浅草観音裏、ローカルが案内する12軒

ハイレベルなグルメが集まる人気エリアの、通な楽しみ方

テキスト:
Time Out Tokyo Editors
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取材・執筆:泉友果子

浅草駅から浅草寺を抜けた先にある閑静な界隈を、「観音裏」と呼ぶ。かつて花街として栄えたこのエリアには、今は数えるほどになった料亭や、当時の面影を残す建物、当時からの味を代々引き継いできた店などが点在。最近では新たにビストロやカフェがオープンし、下町情緒を感じさせる街に新しい魅力を加えている。今回、飲食店を中心に行くべき12のヴェニューを厳選し案内してくれたのは、観音裏に18年暮らすデザイナーの村手景子だ。「艶がある街」と村手が称する観音裏へと誘おう。

ペタンク
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フーディーたちを観音裏に向かわせているのが、2017年4月にオープンしたビストロのペタンクだ。オーナーシェフは、銀座のワインバーグレープ・ガンボ(閉店)、ワインショップ&ダイナーフジマル浅草橋店などでシェフを務めた山田武志。カウンター8席のマイクロビストロという、客とダイレクトにコミュニケーションができるスタイルを選んだ。ペタンクを訪れる誘い文句は、「うまいチューリップ唐揚げとウフマヨの店に行こう」で決まりだ。おそらく30代以上の舌にはノスタルジックであろうチューリップ唐揚げと、正統派フランス料理のシンプルなウフマヨは、ほとんどの客がオーダーするという。

山田がペタンクで軸とするのは、やはりワイン。扱うのはヴァンナチュール(自然派ワイン)で、特にオーストラリア産を豊富に揃える。店内に掲げられている「ワインはジャケ買い」という言葉の通り、ウンチクよりも直感で惹かれたエチケット(ラベル)で選ぶことをすすめている。グラスワインは一律900円。ボトルの値段に応じて注ぐ量を調整しており、値段を気にすることなくワインを選べる。2人でカウンターに並んでじっくり飲むのもいいし、1人でぱぱっと食べて飲んで帰るなんて通な使い方もいい。予約必須だが、開店直後と21時以降は比較的空いており、地元の人はそこを狙っていくそうだ。

カフェつむぐり
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住宅街にひっそりとたたずむカフェつむぐりは、まさに「隠れ家」という言葉が似合う古民家カフェ。優しい照明とゆるやかな音楽が、訪れた人を喧噪から遠のかせる。店主の室伏将成が、自ら築70年の廃屋を改装した。目指したのは、それぞれが自分の時間を過ごし落ち着ける場所だ。ひとりや少人数でゆっくり過ごすのに向いている。2階建ての空間には、大小のテーブルやカウンターが並び、どこに座ろうか考えるのも楽しい。夫婦で営んでおり、牛乳ひとつとっても、2人が実際に口にしてから選んだものを扱う。おすすめは『季節のフルーツサンド』だ。ほどよい甘さのクリームは、甘酒がアクセントになっている。店内には段差や急な階段があるため、残念ながら小学生以下の子どもの入店は断っている(抱っこして入れる乳幼児は除く)。

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小桜
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かりんとう専門店の小桜。その前身は、店のある観音裏エリアが花街として栄えていた時代に数多くあった料亭のひとつ、1870年創業の料亭福し満だ。浅草の劇場文化が盛り上がっていた頃には、福し満にも連日芸能関係者が打ち上げなどで訪れていたそう。美空ひばりが来店したこともあったとか。そんななか、6代目女将(現社長 井田健爾の母)は、料亭のひいきの客に渡す日持ちがする手土産を探していたところ、かりんとうと出会う。太いかりんとうが主流だった当時、小桜の細いかりんとうは粋だと喜ばれたという。残念ながら料亭としての福し満はもうないが、小桜として当時の手土産文化を今に伝えている。桜が散りばめられた包装紙からは当時の華やかさが伝わり、相手の顔をほころばせそうだ。

