インタビュー:珍盤亭娯楽師匠

DNAで踊れ。ポスト和モノの世界
作成者: Kunihiro Miki |
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インタビュー:三木邦洋
撮影:谷川慶典

DJが国産の音楽をプレイすること、それがすなわちクラブミュージックのいちジャンルとしての「和モノ」である。地方の民謡や音頭から、演歌、昭和歌謡、アイドルソング、ニューミュージック、シティポップ、Jポップまで、和モノの範疇はそれらすべてを指す。

近年、海外のDJやレコードバイヤーの間で和モノの人気が高まっているという話を頻繁に耳にするようになった。と同時に、『和ラダイスガラージ』(ExT Recordingsの永田一直が主宰する和モノイベント。「激安昭和国産音源のみでパラダイスガラージに肉迫せんと試みる」ことを標榜する)周辺の尋常ならざる盛り上がりを伝え聞くうち、自分は和モノを勘違いしていた、もといなめていたのかもしれない、という焦りに近い予感を覚えた。

果たして、その後に体験した永田一直や、本記事の主役である珍盤亭娯楽師匠のプレイによって脳内は和モノインベイジョン状態に。取るに足らないとされていたレコードに新たな解釈を加え、見たこともない地平を見せる、まさにDJのマジカルな魅力、その王道を体験したのだ。

本記事では、クラブを飛び出し、祭りからロックフェスティバル、レイヴまで、和モノ以外のシーンにも着実に食い込み、強烈なパフォーマンスでその名を轟かすDJ、珍盤亭娯楽師匠にその背景と活動の姿勢について話を聞いた。

 

レゲエとかアフロとかに聴こえたりするみたいで

今回は師匠のスタイルや『和ラダイスガラージ』周辺のお話、海外での和モノレコード人気などについてお話を聞いていきたいと思っています。

珍盤亭娯楽師匠:海外については、ブギーとかディスコとかを狙って、レコードバイヤーにも海外から連絡が来ているみたいですね。国内の話だと、最近は和モノ系のなかでも色々とそれぞれ個性が出てきて、棲み分けができてきた。僕は2015年から2016年にかけて仕事が増えてきたのですが、音頭とか民謡をスキルフルに繋ぐスタイルの人は少ないので、需要があるのかなと。僕自身、DJというものをいったん更地にして、新しく組み立てるつもりで曲を組んだりしているんですよね。あまりDJという意識は持たないようにしています。

—師匠のキャリアとしては、ダンサー時代がありその後ヒップホップDJになられたわけですよね。

珍:役者やっていた時代もあったんですよ。その時には着物を着ていたりしたので、人生色々やってきた集大成が今のスタイルという感じですね。DJだけでなく色々な要素を落とし込んでいる。

—和モノの原体験はどのようなものだったのでしょうか。

珍:洋楽のレアグルーヴ、ソウル、ファンクを聴いていたわけですが、そこから和ジャズに入ったんですね。そこに、昔の民謡アーティストと共演したものとかが結構あるんですよ。三味線とかが混ざっているような。そこから、日本の音楽の世界観にハマっていった。ただ、当時は歌が入るとだめだった。イントロとかブレイク部分を2枚使いで繋いでいる感じでしたね。やっぱりブラックミュージックが最高だ、という世界でやっていたので、先入観で日本語はかっこ良くないなと。馬鹿にしていたというか。

—そこから現在のような歌を聴かせるスタイルに移っていったのはなぜですか。

珍:日本語だから、当然、歌詞の意味が自然と入ってくるじゃないですか。歌われている意味合いとか背景を組み込んだ上で繋げることって、ある意味、本場の『パラダイス・ガラージ』的というか。『和ラダイスガラージ』にはそういうフィーリングがあって。

—『和ラダイスガラージ』は、黒人がソウルを聴いて感じるカタルシスと同じようなものを日本の音楽で味わえるイベントで、その点がとにかく画期的です。

珍:そうなんですよ。それまで僕は音だけしか聴いていなかった。けれど、2年ほど前に『和ラダイスガラージ』に出会って、歌詞の意味とアーティストの背景で繋ぐという、いままでと全然違った、もっと深いところを知った。お客さんも入り込んで聴いている人が多くて、盛り上がり方が尋常じゃない。

