マイア・バルー(Photo:Tijana Pakic)
マイア・バルー(Photo:Tijana Pakic)

日本の伝統音楽を世界へ、マイア・バルーの考える民謡の面白さ

東京音頭、じょんがら節に会津磐梯山、ソーラン節など

Mari Hiratsuka
編集:
Mari Hiratsuka
テキスト:
Nozomi Takagi
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東京音頭やじょんがら節、会津磐梯山、ソーラン節など、日本の民謡をモダンにアレンジした楽曲が注目されるミュージシャン、マイア・バルー(Maïa Barouh)。2021年11月、フィギュアスケート・ワルシャワ杯のアイスダンスRD(リズムダンス)部門で村元哉中(むらもと・かな)、高橋大輔(たかはし・だいすけ)ペアが使用した楽曲『Soran Bushi』の作者である。

ワールドミュージックの要素を取り入れながら、ダイナミックにアレンジされたソーラン節は、日本人だけではなく世界中のオーディエンスを驚かせた。彼女は東北民謡を中心に、さまざまな日本民謡や島唄のカバーを手がけるほか、それらの要素をミックスしたオリジナル楽曲を制作する。

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「ザ・ジャパニーズサウンド」が違うジャンルの曲に聴こえる面白さ

もともとはフルート奏者として日本で音楽活動を始めたマイア。彼女は民謡との運命的な出会いについて「奄美大島を訪れた時だった」と振り返る。

「音楽家である父(ピエール・バルー)のライブツアーでフルーティストとして奄美大島に同行した時、コンサートの前座が奄美島唄の歌手である中村瑞希ちゃんだったんです。島唄のヤングジェネレーションに当たる、彼女、彼らの歌声を聴いて、とにかく感銘を受けました。『こんなに素晴らしい歌が日本にあるんだ』って」

その後、フルーティストとして何度か島唄の歌い手とコラボレーションを重ねた。心の奥底では「自分も歌ってみたい」と思いながら「果たして島外の人間が歌っていいのか」という葛藤も抱えていた。数年間、独学で練習を重ね「自分らしく歌えそう」と感じるようになった頃に、人前で歌うようになった。 大きな転機が訪れたのは2011年3月。マイアが日本からパリへ移住したわずか1、2週間後、東日本大震災が発生した。

「原発も津波もあまりにショックで、半年くらいインスピレーションが生まれませんでした。原点に立ち返って、自分が何をすべきか、なんで歌っているのかをずっと考えていて。気付いたら民謡を聴きたくなりました。 福島をはじめ、東北の民謡は力強いんですよね。旋律を徐々にアレンジしていくのは本当に楽しかったし、何よりニッチだと思っていたそれらが、いろんな大陸の音楽に通じるようで、普遍性を感じました。

自分がワールドミュージックを聴いて育ったこと、そして日本語が理解できつつも感覚のルーツが『ガイジン』であることは要因にあったかもしれません。とにかく 『ザ・ジャパニーズサウンド』だった民謡が、ちょっとしたアレンジで違うジャンルに聴こえる面白さにハマりました」

脳みそで音楽を作りたくない
マイア・バルー(Photo:Victor Delfim)

脳みそで音楽を作りたくない

彼女は東北を中心とした全国の民謡に、エレクトロニカやヒップホップ、ワールドミュージックなどのさまざまな要素をクロスオーバーさせて新たな音楽を生み出す。ただ、必ずしも「民謡と他のジャンルを無理やり合わせてみよう」という意図は働いていないという。

「例えば『ソーラン節とレゲエを合わせたら面白いかも?』みたいな計算高い考えは全くなくて。基本的には脳みそで音楽を作りたくないんです。自分の知らない民謡をたくさん聴く中でパワーを感じたり、歌ってて気持ち良かったりする曲にハーモニーを重ね、リズムを付けていく。すると、結果的に他のジャンルへと変化していくんですよね」

ふたを開けたらトラップになっていたり、サハラ・ロックに近くなっていたり。歌っているうちにインスピレーションを受けることもあれば、進めていく中で整っていくこともある。また、異なる土地で生まれた民謡のエッセンスをミックスすることもあるという。

「私の歌うじょんがら節などは、他の民謡の合いの手が入っています。自分のオリジナル曲に民謡の合いの手を入れることもあります。実は日本の民謡って、合いの手があることが独特なんです。勢いがあるし、人を巻き込むパワーがあると思います。 合いの手だけじゃなく、歌い方もミックスすることはありますよ。私が一番影響を受けているのは、やはり奄美の島唄のコブシの利かせ方。気付かれない程度に、他の地域の民謡にも混ぜています」

