2丁目の魁カミングアウト

インタビュー:二丁目の魁カミングアウト

ゲイでも諦めない、ゲイアイドルが国民的アイドルになるまで

テキスト:
Miroku Hina
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テキスト:八木志芳

自分の容姿や年齢、家庭環境など自分ではどうにもならない要素を原因として、やりたいことを諦めた経験がある人は少なくないだろう。それが、セクシャリティーによるものだとしたら、その挫折感は大きいのかもしれない。

男性でありながら女性アイドルに憧れ、叶わぬ夢と知って一度は諦めたメンバーたちが、アイドルという夢に突き進むために結成されたグループがある。二丁目の魁(さきがけ)カミングアウトだ。 

コンセプトは「ゲイでもアイドルになれる」。

メンバーは、リーダーで振り付けや作詞も担当するミキティー本物を中心に、ぺいにゃむにゃむ、きまるモッコリ、白鳥白鳥(しらとり・はくちょう)の4人で構成。全員がゲイであることをカミングアウトしている。

ゲイアイドルを名乗っているものの、オネエタレントのようなバラエティー色強めな「イロモノ」グループではない。その魅力は、人間の弱さをストレートに表現した歌詞と、しなやかさと力強さを兼ね備えた本格的なパフォーマンスだ。

実力あるステージは話題を呼び、2019年5月15日(水)には4枚目のミニアルバム「Good As Yesterday❹」をリリース。来たる7月14日(日)にはZepp Tokyo、2020年1月には中野サンプラザでのライブも決定するなど、アイドル界のみならず音楽シーンでも注目すべき存在となった。

さらに、ブレークの兆しを見せるグループは、2021年5月から2022年5月の結成10周年イヤーで、日本武道館でのワンマンライブを実現させることを、おなカマ(ファンの呼称)に誓っている。 

平成の終わりに誕生した「ゲイアイドル」は、なぜここまで受け入れられ、男女問わず多くの人を魅きつけているのだろうか。そこには、目標へ向かって突き進むメンバーの情熱と努力があった。

リーダーのミキティー本物

ー まずは今のグループになるまでの経緯を教えていただけますか。 

ミキティー本物(以下 ミキティー): 私はずっと女性アイドルが好きで、女性アイドルになりたくて、学生時代に『モーニング娘。』のオーディションに応募したこともありました。ハロー!プロジェクト※1が好きだったんです。

だからグループ結成前は、新宿2丁目でハロプロの振りコピ(振り付けをコピーして踊ること)をしていました。そこで、ミキティー(元モーニング娘。の藤本美貴)役だったので、「ミキティー本物」っていう名前になって(笑)。

そんな中、「番組に出て、ダンス対決をしないか」と声を掛けられたんです。その番組に出演するために「二丁ハロ(二丁目ハロー!プロジェクト)」というユニットを結成しました。本当は一回きりで終わるはずだったんだけど、ステージに立った時、アイドルになりたい夢が思い出されて、「このまま終わりたくない」「諦めたくない」と思ったんです。

ただ、結成当時のメンバーは、芸能界でアイドルを続けていきたいわけではなかった。だから、志を共にできるメンバーを探すために何度かオーディションを開催してメンバーを集めました。4期メンバーの白鳥白鳥が入った時、私の中でのピースがつながって、本格的にアイドルを目指していく全ての準備が整ったと思ったので「二丁目の魁カミングアウト」という名前に改名して今に至ります。

 

インタビューに応えるきまるモッコリ(左)とぺいにゃむにゃむ

みなさんのステージは二丁ハロ時代から何回か見ているんですが、最近はライブに足を運ぶたびに歓声が大きくなっているのに驚いています。別のアイドルグループ目的に訪れた観客も一緒に盛り上がっている印象です。 

ミキティー:ありがとうございます! 私たちは毎日すごい量の練習をしているし、演出も自分たちで考えているので、いつも自信を持ってステージを届けています。

きまるモッコリ(以下 きまる):ライブでは振りマネして、盛り上げてくれる人も多くて本当にうれしいです。

ミキティー: それはアタシの振り付けだからね!

