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対話するエンターテイメント「ダイアログ・ウィズ・タイム」

歳を重ねることを考え、生き方について対話する体験型エンターテイメント

Rikimaru Yamatsuka
テキスト:
Rikimaru Yamatsuka
作家
ダイアログ・ウィズ・タイム
Photo: Keisuke Tanigawa
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4月27日よりダイアログ・ダイバーシティミュージアム「対話の森」で開催されている『ダイアログ・ウィズ・タイム』に行ってきた。
ドイツ発祥のソーシャル・エンターテイメントであり、純度100パーセントの暗闇の中で、視覚障害者にアテンドを受けつつ様々な感覚やコミュニケーションを楽しむ『ダイアログ・イン・ザ・ダーク』、音を遮断するヘッドセットを装着し、聴覚障害者にアテンドを受けつつ音声を使わないコミュニケーションを楽しむ『ダイアログ・イン・サイレンス』に次ぐ第三弾が本展だ。

事前情報ナシ

ダイアログ・ウィズ・タイム
Photo: Keisuke Tanigawa

2019年に日本に本格上陸したものの、コロナ禍によってしばらく中断を余儀なくされ、このたびついに満を辞して再開されたダイアログ・ウィズ・タイムであるが、ホームページなどを見ても具体的なプログラム内容についてはほとんど明かされていない。

わかるのは


“歳を重ねることを考え、生き方について対話する体験型エンターテイメント”
“人生経験豊富な高齢者がアテンドする”


という二点だけである。この御時世にこういった情報規制を敷く理由など『何も解らないまま体験した方がいいから』という以外にない。なので、公式の意図を最大限尊重すべく、本稿では具体的な詳述はせず、なんとなくの流れを伝えるに留めるが、これは決して手抜きではない。マジで手抜きではない。

ノらなきゃ面白くない

ダイアログ・ウィズ・タイム
Photo: Keisuke Tanigawa

まずいきなり結論から述べるが、この展示はとことんノらないと面白くない。
「恥ずかしい」とか「よくわからない」とかいわず、とにかく能動的にイヴェントの主旨にノっていかないと、ほとんど楽しめないだろう。
全体的なテンションとしていちばん近いのは合唱コンクールだ。
適当にやると面白くもなんともないが、積極的に取り組めば得るものがある。

で、手触りとして決して派手ではない。小・中学生が行う体験型授業の発展系のような感じだ。
VR技術で高齢者の視点を体感するとか、最新の大脳生理学的な見地から老化にアプローチするとか、そういうハイテックでオルタナティヴなものは何もない。
提案されるのは対話なのだ。
本展はあらゆるベクトルから、鑑賞者に対話のきっかけを持ちかける。

対話を促すアトラクション

ダイアログ・ウィズ・タイム
Photo: Keisuke Tanigawaダイアログ・ウィズ・タイム

女性の老化過程をエミュレートしたモーフィング映像を観たり、『あなたは過去に戻りたいと思いますか?』とか『何歳に見られたいですか?』とか書かれたパネルのまえで自問自答したり、重りや特殊なメガネ等を装着して高齢者の世界を疑似体験したり、マンボ踊ったり、ロールプレイしたり、ディスカッションしたりもするんだけど、これらはすべて鑑賞者に対話を促すアトラクションである。
過去の記憶や身体感覚と向き合うことで感情を刺激し、思考を生む。
そしてさらに、言語化というプロセスを経ることによって、鑑賞者は『じぶんでも知らなかった自分』を発見することになるのだ。
よくあるだろう、友だちとちょっと深い話をしていたときに、自分の見解を述べたら『え、俺こんなこと考えてるんだ』って我が事ながら驚いてしまうようなことが。
そういう瞬間をつかむきっかけが、本展にはたくさん散りばめられている。
けれど前述した通り、とことんノッて、能動的に、積極的に参加しないと、この効果は得にくいだろう。考えて、それをしっかり言葉にしなければ。本展のテーマはあくまで『コミュニケーション』なのである。


(それにしてもプログラム内にダンスが組み込まれているのは凄い。さすがドイツ人だ)

思ったほうがいいこと/考えたほうがいいこと

ダイアログ・ウィズ・タイム
Photo: Keisuke Tanigawa

この展示は、鑑賞者の年齢によって引き起こされるものがまるで違ってくるだろう。
たとえば僕は34歳だが、最近はどんどん世界観が相田みつをめいてきていて、『人生、けっきょく縁と恩だよ』とか『毎朝目覚められることに感謝だよね』とか、二十歳の頃だったら聞いた瞬間にゲロ吐いてたような言葉を平気で口にするようになった。
そういう、若い頃だったら鼻で笑ってたような言葉たちが、けっきょくのところ全くの真理だということが肌でわかってきたからだ。
使い古しの常套句はおおむね正しい。
古い言い伝えというのは、膨大なエビデンスの上に築かれた巨城なのである。

ダイアログ・ウィズ・タイム
Photo: Keisuke Tanigawa


僕が本展で得た感触はそのようなもので、
『あー親にたまに電話しないとなー』とか『ときには過去を振り返って愛おしむのも大事だよね』とか、まるでJ-POPの歌詞みたいなことを思ったのだが、J-POPの歌詞みたいなことって普段はなかなか思わないし、思えない。
誰もが大事なことだとわかっているはずなのに。
そういう、思ったほうがいいこととか、考えたほうがいいこととかを、本展はあらためて言葉にさせてくれた。
それは気づかせるというのでなく、思い出させてくれる、という感じだ。


だから重ねて言うが、テレんのとかまじナシ。照れとかチョケとかそういうの全部捨てて、
思いっきりノッかったら、何かしら得るものがあるはずだ。

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