ハラル目線で考えるアジア市場の実情とは

テキスト:
Time Out Tokyo Editors
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国際的な和食ブーム、日本製品への信頼の高さ、日本市場の閉塞感、そんなことを考え、自社の商品やサービスを世界に持っていきたいと企んでいる人も多いのではないだろうか。しかしながら、その国の文化や風俗を知らないままに事業を展開することの怖さもある。衣食住に至るまで厳しい戒律の存在する国や地域を相手にするならなおさらだ。タイムアウト東京では、そんな状況の一助になればと、定期的にセミナーを開催している。今回は、『世界目線で考える。ハラル編』として、特に熱い注目を集めるアジア諸国のイスラム市場について、実情をよく知る平山一滋を招いて、具体的に気をつけるべき点や今後の狙い目となる市場など、詳しく話を聞いた。


海外進出を目論む日本企業にとって、巨大な消費人口を持つアジア市場はこれまでも常に魅力的であり続けた。昨今では特に、いわゆる中間所得層が存在感を急激に増しつつある東南アジア諸国が、見過ごすことのできないマーケットの1つとして注目を浴びている。
一方で、その文化的な背景の多様さが、多くの日本企業や商品に進出を躊躇させる原因ともなっている。特にインドネシアやマレーシアなど、人口の半数以上をイスラムの教えを守るムスリムが占める国において無視することのできないのが、「ハラル」という概念だ。豚肉は食べない、アルコールも厳禁など、部分的にならなんとなく知っている人も多いだろう。


セミナー開始時、「ハラルという言葉を知っている、簡単になら人に説明できる人」と平山が会場に尋ねると多くの参加者が手を挙げたが、続く「1年以上前から知っていた人」という質問では、そのほとんどが手を下ろしたことからも、ハラルへの急激な注目の高まりが伺える。日本国内においても昨年2014年11月にSEKAI CAFE、12月に東京ハラルレストランと、ハラルをうたった飲食店が立て続けにオープンし、情報に敏感な人たちの話題を呼んでいる。
コーランをはじめとしたイスラムの教典においてハラルは、原材料はもちろん加工法や保存、運搬の方法に至るまで、実に細かく決められている。また、その解釈が分かれることもあり、ムスリムではない人にとってますます複雑なものとなっている。そのため様々な機関が独自の基準を設け、「ハラル認証」を行っている。


自身もクアラルンプールに住む平山は、世界で唯一マレーシアのみが国家としてハラルの基準をしっかりと設けているため、進出は比較的容易だと説く。日本企業がハラル認証を取得するための手助けを行う平山は、現地の日本企業へ独自に行ったリサーチの結果を惜しげもなく参加者に披露する。
特に印象的だったのは、化粧品メーカー花王の例だ。食品においては当たり前となっているハラル認証だが、化粧品については認証を取得していない商品も多く出回っている。そのため審査の厳しいハラル認証をあえて取得することで、同社の『ビオレ』は他社商品との差別化を図る。面倒な制約として受け取られがちなハラルだが、むしろ品質や安全性を消費者にアピールする売りになるというのだ。おそらくは同様の理由から、「流通のハラル」を目指す物流業者も存在するようだ。最近でこそ食品への異物混入などが巷間を賑やかすが、もともと品質管理の得意な日本企業にとって、ハラルは強力な武器になると平山は示唆する。ここにはまだまだ未踏のマーケットが広がっていると感じないだろうか。


そのほかにも、アジア各都市のGDPの見方や、年間を通じたマーケティング戦略などが、的確な論理と明快な資料でもって語られた。後半、タイムアウト東京代表の伏谷博之を交えたトークセッションでは、「多様性先進国」とも言うべきクアラルンプールを東京が見習う必要などについても触れられた。タイムアウト東京が行った食についてのアンケート調査でも、ヴィーガンメニューやハラルメニューがないことを嘆く声が多かったことが思い出される。海外旅行客や移住者を呼び込む上でも非常に切実な問題だろう。どのような文化的背景を持つ人にとっても暮らしやすい東京になっていくことを期待したい。

平山から参加者へと配られた『キットカット』にもハラル認証のマークが


次回のトークイベント『世界目線で考える。』はクールジャパン編の最終回。クールジャパンのすべてを知る最重要人物、梅澤高明が満を持して登壇。内閣官房『クールジャパン有識者会議』委員、内閣府『税制調査会』特別委員を務める梅澤は、クールジャパンをどう捉え、どのような展望を描いているのか。その本音に迫る。
ぜひ、この貴重な機会に参加してほしい。

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