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「寿司のように食べられると思ったら大間違い」現状から生まれたフレーズ

2021年12月10日にリリースされたシングル曲『SUSHI』では、トラップの重いビートに合わせてラップに挑戦したマイア。「私は寿司じゃない」という強烈なサビのリフレインが特徴の歌詞は、フランス人の女性ラッパーElea Braazと共同制作された。なぜ彼女は今回の楽曲でラップに挑戦したのだろうか。

「一緒にコラボした彼女がラッパーだったし、何より怒りを表現する時、ラップは合うじゃないですか。今回のテーマはフェミニストの怒り。チクチクした怒りを表現できると思いました。ただこれも、実験を繰り返した結果出来上がったんです。アレンジは150パターン以上考えました。

今、ヨーロッパではフェミニズムがパワフルになっています。私自身ハラスメントにあった事がないと思っていたのに、思い返すと女性差別を受けていた、と思い当たる部分があるんです。音楽を作っているうちに『私を寿司のように巻いて食べられると思ったら大間違いよ』というフレーズが出てきて。他の曲同様『そういう曲』を作ろう、と思うわけでもなくフェミニストソングが生まれました」

現在は電子音とワールドミュージック、アコースティックが混ざったアルバムを制作中だ。民謡のカバーとオリジナル楽曲を交えながら、日仏でのリリースを予定している。

「電子音楽は時代やトレンドを反映しますよね。それがいい部分でもあり、音がすぐ劣ってしまうリスクもあります。なるべくアコースティックに戻りたい気持ちもあるし、電子音を扱うから現代的、というのも軽い考えだと思っています。ただ、未来的でルーツなサウンドの交差点を探し続けたい。結果的に『SUSHI』も完全にエレクトロ文脈ではないアレンジになりました」

自分なりに歌うことが伝統を広めるきっかけになれば
マイア・バルー(Photo:Emilie Moysson)

自分なりに歌うことが伝統を広めるきっかけになれば

では、なぜ彼女は日本の民謡を歌い続けるのだろうか。マイアが活動を続ける上でのモチベーションについて聞いてみると、彼女は次のように答えた。

「アートに完成形はないと思うので画家なら常に自分らしい色と形を、音楽家なら自分らしくいい音を永遠と探して続けていくのだと思います。私はまだまだ自分のサウンドを開拓中で挑戦したい事がたくさんあります。なによりもライブ!ずっと温めてきた歌をようやく歌い、みなさんとエネルギーが交差しあった瞬間。その快感を得るために頑張っているところはあります。

本来、民謡も即興的に誰かがお祭りで歌ったものが、長い年月を経て変化していき、今の完成形に至っているはずですよね。たくさんの曲が生まれた分、いくつもの良い曲が消えていったと思うんです。本当に生命のある音楽。そういった過程が想像できるからこそ、私も『トラディショナルな音楽をアレンジしちゃいけない』という感覚はありません。また 『自分なりの民謡』を歌い続けようと思っています。 むしろ自分なりに歌うことが、伝統を広めるきっかけになればうれしいです。

全く民謡に触れたことのない人が、私のアレンジを聴いて『この日本の歌はなんだ』って思ってもらえたらいいなと思います。ディープで豊かな音楽が日本にあることを知ってもらいたいですね」

マイア・バルー(Photo:Miki Kamada)

マイア・バルー(Maïa Barouh)

東京生まれ、パリ育ちのシンガーソングライター、フルーティスト&マルチミュージシャン。日本民謡からフレンチラップ、フルートの即興からエレクトロ、グルーヴからポップスとマイア・バルーの音楽は想像を超えるところで混ざり、大胆でユニークな楽曲が特徴。

東京で高校生の頃からフルーティストとしてプロ音楽活動を始め、2005年から『CABARET SHINJUKU』(日本の個性派ミュージシャンをフランスに紹介し日仏音楽の橋渡しをするイベント)のプロデューサーを務める。その後、坂本龍一のレーベル、コモンズのオムニバスアルバム『にほんのうた』に参加、フジロックフェスティバルへの出演などにも出演する。

2021年には、アイススケーターの高橋大輔と村元哉中が『北京オリンピック』を狙った選手権にマイアのソーラン節を使うと発表し、注目される。

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