候に優しくする方法はほかにもありますからね。何にせよ私は、「72」が年齢だとは思っていないのです。

キヨナ・マイヤ・バックホルター 

顔を覆うイスラムの衣服であるニカブを身に着け、一人で世界を旅するイスラム教徒の女性、キヨナ・マイヤ・バックホルター。ソーシャルメディア上で「The Veiled Traveler(ベールに包まれた旅人)」と名乗る彼女は、信仰を実践しながら世界を見ることを楽しむインフルエンサーとして話題を呼んでいる。彼女はイスラム教徒女性としてどのような旅をしているのか、シエダ・カウラ・サードが聞いた。 

Kiyonah Mya Buckhalter
Photograph: Courtesy of Kiyonah Mya Buckhalter/Time Out

ニカブを被るまで

旅が好きになったのは、家族の影響です。家族旅行や夏休みを過ごしたカリブ海・プエルトリコへの旅行などに行く中で、次の大きな旅を心待ちにするのはいつも自然なことだと感じていました。

しかし、旅こそ自分の人生をかけてやりたいことだと初めて気付いたのは、大学2年の時に半年間、イタリアのフィレンツェに留学していた頃でした。

ヨーロッパのまさに素晴らしいところなのですが、鉄道に数回乗るだけで外国を旅できるんです。その感覚をつかんだ時に、世界旅行に夢中になりました。それからはイギリス、ドイツ、スペインへ、時には15ユーロ(約2,140円)という低料金で行ったり来たりしていました。

見知らぬ人と食事をする、地元の人たちの日帰り旅行についていくなど、自分の直感に任せて新しい街を巡ったものです。一つの冒険は常に次の冒険へとつながりました。そうして、私はさらに旅に夢中になったのです。

イスラム教を好きになり始めたのも同じ頃。母はキリスト教徒で、父は「ネイション・オブ・イスラム」のメンバーでしたから、もともと宗教に囲まれて育ったのですが、学生時代にモスクに通ったことから、スンナ派に傾倒していきました。

最初は、自分のためにコミュニティーを見つけることが目的でした。しかし、モスクで説教を聞き、ほかのムスリムと一緒にいるうちに、私の中でいろいろ理解できるようになったのです。あるラマダンの時、私は自分の宗教にできる限りコミットしたいと思い、その時ニカブを着ることに決めました。

旅への情熱は同じ

アイデンティティーをはっきりとさせる新しいアイテムを身に着けることで、私の人生が変わることは分かっていました。しかし、それで私の旅行好きが変わることはありませんでした。身体的にはイスラム教徒であるという新しい人格が、それを変えてしまうのは避けたいと考え、私は旅を続けたのです。

今日まで28カ国を旅してきました。そのほとんどが一人で訪れた国。旅への情熱は同じですが、これらの国での体験は変わりました。

私は、一目で分かる一人旅をするイスラム教徒の黒人女性になったのです。道を教えてくれたり、一緒に歩いてくれる人の数が減ったのは、イスラム恐怖症の影響もありますが、ニカブそのものが人との交流に影響を与えていることに気付かされました。

私は顔にベールをかぶっていたので、笑っているのか、不機嫌そうにしているのか、他人には分からなかったのでしょう。未知なるものには恐怖がつきものですが、人々が私に近づいたり、会話を始めることに恐れていたりするのが分かるのです。以前との差は歴然としていて、私もその恐怖を内面化してしまうこともありました。

しかし、私が慣れ親しんできた旅には自分から行動すること、初対面の人との間のリスクも負っていくことが不可欠でした。泊まるホステルを決める以外、私は旅行の計画を立てません。いくつかの目的地を決め、地元の人たちと話をして、次に何をするか、何を見るかを決めています。もし私がほかの人を怖がらせているのであれば、同じような旅をするにはどうすればいいのでしょう?

