ダニエル・クレイグ
© Photography by Paul Stuart. Styling by Gareth Scourfield

インタビュー:ダニエル・クレイグ

ジェームズ・ボンドの新作を撮り終えたダニエル・クレイグにインタビュー

Dave Calhoun
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Dave Calhoun
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ジェームズ・ボンド(ダニエル・クレイグ)の1日の始まりを教えよう。ハチミツ入りのダブルエスプレッソを2杯と、ポーチドエッグをのせたトースト。そして、ダブルエスプレッソをもう1杯。基本的にはカフェインに次ぐカフェインと、その衝撃を和らげるためのハチミツをとるのだ。7月に会った時、8ヵ月間にわたる壮大な『007 スペクター』の撮影を4日前に終えたばかりで、クレイグは疲労を回復させるためのものならすべて必要としている状態だった。本作のため、ロンドン近郊のパインウッドスタジオやメキシコシティ、モロッコ、オーストリア、アルプス、ローマを飛び回っていたのである。

ダニエル・クレイグがボンドに扮するのは4度目であり、サム・メンデス監督とタッグを組むのは10億ドルの興行成績を記録した『007 スカイフォール』に次いで2度目である。彼は『スペクター』がスタイリッシュでクラシックなボンド映画になるだろうと考えている。一瞬、青い瞳に恐怖の影がよぎった。「まったく、この業界で傲慢になるってことは恐ろしい」。そして、内なる熱意を抑えながら彼は語った「この作品が成功するのを祈るばかりだよ」と。プレッシャーは感じられなかったが、もう1杯ダブルエスプレッソが必要なのだろう。

 

ー8ヵ月間にわたる『スペクター』の撮影は盛り上がって終わりましたか。それとも、静かに終わりましたか。

いつもしんみりと終わるよ。本当はみんなでハイタッチして、良い仕事ができたって言って終わりたいけど、徐々にしぼんでいきがちだ。クランクアップの前の週にモロッコで撮影したんだけど、それがこの映画にとって本当の最後のように思えた。僕たちはそこに行って、ボンド映画的なことをやって派手にかましたんだ。撮影を締めくくるにはうってつけだと思ったんだけどね。

ーこのような長期間にわたる撮影を終えて、最もやりたいと思うことは何ですか。

文字通り、休むことだよ。もっともなことだろ。脳内のスイッチをオフにしたいんだ。いつもは、日曜日だろうが朝6時になるとベッドから身を起こして、仕事に行かなきゃと思う。そういう思考をオフにして、アラームもオフにして、寝ていたいんだ。酒を飲む量も増えるよ。今週からそうやって過ごしてる。ひたすらリラックスしてるんだ。

最初の出演から10年も経っていますが、4度もボンドを演じられると思っていましたか。

もう1作出演する契約になっていたんだ。それは前から決まってて。でも、スタジオ側にはなるべく早く作りたいという強い意向があった。実際、2本の映画を連続で撮ろうっていう話もあった。僕は「頭がいかれてるんじゃないか」と言ったよ。なるべく丁重な言い方でね。偉い人間はそんなことを考えるんだ。

Daniel Craig © Photography by Paul Stuart. Styling by Gareth Scourfield
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この映画で僕が脱ぐかって。ああ、もちろん、脱ぐさ。

ー前作『スカイフォール』には、『007 カジノ・ロワイヤル』や『007 慰めの報酬』よりもユーモアがありました。『スペクター』でもそれは変わりませんか。

『スカイフォール』にあったユーモアは意図的なものだった。そうじゃないと言ったら嘘になるね。僕はユーモアが入る余地があると思っているだけだ。特にサム・メンデスのような「真実の警官」といえる人が舵をとっている場合はね。僕は自分のことも「真実の警官」だと思ってる。僕たちはこれはリアルなのか、といつも問い続けているんだ。そうするとユーモアが生まれることがある。でも、それはギャグシーンを書くということではなくて。そういう映画を作りたいわけではないからね。ギャグシーンを書くライターは世の中にごまんといるけど、上質なギャグは少ないんだ。セス・ローゲンたちやそれらの (コメディ)映画を作っている人たちを見ると、その多くは即興だ。彼らはとても面白いけど、僕はそういう芝居をやり慣れていない。でも、ユーモラスな芝居が得意なベン・ウィショーやロリー・キニアたちが参加してくれている。そうだな、短くまとめると、今作にはもっとユーモアを入れようと努力したよ。

