ネームバリューより審美眼

ピーター・バラカン × 山口彰悟(FRUE):フェスオーガナイザー対談
作成者: Kunihiro Miki |
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インタビュー:大石始
撮影:谷川慶典

各地でフェスが乱立する現在、独自のコンセプトの打ち出しや出演者を選ぶ主催者の審美眼も問われるようになっている。そんななか、強烈なキュレーション力で観客を魅了する2つのフェスがある。ひとつはブロードキャスターのピーター・バラカンが監修する『Peter Barakan's LIVE MAGIC!』。世界各地のルーツミュージックを揃えたラインナップはこのフェスならでは。2014年の初開催から数えて5回目となる今年も、世界各地の良質なアクトが名を連ねている。

もうひとつが、「魂の震える音楽体験」をコンセプトとする『FESTIVAL de FRUE』。主催のFRUEは、これまでにブラジル サンパウロのレーベル/パーティーコレクティブ Voodoohop(ヴードゥーホップ)を日本に紹介したほか、ブラジルの伝説的音楽家 エルメート・パスコアールの単独公演や日本ツアーも実現させてきた。FRUEにとって初めてのフェスである『FESTIVAL de FRUE 2017』は、昨年に開催され、モロッコのスーフィズム(神秘主義)の伝統音楽グループ ザ・マスター・ミュージシャンズ・オブ・ジャジューカを招へいするなど、ユニークなラインナップは今だに語り草となっている。

日本でのネームバリューに一切頼ることなく、パフォーマーとしての魅力のみに重点を置いたラインナップは、まさに『Peter Barakan’s LIVE MAGIC!』と『FESTIVAL de FRUE』ならでは。両フェス以外ではまず来日することのないであろう海外アーティストも多数顔を揃えるが、それでも会場に多くのオーディエンスが訪れるのは、両フェスに対する信頼ゆえだ。

今回は、ピーター・バラカンと、FRUEを企画・プロデュースする山口の対談を企画。オーディエンスに媚びず、かといって大上段に構えたものでもない。ほかにはない独自のキュレーションでフェスの可能性を今一度切り開く両者の、背景にある思いを語り合ってもらった。

―ピーターさんはFRUEのことを知っていましたか?

ピーター・バラカン(以下 B):はい。番組のリスナーから教えてもらったのがきっかけでした。(出演者は)知らないアーティストばかりだったけど、興味をそそられるものがありましたね。まず、ウェブサイトのデザインが格好よかった。「趣味がいいな」と思えるデザインって、すごく重要なことだと思うんですよ。

『LIVE MAGIC!』の出演者のなかには日本では知られていないアーティストも多いので、興味を持ってもらうためにどうしたらいいか毎回頭を悩ませています。そこはFRUEも一緒ですよね。

山口彰悟(以下:山):僕は主にTwitterで各アーティストの音源を紹介しています。それなりに効果はあると思ってつぶやいています。

B:Twitterの投稿は山口さん自身がやっているんですか?

山:そうですね。2012年にFRUEを始める前からブログで自分の好きな音楽を紹介していたので、その流れで今も自分で投稿してます。

―FRUEはネットでの発信がうまいですよね。出演者の発表前からSNS上で少しずつネタをバラしていったり、すごく戦略的に使っている印象があります。

山:おしゃべりで噂話が好きな人が多いですからね(笑)。「このバンドを見たいなぁ」とつぶやいて反応を見たり、クラブなどの現場で「実は今度このバンドを呼ぶんだけど」と話してみたりして、色々なところに種をまいています。すると、気がついたら口コミで広がっていたりします。

―ピーターさんはプロモーションについてはどう考えますか。

B:僕はネットの使い方に長けている人間ではないので、やはりラジオが一番の場所になってますね。番組では、売れるもの・売れないものはまったく意識しないで音楽を紹介しているわけですが、自分がキュレーションするフェスとなると、やっぱりチケットが売れないと困る(笑)。その点では普段僕がやっていることとは別のプロモーションのノウハウが必要になってくるんですよね。

今年から『LIVE MAGIC!』のInstagramを始めたんですよ。あと、Spotifyで出演アーティストのプレイリストも作りましたし、Youtubeで「LIVE MAGIC!TV」というチャンネルもやってます。

 ―そのなかで一番反響があるのはラジオですか?