白鳥白鳥(以下 白鳥):あとは、ぺいちゃん(ぺいにゃむにゃむ)のあおりがすごく盛り上げてくれるので、ステージで助けられています。

ミキティー:でも、最初から盛り上がったわけではなくて、例えば、振り付けを担当したことのある(ミキティーは振り付け師としても活躍している)BiSの曲をカバーすると盛り上がるけど、オリジナル曲になると反応がなくなることもよくありました。

 そもそも私がほかのアイドルの振り付けを始めたのは、自分たちの知名度を上げるため。「自分の好きなアイドルの振付の先生が所属しているグループだから見よう!」と思ってくれるじゃないですか。アタシ、計算高いゲイなんです(笑)。そういった作戦もありながら、並行して実力を磨いて、徐々に見てくれる人が増えていった感じです。

私の中では、「見ている人を元気にしてくれる存在こそがアイドル」と思っていて、その定義から言うと、二丁目の魁カミングアウトはアイドルの中のアイドルなんです。TOKYO IDOL FESTIVALや@JAMなどの大型アイドルフェスにも出演している皆さんは、「アイドル」と名乗っていいと思うんですが、なぜ「ゲイアイドル」という呼び名を使い続けているんでしょうか。

ミキティー:私が憧れたアイドルは、CDを1枚買ってくれる人が100万人いる、つまり、100万人に曲が届いていた存在でした。

でも、今の時代のアイドルの多くは、特典を付けて同じ人に複数のCDを販売していることもあり、曲そのものが多くの人に届いているわけではない。確かに、元気や笑顔をくれる存在だと思うけど、ビジネス的な部分も大きい。

私はそんなアイドルにはなりたくなかった。「ゲイアイドル」という立ち位置は私たちが始め、私たちが基準になるので「ゲイアイドルは同じCDを何枚も買わせない」という意味を込めて、あえてゲイアイドルと名乗っています。 

アイドルへの原点回帰の意味もあるんですね。

ミキティー:そうですね。原点回帰でもあり、今のアイドルビジネスへの挑戦状でもあります。私たちのCDが100万枚売れた時に、ようやく、ゲイアイドルからアイドルと名乗れるかなと思っています。 

ぺいにゃむにゃむ(以下 ぺいにゃむ):私たちは、女性アイドルとも男性アイドルとも違う、ゲイアイドルという文化を作っているんです。

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メンバーカラー白の白鳥白鳥

実は去年、新宿2丁目にある、アイソトープラウンジ※2でのフリーライブにも足を運ばせていただきました。今は女性ファンも多く、2丁目文化に馴染みのない人にとっては、ハードルが高い場所だと思ったのですが、今も2丁目でライブを開催するのは何故でしょう?

ミキティー:元々2丁目で活動を始めたんですが、当時は活動の方向性も曖昧で、2丁目じゃない人はもちろん、2丁目の人からも支持されていませんでした。だから一時期、2丁目関係のイベントには出演せず、女性アイドルたちのイベントをメインに活動していたんです。そこでようやくファンが増え、活動が実を結んできたところで、2丁目での活動を再開しました。

アイソトープラウンジは、私たちが結成当初にお世話になった場所でもあったので、お客さんを連れて帰って恩返ししたかったんです。2丁目って聞くと怖いイメージもあると思うけど、歌舞伎町よりも安全な場所だと思っているし、通学路やオフィス街もあって、夜はお酒が飲める。「こんなにすてきな街だよ」っていうのをファンの人に知ってほしかったという思いはありました。

ぺいにゃむ:2丁目って一度足を踏み入れると、印象がガラリと変わると思うんですよね。

ミキティー:ただ、私たちはゲイカルチャーや、政治的な意見を発信したいわけではなく、音楽を届けることがメイン。活動を通じて2丁目やゲイカルチャーについて知ってもらえれば嬉しいなとは思っています。

白鳥:でも、女性アイドルのファンの方がTwitterのコメントなどで、私たちに対して「音楽に性別は関係ないし、いい曲はいい曲だ」と言ってくれていたのはうれしかったし、勇気をもらえました。 

ミキティー:私たちは、ゲイだからゲイアイドルになったわけではなくて、音楽をやりたくて、アイドルになったらゲイだったというだけなんです。もし、ゲイであることの苦悩や葛藤にスポットを当てた発信だったら、今のような活動にはならなかったと思います。歌詞にも同性愛については一切出てこないし、「どんなセクシャリティーでも、同じようなことで悩むんだよ。中身は同じ人間なんだよ」ということを、飾らない表現で伝えていきたいんです。 

きまる:ミキちゃん(ミキティー本物)の歌詞って、誰でも共感できるけど、言葉にならない悲しみや喜びを表現してくれていて、私自身も救われることが本当に多いです。 

ミキティー:私は作詞を勉強してきたわけではないから、思ったことをそのまま書いていて、歌詞の中でも言いたいことがけっこう矛盾しているんですね。でもその矛盾は、私自身がまだ何も乗り越えられていないから。ただ、きれいに練られた歌詞より、ありのまま書いた方が評判が良くて、今は最初に書いた歌詞を直すことはほとんどありません。

その歌詞の中の矛盾に私はとても共感しました。人間って矛盾する生き物ですし。

ぺいにゃむ:ストレートな歌詞だからこそ、伝わるものが大きくて、一度私たちを見ただけで刺さるものがあると言われるんだと思います。

来年1月には日本アイドルの聖地である中野サンプラザでのワンマンライブが行われます。これはみなさんにとっては大きなターニングポイントになるんじゃないでしょうか? 