—現在のパフォーマンスやダンスを交えたスタイルに行き着いたきっかけは。

珍:あるヒップホップ系のイベントで、盆の時期だったから、盆踊りの曲をかけたことがあったんですね。そうしたら、そのときはどん引きされて。誰も踊らなくて、完全にすべった。みんなはヒップホップっぽい和モノが聴きたかったようなんだけれど、なにこれ?ってなっちゃった。

でも、自分のなかでは音頭とか民謡とか炭坑節って、小さいころから聴いてきたものじゃないですか。音頭を聴いてテンションが上がるのは、誰しも一緒だろうと思ってかけ出したわけです。初めは本当に反応が悪かったけれど、とにかく折れずにかけ続けた。これは誰しもが(テンションが)上がる音楽だし、生まれて初めて聴いたダンスミュージックは音頭かもしれない。そこは確信していたから、マイクで煽ったりダンスも取り入れて、これがひとつのクラブミュージックとして成立するようなセットを作った。この祭セットの完成からがスタートかもしれないですね。

—老若男女が楽しめて、決してマニアックなものではないですよね。

珍:そうなんですよね。音頭で踊るという記憶は、若い人はあまりないかもしれないですが、自由に踊って楽しめばいいんだ、ということを気付かせてくれるというか。

音頭や民謡って、我々日本人にとっては聴き慣れているものですが、海外の人が聴くと、レゲエとかアフロとか、そういうものに聴こえたりするみたいで。Traxmanの来日公演の時なんか、すごかったですよ。外国人がめちゃくちゃ喜んでた。先入観なしで聴くと、アフロとして解釈できちゃったりするみたいで、不思議なんですよ。日本のDJの俚謡山脈とかは、音頭や民謡をローカルな音楽としてではなく、ワールドミュージックとして解釈してやっている感じがありますよ。

—師匠や永田一直さんのやっていることというのは、歌詞についての理解が曖昧なまま洋楽を聴いて踊る我々が底の方で抱えている疑問を晴れさせてくれる、痛快さがあります。

珍:やっぱりかっこいいのは欧米の音楽ですよ。けれど、かっこいいだけじゃない、味の部分だったり。そういうものが和モノにはあると思っています。

—あの、『和ラダイスガラージ』関連のイベントに行くと、笑顔で一心不乱で踊っているお父さんが必ずいますよね。

珍:ケロちゃんですね。50代ですよ彼は。元々は違うジャンルで永田さんを知ったみたいですよ。それで来て、がっつりハマったみたいで、もうめちゃくちゃ踊るんですよ。俺らよりパワフル。

—体感としては、歌詞を理解しながら聴くと肉体的にも消耗しないなと。意味が分かるとこんなに違う体験になるんだっていうのは、みんな目から鱗だと思います。

珍:そうそう。だから、振り付けとかパフォーマンスのある曲も、意味が分かるからお客さんもついてくる。見よう見まねでも、歌詞が分かると流れを感じながら体が動きますよね。

昔だったら日本の曲をかけたら怒られたりしましたからね

—師匠がたまにエンディングでかけてらっしゃる水前寺清子の『祭になればいい』。この曲にはやられました。けれど、この曲を後から『Apple Music』や『YouTube』で検索しても出てきませんした。師匠のかける曲はネット上のどこを探しても上がっていないような曲が結構ありますよね。

珍:でも、探せば買えるものばかりですよ。僕や『和ラダイスガラージ』の面々がかけているレコードなんて、今でこそ値段が上がってしまいましたが、100円、200円のレコードを使っていた。ゴミ箱から拾ってくるようなものです。けれど、自分の耳で聴いて良いと思った物だけをかけている。そこは本物。ほかのジャンルの話をするわけじゃないですけど、値段を見てこれは良いものだ、と思って買う人もいるわけじゃないですか。それではつまらない。自分の耳で聴いて面白いと思ったものを使う。そういうレコードの醍醐味が『和ラダイスガラージ』にはまだあるんですよね。