B:そうですね。ただ、集客のことは当日ふたを開けてみるまで本当に分からない。毎回不安なんですよ。

山:そこはFRUEもまったく一緒です。SNSの反響が必ずしもチケットの売り上げに直結するわけでもないですし。いつも震えています。

―今年の『FESTIVAL de FRUE』はクラウドファンディングで資金を集めていましたよね。目標額を大幅に上回っていて、お客さんからの期待と注目度の高さを実感しました。

山:ありがたいですよね。2回やって1,300万円くらい集まりました。

B:それは凄いですね。うちも過去にクラウドファウンディングの話は何度か出たんですけど、いろいろあってまだ動けていなくて。

ネームバリューに頼るのではなく

―出演者の選び方についてですが、『LIVE MAGIC!』は日本ではあまり知られていないアーティストを呼ぶということもテーマのひとつにされているんでしょうか。

B:わざわざ知らないアーティストを呼ぼうとしているわけじゃなくて、予算の都合上仕方ないところもあるんですよ。いくらスティーヴ・ウィンウッド* を呼ぼうとしても非現実的な話なわけで。これまでに呼んだジェリー・ダグラス* やサニー・ランドレス* はアメリカじゃ名の通った人たちですけど、日本ではそれほど知られていないんですよね。だから、ネームバリューに頼るのではなく、クォリティーの高いアーティストを呼ぶことを心がけています。

*スティーヴ・ウィンウッド:トラフィックやブラインド・フェイスなどロック史に残るバンドでも活動してきた、イギリスを代表するヴォーカリスト。
ジェリー・ダグラス:ドブロ・ギターの名手にして、アメリカン・ルーツ・ミュージックの大御所。2014年のLIVE MAGIC!に出演。
サニー・ランドレス:ルイジアナを拠点とするブルース・ギタリスト。2016年度のLIVE MAGIC!に出演。

―アーティストの情報はどのように入手しているのでしょうか。

B:僕が知ってるアーティストもいるけど、何人かいい情報をくれる人がいるんですよ。たとえば今回出演するノーム・ピケルニー&スチュアート・ダンカン* というカントリー系の組み合わせを提案してくれたのは、40年以上ブルーグラスの専門誌をやってる渡辺三郎さん。久保田麻琴さん* もいつも面白いミュージシャンを教えてくれますね。

ノーム・ピケルニー&スチュアート・ダンカン/ノーム・ピケルニーはパンチ・ブラザーズのメンバーでもある世界最高峰のバンジョー奏者。スチュアート・ダンカンもさまざまなアーティストと共演を重ねてきたベテラン・フィドル奏者。
*久保田麻琴/音楽プロデューサー。近年は日本の伝統文化を掘り起こすプロジェクトを積極的に推し進めている。

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―山口さんはどうやって情報を集めていますか。

山:「この人を呼んでほしい」というお客さんの声は聞くようにしてますが、基本的には自分でSpotifyやSoundcloudで拾ってます。または、好きなアーティストの共演者から選ぶこともあります。たとえば、今回呼ぶサム・ゲンデル*は、『FESTIVAL de FRUE 2017』に出てくれたファビアーノ・ド・ナシメント*とロサンゼルスでも一緒に演奏しています。

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そして、ゲンデルは今回のためにメンバーを見つけてくれたみたいで、シャザード・イズメーリー(ベース)、ライ・クーダーの息子であるホアキン・クーダー(ドラム)という編成で来ます。

サム・ゲンデル:ロサンゼルスで活動するギタリスト、サックス奏者。ジャズトリオであるINGAの一員として注目を集める。ジャンルを軽々と飛び越えていくソロ作も話題を集める、ロスアンゼルスシーンのキーパーソンのひとり。

*ファビアーノ・ド・ナシメント:リオデジャネイロ出身のギタリスト。アメリカ西海岸を拠点とするトリオルガニコのメンバーとしても活動。サム・ゲンデルとのデュオ作もリリースしている。

B:ホアキンが来るんですか? 彼は変わった音楽をやっていておもしろいですね。

山:そうなんですよ。新世代の民族音楽のような。サム・ゲンデルもホアキンもライ・クーダー* のバンドで演奏しているので、ライも来てくれないかな?と淡い期待はあったのですけど(笑)。サムとホアキンは来日直前まで、ライのバンドでヨーロッパをツアーしてるみたいです。

ライ・クーダー:1960年代から活動を続けるアメリカのベテラン。キューバの古老たちと録音したブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ名義の作品は世界中にキューバ音楽ブームを巻き起こす。彼の最新作『The Prodigal Son』は息子であるヨアキムとの共同プロデュース作。

―ちなみに、『FESTIVAL de FRUE』は一度呼んだアーティストは二度呼ばないというポリシーがあるとか。

山:いやいや、そんなことはないですよ。ただ、「また来そうだし、今回行かなくてもいいや」と思われちゃうのは良くないので、うまくコントロールしながらできるといいなと思います。

B:よく分かります。『LIVE MAGIC!』も何組かは何度か出てくれたアーティストもいますけど、基本的には毎年違うラインナップにしようと思ってます。とはいえ、ジョン・クリアリー* などは僕らが呼ばないと日本じゃ誰も呼ばないでしょうし、もう一度日本のオーディエンスに観てほしくて、今回(2014年に続いて)呼ぶことにしたんです。

ジョン・クリアリー:ニューオーリンズを拠点に活動するイギリス人ピアニスト。2016年のアルバム『Go Go Juice』で初のグラミー賞「地方音楽部門」を受賞した。

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やっぱりフェスは「出会い」

―今年の見どころについても教えてもらえますか?