野空(NOAKE TOKYO)
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パティシエの田中伸江とサービス担当の田中謙吾による菓子店。店の中央に鎮座する屋台は、聞けば2009年に屋台で菓子店を始めたときのものだという。日本で製菓会社に勤めた後、スイスで修行した田中伸は、帰国後にベージュ アラン・デュカス東京でパティシエとして働き、そこで田中謙と出会った。その後2人は表参道や六本木で屋台をひきはじめ、2012年には初めての路面店を浅草にオープンした。看板メニューは『ボンボンキャラメル』。「屋台で売られているようなリンゴ飴やチョコバナナを大人が食べるスイーツにしたらどんな味だろう」と考えられたのが、『苺とフランボワーズ』、『パッションフルーツ』といったボンボンだ。遊び心あるスイーツを作り出すパティシエの田中は、菓子がハロウィンなどで商業的に消費されていくことへの違和感から、出店場所には、祭りが生活に息づき、独特な季節感が感じられる浅草を選んだ。イートインも可能で、キャラメルバナーヌなどのケーキがおすすめ。購入は屋台ごしに。

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弁天
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1950年創業の蕎麦屋。この地に料亭がひしめいていた頃には、締めの蕎麦を求めて人々が訪れていたという。現在はさくっと蕎麦を食べに来る人や、一杯を楽しむ粋な人で、常時にぎわっている。人気メニューは、数年前からメニューに入れたという『はまぐり蕎麦』。はまぐりのエキスが染み渡ったカツオ出汁のつゆから蕎麦をすすると、ユズと三つ葉の香りが鼻を抜け食欲をそそる。殻ごと3つ乗るはまぐりは、かなりの大ぶり。千葉県から取り寄せており、旬はあるものの通年で提供する。他方、冬限定のとろみがついた『牡蠣南蛮蕎麦』など、季節限定の蕎麦も捨てがたい。常連の浅草っ子たちは、蕎麦で四季を感じているに違いない。

  • Things to do
  • 浅草
オープンの15時が近づくと、観音裏には銭湯グッズを持った人が行き交いはじめる。玄関で靴を脱ぎ、フロントで460円を払ったら男風呂は左手、女風呂は右手へ。曙湯は、1949年に創業。レトロな雰囲気が漂うが、2010年にリニューアルを行ったため館内は清潔だ。女風呂のペンキ絵は、富士山をバックに東京スカイツリーや隅田川、雷門などが描かれ、その間をイギリスの某有名魔法使いが飛んでいる。メインの風呂は少し熱めの44度で、ボティバス、座風呂などがある。熱さに慣れないうちは、若干温度が低い半露天のジェットバスで身体を慣らしてから入るといいかもしれない。リニューアルをした際に番台ではなくフロント形式に変わったが、宮作りで唐破風屋根の威厳ある外観や格天井は以前と変わらず、今も常連を惹き付ける。春には玄関のフジが咲くことでも有名だ。
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あさひ
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老舗の中華料理店。4代目店主である植木隆一いわく、創業はおそらく約70年前。はっきりとした創業年は分からないが、現在は5代目と一緒に親子で店に立つ。先代から引き継いだのは、メニューと客。あさひのメニューを好きで食べる人がいるのだからと、昔からのメニューは変えない。一方で、新メニューの開発にも力を入れている。3年前に考案した『パクパクパクチーラーメン』は、ちぢれ麺の上に山盛りのパクチーとアクセントのネギが乗った一品で、人気メニューとなった。フォーを意識した鶏ベースの塩スープはさっぱりとした味わいながら、揚げニンニクがコクを加える。好みでナンプラーをかけて食べれば、口のなかで中華とタイ料理が融合する。メニュー名は、店主がパクチー料理を考案している際、浅草の某有名タイ料理店で食べたパクチーラーメンが美味しく、メニューを「パク」らせてもらったことも由来してるという。

  • レストラン
  • 浅草

長らく予約のとれないタイ料理店として知られていたソンポーンが、2017年8月に大幅に席を増やして移転。店主のソンポーンは、タイの屋台などで料理経験を積み、来日後はタイ東北部のイサーン地方で日常的に食べられている料理を提供するようになった。以前は5席ほどの店でソンポーンがひとりで切り盛りし、リーズナブルに本格タイ料理が食べられるとあって人気店に。一時期はタイに帰るかもしれないという話でファンをざわつかせたが、新店舗とともに浅草に残った。今の店ではシェフを増やしソンポーン以外も調理場に立つ。写真は『ネーム クルック(ソーセージと揚げおにぎりのサラダ)』、『ガイセーン(タイ風焼き鳥)』、『プーパッポンカリー(蟹カレー)』、『トムカーガイ(スープ)』に、ビール『レオ』『シンハー』。これだけ注文して6千円代で収まる。イサーン料理は辛いことで知られるが、実はマイルドなメニューも多い。辛さが物足りない人は、ソースで調整すると良い。22時を過ぎれば空いていることが多いが、基本は予約必須。