—なるほど。和モノのレコードは、やはり値段が上がっていますか。

珍:上がってますね。『チェッチェッコリ』(ガーナ民謡。子供の遊び歌)ってあるじゃないですか。あれの日本語アフロファンクカバーがあるんですが、この曲の7インチが今1万5千円とかなんですよ。幼稚園とか保育園の体操の時間に使われていたようなものなんですけど。1、2年前には数百円で買えていたものが何十倍、何百倍になっている。

—レコード屋はどこに行くことが多いですか。

珍:ベタなところだと、新宿ディスクユニオンの昭和歌謡館。しっかり値段はついてますが、まだ穴はある。そういう抜けを見つけて買うのがディグの醍醐味ですからね。今、値段がつり上がっているものって、まだ表面的な部分なんですよ。ディスクガイドで紹介されたものとか、有名なDJがかけたものだけ。僕はそこにかすりもしない、データもないようなものを狙っていますね。

—海外で人気が出ている理由も、和モノが手垢のついていない領域が残っている貴重なジャンルだからということなのでしょうか。

珍:そうですね。とはいえ、海外のDJやコレクターが要求する物はまだベタな盤が多いというか。日本ですでに値段がついているものを向こうの人々もほしがる。数年遅れで吉田美奈子はないか山下達郎はないか、という具合。本当にマニアックなのは、まだまだ。民謡も、ド民謡ではなくて、ジャズドラマーの石川晶とか、ジャズ経由で民謡とコラボしたようなものがほしいのだと思います。

—海外の和モノDJで言うと、SOI48が2015年にHOWARD WILLIAMS(Honest Jons、Japan Blues)の来日公演を行いました。彼のプレイについてはどんな印象でしたか。

珍:生では観れなかったんですが、ネットに上がっていた彼のミックスの動画は観ましたよ。すごいと思いました。感性、感覚で曲をかけているというか。DJってどうしてもフロアを沸かせることを意識してプレイするじゃないですか。彼なんかはただただ好きな物をかけているだけ。それなのに盛り上がるっていうのは、すごいなあと思いますね。



外国人のDJって結構そういう感覚がある。話題になったビョークのDJも、日本の各地方の土着の音楽をゆるい感じでかけてて、ワールドミュージック的な解釈だなと。僕らはどうしてもBPM早めというか、ゆるめの民謡はかけられないですもんね。きっと、ゆるいというか揺られる感覚なんでしょうね。

まあ、日本人のDJは意識が高いとも言えると思いますが。ダンスミュージックは踊らせてなんぼじゃないですか。『和ラダイスガラージ』も、永田さんはハウスやテクノが下地にある人なので、踊らすことを強く意識しています。和モノは元々、ダサいと思われがちだし、昔だったら日本の曲をクラブでかけたら怒られたりしましたからね。それでも、クボタタケシさんとか(目を付けるのが)早い人たちは着手するの早かったですよね。僕なんかはまだ十数年そこらなので、まだまだ浅い。

—クボタさんとともにイベント『ダブルサイダー』を立ち上げていたDev Large(Buddha Brand。2015年逝去)さんも和モノに傾倒していたそうですが。

珍:D.L(Dev Large)さんとは僕がディスクユニオンのSOUL/BLUES館で働いていたころに仲良くなって、一緒に飯食いにいったりDVD観たりしていたんですけど、そのうち僕が和モノに走ってから会わなくなっちゃってたんですね。けれど、そのうち急にイベントに現れて、「水原君(珍盤亭娯楽師匠)さあ、最近和モノ買ってるらしいね。今度教えてよ」って。そこからD.Lさんは急激に和モノを揃えていってましたね。

なので、珍盤亭のイベント『なかのわものボーダレス』の第1回はD.Lを呼ぼうと言っていたんですよ。その矢先に倒れてしまったわけですが。だから、もしまだD.Lさんが生きていたら、多分一緒にやってましたね。彼も、和モノにソウルミュージックを感じていたんじゃないですかね。買っていた物を見る限り、そんな気がしました。