励ましの言葉はあってもいいかもしれません。ただ私の場合、自分が他人にどう思われているかによって、自分の旅が邪魔されることはありません。過去数年間で韓国、モロッコ、ギリシャ、ドミニカなどの国々をニカブを着用しながら旅してきました。私はどの旅にも感謝しています。旅の中で、私を助けてくれた大きなコミュニティー(イスラム教徒と非イスラム教徒の両方)を得ることができたからです。

私の夢は、ほかのイスラム教徒の女性たちが同じように旅をできるようにすることです。これが私の残りの人生でやりたいことですね。私は、かなり上手にできるようになったと思うので。

ジェシカ・ナボンゴ

ジェシカ・ナボンゴは作家、写真家、起業家、旅のエキスパート、インフルエンサー、パブリックスピーカーなどの肩書を持つ女性だ。2019年、彼女は記録上初の黒人女性として、世界195カ国全てを旅することに成功した。しかし、彼女がすぐに旅をやめることはないだろう。ナボンゴは、これまで、そしてこれからの旅について、チャーリー・ダフィールドに語った。

Jessica Nabongo
Photograph: Courtesy of Jessica Nabongo/Time Out

旅で感じた偏見

私は4歳の頃から旅をしています。私を旅好きにしたのは、両親。経済的に自立した後は、多くのお金を旅行につぎ込み、35歳を過ぎた頃、世界の全ての国を訪れることを達成しました。これは黒人女性として初めてのことです。

私は、一般的な黒人というよりもアフリカ系に見えるという理由で、差別を受けたことがあります。問題は、主に入国審査。アメリカのパスポートを使っていると、職員から偽物と思われることがよくありました。ウガンダのパスポートを使っていると、ビザのオーバーステイだと思われたことも……。

世界的な反アフリカ感情はありますが、私はいつも「政府と人間は別の次元に存在する」と言っています。例えばパキスタンでは、滞在中は素晴らしい時間を過ごしましたが、麻薬の密輸入者だと思われ、出国するのに最悪の経験をしました。

一人旅の良さ

私の最大の目標は、ストーリーテリングを通してこうした偏見を減らすことです。(2022年)6月にナショナルジオグラフィックから本を出版しましたが、その多くで、見知らぬ人たちが私の美しい人生をどのように導いてくれたかを語っています。私は89カ国を一人で旅しましたが、それは見知らぬ人たちの優しさによってのみ可能だったのです。

一人旅をすることで、新しい視点で国を見ることができるようになったという声が聞かれます。友人との旅行も好きですが、一人旅はその国の文化にどっぷり浸かることができるので、特別なことだと思うんです。一人なので、知らない人と話すことが多くなりますし。

自分の街にいる時でも、なまりのある人がいたら、どこから来たのか聞いてみることも。以前、ニューヨークでUberの運転手がアルジェリア出身だったので、現地の方言で「ありがとうございます」と言ったことがあります。彼は、私がその言葉を知っていることを信じられないようでした。私がその国を訪れたと言うと、人々はいつも大喜びします。

主な旅行メディアでどこかの国のことが書かれていないからといって、それが危険だとか、好ましくないというわけではありません。私はナミビア、セネガル、ガーナ、モザンビーク、マダガスカル、ヨルダン、オマーン、レバノンが大好き。中東とアフリカは、人々が敬遠する地域かもしれませんが、実は私のお気に入りなんです。

とにかく旅へ出よう

現在も月に2回ほど旅行をしていますが、次の旅行はキューバ、スコットランド、ウェールズを訪ねる予定です。私にとって旅とは、パスポートにスタンプを押すことではありません。どこかに行って探索し、学ぶ機会を得ることなのです。世間は私たち女性に恐怖心を抱かせようとするかもしれませんが、私はたくさんの素晴らしい経験をしてきました。

私は旅を過激な行為だとは思っていません。ただ、この人生を精一杯生きたいだけなのです。私の旅から人々が得るものは、ただとにかく飛び出すこと。外に出て、行きたい場所を訪れ、うまくいかないかもしれないことにとらわれないことです。

関連記事

These three women are redefining what solo travel looks like in 2023(原文)

世界で最も安全に一人旅ができる都市が発表、東京は2位

女性が最も安全に一人旅できる国はアイルランド

心と体をリセットするリトリート旅9選

小旅行を充実させるトラベルグッズ12選

2023年、より良い旅をするための6の方法

東京の最新情報をタイムアウト東京のメールマガジンでチェックしよう。登録はこちら  

最新ニュース

    広告