長谷部健

同性婚への第一歩、渋谷区の同性カップル条例案

長谷部区議会議員がカイザー雪に語る、「同性婚へ着実に近づいた」

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Text by カイザー雪

2013年に米国カリフォルニア州にて同性婚を果たしたカイザー雪が、同条例の発案者、渋谷区議会議員の長谷部健に話を聞いた。

今年の3月に、東京都渋谷区が同性カップルを「結婚に相当する関係」と認める証明書を発行する条例案を議会に提出することを発表し、各界で熱い注目を集めた。同案が可決されたら今年の夏頃に施行される予定で、国内で初めて同性カップルを認める制度が誕生することになる。渋谷区限定の条例案だが、公表するやいなや世田谷区や横浜市など次々とほかの地区が同様の条例案を検討することを発表し、その影響はすでに感じ取られる。たとえばドイツやスイスなどでも、最初はいくつかの州や市のみで導入され、やがて国全体で可決された例もあるなど、日本でもついに進み始めた予感がする。
※編集部追記(4月3日):同条例は、2015年3月31日の区議会において賛成多数で可決、成立

80年代より始まった同性婚への長い道のり

このような同性カップルの権利を政府が認める動きは、海外では既に25年ほど前より始まり長い歴史を持つ。1989年に、世界で初めて同性パートナーシップ制度を導入したのは、デンマーク。その後、90年代にスウェーデンやノルウェー、フランスなど導入する国が徐々に増え、2000年代よりその動向は加速した。なかでも、2012年から2013年にかけて、同性パートナーシップ制度が既にあったフランスやイギリスでの同性婚可決や、アメリカで同性婚を禁止していたDOMA法の17年ぶりの廃止が、さらにLGBT活動家の運動に力を与えた。国全体ではなく州ごとのみで現在同性婚が認められているアメリカでは、DOMA法の廃止後ドミノ倒しのように次々と導入する州が現れ、たったの1年半で3分の1から3分の2までに増えた。さらに今年の1月、最高裁判所がついにアメリカ全土で同性婚を認めるべきかどうかを6月頃に判断することを発表し、その動きはもう誰にも止められない。
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過去では「ファッショナブル」や「アーティスティック」といった、良くも悪くもエッジィなイメージが主流だったLGBT(性的マイノリティ:レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダーの略)も、今ではティファニーやニコン、マイクロソフトなどの海外の広告でも見るように、「普通の家族」としても描写されている。それほど同性婚は一部で自然に定着している。日本でも、ディズニーランドで同性ウェディングを行ったレズビアンカップルの東小雪と増原裕子を筆頭に、この2年間で同性家族がメディアに徐々に登場するようになってきている。つい5年前では考えられなかったことだ。

たくさんのLGBTと知り合って「何だ、普通じゃん!」とわかった

そんな背景もあり、国内で同性婚が話題に上がる機会も最近特に増え、この条例案は満を持して現れたように見える。2012年の6月の区議会の質疑応答で、渋谷区の長谷部健区議が「同性カップルに証明書を発行できないか」といった内容の質問をしたことが最初のきっかけだ。長谷部は次のように話してくれた。「僕も20年以上前は、LGBTについては少し『うわぁ』という気持ちが正直ありました。そういう方のことを知らないから。でもサンフランシスコなどに行って海外でそういった方を当たり前のようにたくさん見て、日本でも性同一性障害の杉山文野君と知り合って、そこから大勢のLGBTと交流し始めました。そうしたら、『何だ、普通じゃん!』と思って。だから『慣れ』なんですよね。それでこの10年間LGBTの友人の悩みを聞いているうち、同性婚のような制度が必要だということを認識したのが動機です」。
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第一歩として、まずは人々の意識を変える

第一歩として、まずは人々の意識を変える

今回の条例案は第一歩で、あくまでも同性婚ではないと長谷部は強調する。「僕ができることは区議会でのこと。たとえば国の法律である人工授精での子どもや養子の問題ですとか、そういった面ではこの証明書はまだ力不足な部分はあります。保守的な政治家のことも考えて、憲法に触れず拒否反応を避けるような条例案にまず仕上げています。だから第一歩として、まずは空気や人々の意識が変わるようにしたい。『家族制度が崩壊する』と恐れる人も、導入されても結局何も変わらないことをわかってほしい。また、『同性婚ができると少子化が進んでしまう』と言う人もいますが、同性婚は同性カップルが子どもを持つようにできて、むしろ逆だよ!と言いたい」。実際、海外ではジョディ・フォスターや元米副大統領の娘メアリー・チェイニー、エルトン・ジョンやトム・フォードなど、設備が整っているため、子どもを人工授精や代理出産などで授かる同性愛者が多い。

渋谷区の病院や不動産などで夫婦同様の扱い、外国人パートナーも視野に

認定条件について、長谷部は説明する。「20歳以上の渋谷区に住民票がある人。あとは公正証書を作成するだけ。国の法律に相当する相続権や配偶者の相続年金などの権利は残念ながらまだ含まれていませんが、渋谷区の病院や不動産など民間の企業では、結婚している夫婦同様の扱いになる権利が含まれます。また、外国人のパートナーを持った場合も、証明書が発行できるようにしたいですね。最初はケースバイケースになると思いますが、配偶者ビザが下りるのも不可能ではなくなるかもしれません」。実際には、外国人の同性パートナーと海外で同性婚を行い、海外での配偶者ビザを取得している日本人はすでに存在している。今のところ日本政府はそういった結婚の登録や配偶者ビザは基本的に認めていないが、2013年末に、同性婚を行っている在日米軍所属の軍人のパートナーを配偶者と認め、家族滞在ビザを与えた実例がある。今後国際同性カップルも、日本で生活ができる日がそんなに遠くないのかもしれない。
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現在、憲法第24条の「婚姻は両性の合意のみに基いて成立」として、「同性カップルによる婚姻を想定していない」と指摘する人もいれば、「両性」が、「それぞれの独立した両方の性別といった意味としても捉えられる」と主張する人もおり、同性婚の法制化はすぐには難しいかもしれない。ただ、日本の政界でも同性婚の話題がようやく上り、今後も一層議論が深まるなか、長谷部の言葉通り、同性婚へ「着実に近づいた」ことは確かだ。 

長谷部健(はせべけん)
渋谷区議会議員。東京都渋谷区生まれ。株式会社博報堂勤務を経て、2003年にNPO法人green birdを設立。同年、渋谷区議会議員に当選。現在に至る。
Photograph by Cody T. Williams

テキスト/カイザー雪(Yuki Keiser)

スイスのジュネーブ国立大学文学部卒業後、奨学金プログラムで東京大学大学院に2年間留学。その後、10年間東京でヨーロッパのファッションブランドのエリアマネージャーやPRを務め、2013年に渡米。現在は、日本のインポート会社の通訳アドバイザーを務める傍ら、サンフランシスコのIT企業などの顧客に、日本文化のコンサルティングや東京のトラベルキュレーター、日本語と日本のカルチャー、フランス語の教師を務めている。

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