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ジャンルレスでごちゃごちゃした感じのほうが今は面白い

—DJセットを考えるときに一番大切にしていることは何ですか。

珍:今やっている祭セットはある程度完成されたので、これはショーみたいなものというか。演歌歌手が必ず歌うレパートリーみたいな、何回もやっているけど、見ている人がその都度、来た!となるような。その感覚は大切にしてますね。『和ラダイスガラージ』ってそうなんですよ。新しい物も入れていきますが、同じ曲を何度もかける。この感覚は以前の僕にはなかった。常に新しい物を、という考えが『和ラダイスガラージ』と出会って変わった。覚えてもらうことの大事さ。

—「和ラガクラシック」がありますよね。

珍:漫才師の定番ネタみたいな。そういうものを作らないと、この人はこの曲でこのスタイルというのが定まらないし、生き残れない。北島三郎の『祭』をかける人は沢山いますけど、俺のサブちゃんはそのひとつ上を行くんだよっていう。俺の場合はビジュアルやダンスでも演出するし。

—2016年はかなり色々なイベントに出演したかと思いますが。

珍:和モノ系以外のイベントに出た時のほうが盛り上がったというか、手応えはありましたね。Traxmanしかり、赤犬とか、Nature Danger Gangとやったときとか。テクノ、ハウス系のイベントでも反応良かったですね。あとは、岸野雄一が夏にやった『大江戸祭り盆踊り前日祭 中州ブロックパーティ』ではついに櫓の上でDJしましたからね。

『大江戸祭り盆踊り前日祭 中州ブロックパーティ』Photo :morookamanabu

—あれは師匠にうってつけの舞台でしたね。地域のお祭りの前夜祭だったこともあり、観客のなかに年配の方や子どもがたくさんいたのが印象的でした。

珍:櫓でDJするのって、やりにくいんですよ。後ろは見えないし、360度意識しなきゃいけないから。でも、音的にも衣装的にも立っただけでハマるところがありますからね(笑)。

—師匠がアラゲホンジの曲をプレイしたら、小学校低学年くらいの子どもが踊りまくってましたよ。

珍:あれはやばかった!踊りすぎて頭打って泣いちゃった子ね(笑)。なにも知らない子どもが反応しちゃうってすごいですよ。DNAで聴いているというか。いずれは、櫓を積んでトラックで日本一周のDJ旅とかしてみたいですね。

—イベントのオーガナイザー側からすると、芸人とかに期待するものに近いものが、師匠のパフォーマンスにはあるかもしれないです。

珍:そうかもしれないですね。DJとして意識されていないゆえに敷居が低いのが逆に良いというか。地方の祭りに呼んでもらうこともありますし。芸としての役割を要求されているし、それは全うできているから。


—今は、楽しみ方という視点で見ると、アンダーグラウンドでストイックなクラブの現場と、一体感で盛り上がるロック系とかEDM系が対極にあって、それぞれを相まみえさせてもポジティブな理解は生まれないだろうなという感じですが、師匠や『和ラダイスガラージ』のDJは、どこの現場に放り込まれても受けそうな気がしてくるんですよ。

珍:そうですね。この間、アニメ『とんかつDJアゲ太郎』のイベント『LARD CITY』(TJO、RhymesterのDJ JIN、Donuts Disco Deluxe、中田クルミ&佐藤さき、TREKKIE TRAXなどが出演)に出たんですけど、こういう畑違い音楽のファンたちにも和モノは受けたんですよ。和モノに限らず、こういうジャンルレスでごちゃごちゃした感じの方が今は面白いと思いますし、もっとやっていった方が良い。だから、『フジロック』とか、海外とか、出て行きたいですね。1、2年後には忘れられている音楽が多いなかで、古き良きものであると同時に、新しいものでもある和モノを取り上げてほしい。

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『大江戸祭り盆踊り前日祭 中州ブロックパーティ』Photo:morookamanabu
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