ーサム・メンデス監督の再起用にはあなたも関わりましたか。

ああ、僕が頭を下げて頼んだ。ひたすらお願いしたよ。当然、彼には多額のギャラが提示されたけど、僕からも引き受けてくれるよう彼に頼んだんだ。はじめ製作会社は、映画をさっさと作りたがっていたんだけど、彼はそれは無理だと断った。単純に時間がなかったんだ。その時取りかかっていた劇場映画が3本あったからね。それで会社側は脚本を進めないとだめだと言っていたんだけど、彼は無理という調子だったんだ。

 ー彼が引き受けてくれなさそうだったとき、がっかりしましたか。

すっかり落ち込んだよ。僕と彼は、ある地点に到達したと感じていたんだ。『スカイフォール』にはとても悩まされたんだ。彼はすすんでその話をしてくれると思うよ。僕たち2人は何度も頭を突き合わせて熱い議論をたくさん交わした。そして、乗り切ったんだ。前作は彼にとって最初のボンド映画だったからね。僕が何年間も一緒に仕事をしているクルーたちがいるセットに彼がやってきて、クルーがとても打ち解け合っていたから「ここの妙な原動力は何なんだ」と思っていた。映画を撮るように頼んだのは僕だったから、彼に居心地よく感じてほしかった。でも、それと同時に背中を押したいとも思った。彼とは初対面ではないし、お互いのことをよく知っていたからね。だから、僕たちは互いに大声で言い合うことができたんだ。今回の作品ではそれが適切な関係になった。僕は彼に前作とは違うやり方で大いに助けてもらったと感じたな。お互いに背中を押しあったね。

ー撮影中、脚本の執筆を手伝っているという噂がありましたが、それは本当ですか。

椅子に座ってじっくりと脚本を書いたわけじゃないよ。僕は脚本を書けないからね。もし自分が脚本を書ける人間だったら、書いていただろうね。ライターのジョン・ローガンがやってきて、ある骨格のようなものを僕たちに示してくれた。それから2人のライターが加わって、僕たちはサムも交えて彼らと一緒に仕事した。どうやって進めたかというと、僕がアイデアを思いついて夜中に目を覚まし、それを書きとめてサムに送った。彼はそれを無視したり、無視しなかったり、翌朝それについて僕と話したりして、そこから話を作っていったんだ。そんなわけで、僕は実際に脚本を書いたわけではないよ。

ージェームズ・ボンドを演じるということは、あなたの見た目に大いに関わってきます。服にしても、歩き方にしても、肉体面にしても、そのようなことにうんざりしたことはありませんか。

ああ、気が重いよ。最良の演技は、見た目を気にしていないときに生まれる。ボンドはその対極なんだ。僕は、ボンドがどのようにスーツを着て、部屋に入って来るかということは重要だと分かっている。でも、俳優としては自分がどう見えるかなんて気にしたくないんだ。そこで、僕は2つの側面と付き合わなければならない。ある意味、ボンドだからこそ、それはうまく作用する。彼は見栄えが良いけど、他人が自分のことをどう見ているかなんて気にしてないからね。 

Daniel Craig in Spectre
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誰が次のボンド役をやるなんて気にしてないさ

ーあなたがボンドを演じたなかで最も有名なイメージは『カジノ・ロワイヤル』で青いトランクスを履いて海から出てきた姿です。10年経った今、その姿を見てどのように感じますか。

そんなもの見ない。それを見て泣きながら「なんて僕は美しかったんだ」なんて言わない。すべて発見の軌跡だったんだ。僕はボンドになるために必要なものを認識していたけど、それらは今だに自分が信じているあらゆるものに反している。あまりクールではない僕の姿を何度も見てるはずだ。僕はあまりクールな人間ではないし、最もクールな人間なんかじゃない。でも、ジェームズ・ボンドを演じる上ではクールでなければならない。それにしても、クールって一体なんなんだ。そのテーマで論文が書けるよ。あのショットは、大きなアクシデントだったんだ。僕は浅瀬で泳ぐふりをしていた。そして、立ち上がって海から歩いて出てきたんだ。僕は泳いでクールな姿を装おうとし、自分でそれがばかげた姿だと思い、泳ぐのを止めて立ち去ろうとして、それが、あのショットなんだ。

 ー『スペクター』でも似たようなショットを期待して良いですか

この映画で僕が脱ぐかって。ああ、6ヵ月間も撮影していたんだ。もちろん、脱ぐさ。

ーなんでジェームズ・ボンドなんかを演じるハメになったんだ。と考えることはありますか。

わかってる。ばかげてるよ。ほんとにばかげてる。最初にオファーを受けたとき、僕は思った。お前はミスを犯したって。よくわからないけど、いまだにクレイジーだと思っているよ。

