東京で最も先鋭なギャラリー、Nanzuka Undergroundを紹介

7月4日まではモリマサト、10日からはHaroshiの展示がスタート

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現在東京には数多くのギャラリーがあるが、コンテンポラリーアートを扱う中で最も先鋭なセンスを持っているのは、ナンヅカアンダーグラウンド(Nanzuka Underground)だろう。同ギャラリーは以前渋谷で営業していたが、5月31日原宿に移転が実現し、再スタートを切っている。

新しく移転した建物はシンプルな外観で2フロアの展示スペースを有し、ロゴデザインは空山基が手がけている。本記事では、そんなナンヅカアンダーグラウンドの現在とこれから公開予定の展示を紹介し、そのセンスあふれる活動の一端を知ってもらいたい。

現在の展示はこけら落としとして、モリマサト『Lonsdaleite Year』が2021年7月4日(日)まで開催中。モリは移転前のギャラリーで行なったライブペインティングで注目を集め、最初に所属することになったアーティストでもある。まさに移転後最初の展示を飾るのにふさわしい。

nanzuka underground
Photo: Kisa Toyoshima

今回の展示は、全ての作品が分かりやすさの違いはあれど、モリの自画像が描きこまれていたり、自身の徳島での生活と密接に結び付いている点が特徴だ。『ロッキンチェアー』に描かれる自画像は、その生き生きとした色彩や筆致などからもモリが楽しんで制作活動を行なっている様子がうかがえる。

ペインティングはペンタブで制作したグラフィックを下絵に用いることが多いという。しかし、そうしたペンタブの筆致がそのまま生かされているような線の動きを見ていると、奔放に描いているようで実はとても理知的に制作をしているのだという当たり前の事実に改めて思い至る。

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Photo: Kisa Toyoshima
nanzuka underground
Photo: Kisa Toyoshima

立体作品も注意して観ておきたい。モリは立体の制作に際してまず自身のペインティングをドローイングに起こしてから立体を制作するという。ペンタブを介さないドローイングは、ペインティングとは異なり、実に繊細で柔らかい線で描かれている。

そうしたドローイングから生まれる立体は、粘土などでできているような外観でありながら、実はブロンズやセラミックでできているというから驚きだ。ブロンズなどの素材を選択しながらも、それを元の素材に見えないように整えるというのは、自身の日常やそれまで受けてきたさまざまな影響関係を表現するために必要だと考えた結果とも捉えられよう。モリが描いている自身の体験が作品のテクスチャーとも不可分の関係にあると考えているようにも思わされる。

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Haroshi, Mosh Pit 2021, Carved skateboard elements, H182 x W365 x D2 cm, INV# : H_298

モリの展示の後には7月10日(土)からHaroshiの『I versus I』が予定されている。Haroshi は独学で習得した技法を駆使し、2003年からスケートボードデッキの廃材を使った彫刻作品、インスタレーションが特徴だ。キース・ハフナゲルのストリートブランドHUFとのコラボレーションなどを現代のストリートカルチャーを体現するアーティストの一人としても知られる。

『I verus I』では、「己との戦い」をテーマにした新作がそろっており、大きく分けて「Mosh Pit」「GUZO」、ソフビ作品の3つのシリーズから構成される。「Mosh Pit」は、使い終わったスケートデッキを刻んで平らに並べ直し、スケーターの個人史とスケートボードカルチャーの総体を絵画として再構成したものだ。

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Haroshi, GUZO, 2020, Carved skateboard elements, H50 x W18 x D12 cm, INV# : H_221

「GUZO」シリーズはスケートボードとそのカルチャーを愛するものへの守り神としての彫像。ソフビ作品は、古いプラスティックビニール製のアクションフィギュアを修復改造して新たに生まれ変わらせたという点で、モノへの愛情を象徴していると解釈できよう。

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Haroshi, I vs I, 2021, Vintage action figure with carved skateboard elements, H30 x W16 x D12 cm, INV# : H_269


Haroshiは「Mosh Pit」シリーズについて、役目を終えたスケートボードの傷ついた美しい姿にフォーカスした作品」で「スケートボードのグラフィックは、スケーターの繰り出すトリックによって各々の形に傷ついて(ペインティングされて)、その美しさは完成形に向かい、と同時に、終局にも向かっていきます」と語っている。

非常に審美的でありながら、傷や優しさといったイメージを想起させるコメントを念頭に置いて作品を見ると、理性的だが純粋さにあふれたモリの作品と対照的にも思える。いずれにせよ、これらの作品の魅力は一見しただけでは見過ごしがちで、距離を詰めて細部まで鑑賞して初めて評価できる類のものだろう。その意味で、彼らを見いだした同ギャラリーの感性は、作品と真剣に向き合った結果だとも言えよう。

なお、『I verus I』ではHaroshiの2003年から現在に至る520ページものカタログを自費出版するという。紙でこれほど大部のカタログはコンテンポラリーアーティストではめったに実現しないので、併せて一読してみては。

ナンヅカアンダーグラウンドの詳細はこちら

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