山:全アーティスト見どころです(笑)。すべての出演者が観られるようなタイムテーブルを組むつもりです。波が寄せて返すような流れにします。それから、タイムテーブルをゆるめに組んでます。ちょっと押すこともあれば、延びてアンコールもある。フェスでアンコールってなかなかないかと思うのですが、アンコールを求める拍手と声が大きかったら、やります!単独公演を見に行くような満足感は得られると思います。特に注目なものがあるとすれば、ビリー・マーティン ※ を招いたスペシャルセッションですね。『Festival de FRUE 2018』に出演するミュージシャンとのセッションを予定しています(現在、交渉中)。

ビリー・マーティン:ニューヨークの重鎮ジャムバンド メデスキ・マーティン&ウッドのドラマー。2018年7月には、彼と日本人ミュージシャンたちがセッションを行う実験的音楽フェス『FRUE & BPM presents ~Rhythm Sound and Magic~ feat. Billy Martin vs』が3日間にわたって行われた。

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今回は開催が決まったのが5月の終わりだったので、ブッキングにはなかなか苦労しました。ただ、海外アーティストについては個人的にも観てみたかったアーティストばかりだし、いいバランスになったと思います。「前回のジャジューカみたいなレジェンドを呼んでくれないのか」という声も多かったんですが、ジャジューカはとにかく大変で。「メンバーの調子が悪いからヨモギを摘んできてくれ」と頼まれることもありました(笑)。 

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B:アーティストのブッキングは苦労してますね。毎年1月ぐらいからブッキングを始めるんですが、1月に10月のブッキングをするのはそう簡単なことじゃない。1年以上前からスケジュールが押さえられている人も多いですしね。

―なるほど。今年の『LIVE MAGIC!』の見どころについてはどうでしょうか?

B:さっきも言ったジョン・クリアリーですね。アラン・トゥーサントも亡くなってしまったし、ドクター・ジョンは体調がよくない今、ニューオーリンズの古典的なピアノを聴かせてくれる人としてはジョンが一番じゃないかな。今回はジョンのいつものトリオに加え、ゲストとしてナイジェル・ホール*が入ります。彼はニューオーリンズの音楽好きには以前から注目されていた人で、素晴らしいソウルのヴォーカリストです。あと、ノーム・ピケルニーとスチュワート・ダンカンのデュオもアクースティックミュージック好きには楽しんでもらえると思います。

ナイジェル・ホール:ワシントンDC生まれのソウル・シンガー。2016年のアルバム『Ladies & Gentlemen..』で注目を集めたほか、近年はファンクバンドであるレタスでも活動。

山:ジョン・クリアリーはすごくおもしろいですよね。かつてギャラクティック* を聴いていたような層も好きだと思います。

ギャラクティック:『朝霧JAM』や 『フジロックフェスティバル』にも出演し、日本でも高い人気を誇るニューオーリンズのファンクバンド。

―では、最後の質問です。いまフェスをやる意味・意義とはどのようなところにあると思いますか?

山:人の精神というのは、年をとるにつれて固くなっていくのを実感しています。さらにSNSが普及したことで、自分にとって心地よい情報だけしか目にしないようになり、視野が狭くなり、どんどん固くなっているような風潮があるような気がします。ひとつの穴を掘り続けている感じというか。

そんな中で、様々な地域の、色々な文化的な背景で育ったミュージシャンの音楽に触れると、固まりがちな自分や自己のキャパシティが広がるような感覚があると思うんです。その感覚を味わってほしいし、もう少し柔らかな精神を音楽によって育むことができればなぁと。フェスは、そういう意味でもいい機会なのかなと。

B:やっぱりフェスは「出会い」ですよね。コンサートで同じ音楽を聴くと一体感を感じられるし、それこそが醍醐味(だいごみ)。『LIVE MAGIC!』の空間にいると不思議とお客さん同士が仲良くなるんですよ。なかには会場で出会って結婚したという男女もいました(笑)。

―それは凄いです(笑)。

B:フェスは、単独コンサートとは違う親密な空気が出ますよね。それは続けてきてわかったことでもあります。

山:社会がギスギスしているので、そういう空間はやっぱり大事ですよね。

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当選発表:当選メールの送付をもって発表とさせていただきます。

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