ーボンドを演じているせいで、役者として制限されることは何ですか。

思いついたすべてのアイデアをボンド映画に注ぎ込んできた。この映画に捉われてきた。「ボンド・バンク」は空っぽだよ。もし君の質問が、次にボンド映画を撮るとしたらどうするかということなら、何も思い浮かばない。宇宙に行く? いいね。 以前にもやってるし、またやってみよう。

ーいえ、私の質問は、役者として普通ならできることをボンドのせいで制限されているとしたら、それは何かということです。

ああ、なるほど。いくつかの点では、僕がやりたいと思うことは何も制限されていない。でも、ボンドを演じたことで僕の俳優人生は一変した。チャンスが広がったんだ。僕はもっと多くのことができただろう。もしボンドによる制限があるとしたら、それは恐ろしく時間がかかるという点だ。これは制限だと言えるね。

ーボンド映画の新作には多くの期待や議論が常につきまといます。そのような熱心なファンや彼らの注目度の高さには慣れましたか。

そんなこと考えてられないよ。僕はもうインターネットを見なくなった。有名になると、インターネットは有害な存在になる。本当にそう思うよ。このせいでパラノイアになってしまう。もしくは、すでにパラノイアだったのがさらにひどくなる。なぜなら、有名な人がインターネットを見ていると、30分もしないうちに自分のことが話題になっていると気づく。自分が強いか弱いかに関係なく、ある種の情報はその人をパラノイアにする。僕はそうならないように見るのをやめた。クリエイティビティにとって敵だよ。

 ーボンドは女性たちと「特別な」関係を持っています。彼は時代遅れなのでしょうか。

きわどい線だと思う。彼が女性嫌いにならないのは……表現が強すぎるな。「少し気難しい女性たち」とでも言えばいいかな。彼女たちと直面するのは問題ないと思っている。キャラクターの問題だよ。彼をこの点だけで判断しようとすると、見失ってしまう。そして、これはキャスティングにも関わってくる。やるべきことは、映画の中で女性たちが出てくるパートをできる限り強烈に、できる限り面白くするために全力を尽くすということだ。なぜなら、僕の意見としては、こんな世界はもう存在していないのだから。こんなキャラクターは存在する。人間は実際にそのようなことを考える。だから葛藤が生まれる。それを映画に当てはめてみると、ボンドは脈のあるものなら何とでもセックスしたがっていると考えてるんだ。大事なのは、女性たちがいかに彼を変えたかということだ。僕にとって興味深いのはそこなんだ。

ーまた新たなボンド映画に出演するということは考えられますか。

今かい。それなら僕はこのグラスを壊して自分の手首を切るだろうね。いや、今は出演したいと思わない。まったくね。もうたくさんだ。現状では、ボンド映画を卒業したと思っている。僕たちはやりきったんだ。僕が望んでいるのは、前に進むことだけだ。

ーもう永遠にボンドに戻ることはなく、前進したいということですか。

少なくとも1年か2年かは、それについて考えたくないだけだよ。次のステップが何かは分からない。まったく見当もつかない。僕が慎重になろうとしているからじゃない。現状では、僕たちはやりきった。誰かと何かについて話し合っているということは一切ない。もし僕が新しいボンド映画に取りかかっていたとしたら、それはお金だけのためだろうね。

ー次に誰がボンドを演じるかは気になりませんか。

まったく気にしてない。彼らに幸あれ、だよ。気にしていることがあるとすれば、僕がこの役を良い状態で辞めて、誰かがそれを引き継いだ場合、より良くしてほしいということだけ。それがすべてさ。

ーそれでは、後ろからおせっかいを出すようなことはしないんですね。

勘弁してくれよ。そんなことしたら、なんて哀れなんだろう。「ほら見ろよ、ダニエル・クレイグだ。また現場に来てるぞ」なんてあり得ないよ。

ーもしある俳優がボンド役をオファーされてあなたのところにアドバイスを求めてやってきたら、どのような言葉をかけますか。

以下の2つのことを、そっくりそのまま伝えるだろうね。1つは、自分で決めるべきだということ。誰の意見も聞くな。まあ、皆の意見は聞くべきだけど、その日の最後には自分で決めなければならない。自分の一生は自分にしか責任が持てないんだ。そして、しくじるなということ。愚かなまねをしてはいけない。みんなステップアップしなければならないんだ。こんな映画はもう作られなくなった。今ではとても貴重だ。だから愚かなまねはするなってね。

ーでは、誰かが電話してきて、「007の仕事が取れた」と言ってきたら、あなたは何とアドバイスしますか?

しくじるな。一か八かやってみろ。全力で取り組め。そんな月並みなことを言うだろうね。でも、本当さ。ただ最高の仕事ができるようにしてほしい。限界まで自分を追い込まなければならない。でも、それに見合うものはある。なにせジェームズ・ボンドなんだから。

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