ミキティー:私たちは、結成10周年に当たる2021年5月から2022年5月の間に日本武道館でのライブを絶対に実現させたいと思っているんです。私たちの活動が着実にステップアップしていく中で、大ホールでのライブなどの「夢物語」も手の届く目標になってきて、その先に生まれたのが日本武道館でした。7月のZepp Tokyoや、来年の中野サンプラザでのライブもその通過点として全力で取り組みます。ちなみに、中野サンプラザでは私たちのライブの前後に、ハロプロ恒例の新春ライブが入っていると聞いていて、感慨深いですね。 

最後に、皆さんのこれからの目標を教えてください。

白鳥:私は白鳥白鳥になって約2年なんですが、自分がアイドルとして何を目指していきたいのか、最近ようやく明確になってきたんです。グループのためにも、ファンの期待に応えるためにも「アイドル 白鳥白鳥」を極めて、応援してもらえる存在になりたいです。 

きまる:最近、全国に「おなカマ」がどんどん増えていることを、ライブやSNSを通じて実感していて、本当にありがたいです。たくさんの応援に応えていくためにも、きまるモッコリとしてもっと頑張っていきたいと思っています。

ぺいにゃむ:やっぱり、国民的アイドルになりたいです。日本武道館が実現して日本を代表するアイドルになれば、さらに広い世界を目指し、海外でも活動できるようなグループを目指したいです。世界に羽ばたいて「私たちもおなカマも日本の宝だね、国宝だよね!」って言えるぐらいに!

ミキティー:今、アイドルはグループ数も増えていろんな定義がされています。「会いに行けるのがアイドル」とか「手の届かない存在がアイドル」とか。ただ、私は「いつでも手を差し伸べられるのがアイドル」だと思っているんです。

私たちがどんなに大きいところでライブをするようになっても、私たちの歌がいつでも聞く人の心に寄り添って、辛い思いをしている人の支えになれる、そんな身近な存在でいたい。それは変わらず持ち続けている信念であり、目標です。

 

 

※1:モーニング娘。やアンジュルムなどが在籍するアイドル集団。

※2:新宿2丁目にある最大規模のゲイクラブ。

Profile

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二丁目の魁カミングアウト

「ゲイだから」を理由に諦めたくないという気持ちから、「ゲイでもアイドルになれる」をコンセプトに活動するゲイアイドルグループ。メンバーは、ミキティー本物、ぺいにゃむにゃむ、きまるモッコリ、白鳥白鳥の4人。グループ名には、新宿2丁目から先駆けて「ゲイアイドル」というジャンルをカミングアウト(公言)していきたいという思いが込められている。

20191月に行われた品川ステラボールのワンマンライブでは1500人の動員を達成。51日に開かれたマイナビBLITZでの8周年記念ライブは一次先行でチケットが完売した。

公式HP

今後のライブ予定

今後のライブ予定

5月15日(水)4枚目ミニアルバムGood As Yesterday発売

【アルバムリリースイベント&サイン会開催日程】

5月14日(火)東京 新宿マルイメン 屋上

5月18日(土)名古屋 松坂屋名古屋店 さくらパンダ広場

5月19日(日)大阪 もりのみやキューズモールBASE BASEパーク

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5月16日(木)〜5月21日(火)名古屋・大阪 『プッチGAY WEEK名阪』

6月3日(月)~7月12日(金)東京ほか 『関東 FREE GAY LIVE

6月9日(日)札幌 『二丁目の魁カミングアウトの北海道はでっかいどう!北の国からルールルルワンマン!』

714日(日)東京 『ゲイでもアイドルになれる!』@Zepp Tokyo

202018日(水)東京 中野サンプラザ ワンマンライブ

インタビュアー:八木志芳

大学卒業後、IT企業・レコード会社を経て、福島県のラジオ局にてアナウンサー・ディレクターとしてのキャリアをスタート。2017年11月にフリーのラジオパーソナリティー・ナレーターとなる。FM FUJI「SUNDAY PUNCH」レポーター、千葉テレビ ナレーションなどを担当。 F.Factory Japan所属。

Twitter:https://twitter.com/ShihoYagi

Instagram: https://www.instagram.com/yagishiho/

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