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食堂うんすけ
  • レストラン
  • 浅草

観音裏で黄色い扉の店を見つけたら、そこがカレーと民芸の店、食堂うんすけである。ランチは牛すじカレー定食か、おばあちゃんち定食から選ぶ。3時間ほど煮込んだ牛すじと、2〜3時間炒めたタマネギを使って作るという牛すじカレーには、ニンジンがごろんと乗り、どこかやさしい味わいだ。ディナータイムには小皿料理もあり、その日あるもので店主が気分で作ったり、客のリクエストで作ったりするそうだ。料理をより味わい深い存在にするのが、器。店主の嶋田智子は、民藝への思い入れから器を使った店を開きたいと考え、うんすけをオープンした。器のほとんどは大分県の小鹿田焼(おんたやき)で、カレーの皿にも使われており、販売も行う。器もカレーも、人の手で丹念に作られていることが感じられる。

カフェミチクサ(cafe michikusa)
  • レストラン
  • 浅草
このカフェでは、地元の人々も観光客も、道草をするようにのんびりとした時間を過ごしている。店を営む鈴木夫妻が店をオープンしたのは2011年。観音裏を選んだのは、当時この辺りにカフェがなかったから。子どもたちが遊んでいる声が聞こえる富士公園の向かい側に、「家にいる感覚でいくらでも長居してほしい」という思いで開店した。白を基調とした店内にナチュラル系の家具が並び、確かに家にいるような感覚でくつろぐことができる。軽食もあるが、スイーツを食べるならおすすめは『クラシック パンケーキ』だ。バナナとメープルシロップ付きで、デラックスにはさらにバニラアイスとクリームが追加される。バナナではなくベリーバージョンもある。外はさっくり、中はふわふわだ。
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FOS
  • バー
  • 浅草

元々置屋だった築50年ほどの古民家を改装したバー。外に看板は出ておらず、店内が見えるわけでもないので、知っていると通な一軒だ。バーでは珍しく、靴を脱いであがる。薄暗い店内に入ると、イチョウの一枚板を使ったバーカウンターの後ろに所狭しと並ぶ洋酒が見え、期待が高まる。カウンター越しに腕を振るうのは、オーナーバーテンダーの森崇浩と、FOSに3年ほど勤めるバーテンダーの早川和樹(写真は早川。ドリンクはジャックローズ)。ドリンクメニューはないので、銘柄や好みを伝えて作ってもらう。目安の料金は、カクテル1000円~、ウイスキー800円〜、テーブルチャージは800円。ラストオーダーは26時30分で、夜が深まると浅草の人々が集まってくるそうだ。

粉花
  • レストラン
  • ティールーム
  • 浅草

浅草で生まれ育った姉妹が営むベーカリー。10時30分にオープンすると、丸パンやスコーンを求めて、次々と客が訪れる。パン作りは姉の藤岡真由美、販売は妹の藤岡恵が担当する。開店のきっかけは、趣味でパンを作っていた姉が、たまたま行った整体の先生にパン教室の講師を頼まれたこと。パンができ上がったときの生徒の顔を見るのが嬉しく、その時に自分の店をオープンすることを決めたそうだ。イーストは使わず、酵母はレーズンを使用して作っている。素材は国内で探し、沖縄の塩と北海道の小麦をあわせて毎朝店で焼き上げる。売り切れ次第閉店だ。

ヴェニューのセレクト:村手 景子

グラフィックデザイナー、エディトリアルデザイナー、アートディレクター。

新潟県出身。長岡造形大学造形学部首席卒。

2003年より(株)Capに所属。個人での活動と平行しながら『VOGUE JAPAN』のデザインチームに参加、その後『Casa BRUTUS』の編集デザインを12年勤め、独立。
現在はフリーランスとして、印刷物、出版物、広告、建築サインなどのデザインのみならず、ネーミング、インスタレーション、企画、編集など、さまざまなプロジェクトを手掛ける。

2015年、2016年と台湾(台北)にて個展を開催。

浅草、観音裏在住18年。2018年6月には浅草七丁目に個人事務所を開設予定。

自身が制作を行った「ASAKUSA MAP」は東向島珈琲店などで販売中。

公式サイトはこちら

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