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太刀川英輔(NOSIGNER)と川上シュン(artless)に聞くクールジャパン

太刀川英輔(NOSIGNER)と川上シュン(artless)に聞くクールジャパン

『クールジャパン提言』という言葉を耳にしたことがあるだろうか。稲田朋美クールジャパン戦略担当大臣の私的懇談会から、同大臣へと提出された提言書だ。言葉ばかりが先行する印象の強い「クールジャパン」そのものを、定義しデザインするための、各分野の識者からの提案をまとめたものと言える。タイムアウト東京が主催するトークイベント『世界目線で考える。クールジャパン編』の第3回では、同提言を取りまとめたデザイナーである太刀川英輔と、太刀川とも親交が深く、日本の伝統美と現代的な感覚を織り交ぜたセンスで世界中から注目を集めるアートディレクターの川上シュンを招いて、デザイナー目線で考えるクールジャパンについて語ってもらった。

 

 

 


「日本の特色を大事にしている表現ほど、世界からはユニークに見え評価される」と語る川上は、江東区の深川生まれ。下町で過ごした幼少期は、日本の伝統や下町文化を古くさいと敬遠していた。若き日の無垢な憧れから、デザイナーや海外での仕事を志した川上は、しかし、海外で表現するようになって、否応なく自分のアイデンティティーを意識するようになったと言う。今では、着物の帯や贈答品の水引をモチーフにしたパッケージデザインや、蚊帳から着想を得たインスタレーションなど、日本の伝統技術や美意識を、最新のテクノロジーやデサイン的な思考を用いて新しいものへと応用する手法で評価を得ている。一方で、自身の事務所artlessでは海外からのインターンや、海外経験の豊富なスタッフを積極的に採用するなど、常に国際的な状況に身を置く。海外の文化やシーンを鋭敏に察知しようとするからこそ、日本特有の面白さ、美しさにもまた敏感に気づけるのだろう。

 

 

 


2014年11月、京都に出店したアパレルショップH&Mのメインビジュアルを手がけた際には、戦後の前衛書道「墨象」をモチーフにショッピングバッグを制作。これを気に入ったアメリカ人のアートディレクターが二条城に巨大なショッピングバッグを設置したという。川上の思惑を離れての、このような日本人らしからぬ利用のされ方もまた、日本の美意識を海外からの目線でとらえたからこそ。トークでは笑いを読んだ何気ないエピソードも、クールジャパンが世界に出て行くためのヒントとなるのかもしれない。
海外との活発なコミュニケーションについては、太刀川も『クールジャパン提言』の中でその重要性を強く説いている。そうして国内の成長を促し、海外へと繋ぎ「世界の課題をクリエイティブに解決する日本」を目指すのだという。そのために必要不可欠な要素として、日本古来の思想や哲学の存在を、太刀川は強調する。「見えないもの、形のないものに真剣に取り組もう」とデザイン事務所NOSIGNERを立ち上げた太刀川だが、自身が模索してきたデザインの問いが、既に日本思想史の中で答えられていると考えるようになる。「NOSIGNER」という造語が、「読み人知らず」と翻訳できてしまうことも、その極めて象徴的な例だろう。空海や宮本武蔵など、馴染みの深い偉人の言葉を引きつつ、「観」を「Holistic View」、「型」を「Open Source」、「道」を「Inheritance」などと、日本を語るために欠かせないキーワードを、太刀川は鮮やかに翻案してみせる。

 

 

 



『方丈記』冒頭の、「ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず」という無常観を表した名言をも、太刀川はむしろ伝統を残すためのアイデアとして読み取る。一切の変化を厭い、ただ形式的な継承にのみこだわれば、本質的なものは失われていく。日本的美意識を取り込みつつも時代や状況に即した新しいものを探求する姿勢は、川上をはじめ世界でアピールできる日本のクリエイターに共通して見出されるものかもしれない。
イベント後半、タイムアウト東京の伏谷博之も交えたトークセッションでは、「日本的なエッセンスをどのような判断基準で抽出するか」、「(日本的なものを海外に売り込みたい企業には)デザイナーをどのように使ってほしいか」などといった実際的な質問が投げられた。終始和やかだった会場には、比較的若い参加者が多く見受けられ、海外で活躍できるデザイナーを目指す人などに向けてのアドバイスなども話題にされた。具体的なことにはここでは触れられないが、やはり世界の様々な地域や、デザインに限らず多くの分野のものを知ることが大事だというのは共通見解のようだ。海外目線を持った2人を、伏谷が日本思想を踏まえて「マレビト」となぞらえたように、多くの人にとって未知のものに実際に触れる経験は新しいものを生み出す知恵を与えてくれるだろう。

 

 

 


話の内容にもまして訴えかけてくる、登壇者の雰囲気や会場の空気が楽しめるのもトークイベントならでは。熱っぽく雄弁に語る太刀川と、常に落ち着いた姿勢を崩さない川上の対比が印象的だった。

次回の『世界目線で考える。クールジャパン編』は最終回。ゲストは、クールジャパン戦略の策定やクールジャパン機構設立において政府を支援し、現在内閣官房『クールジャパン有識者会議』委員、内閣府『税制調査会』特別委員を務めるATカーニー日本法人会長の梅澤高明。クールジャパンのすべてを知る最重要人物だ。
また、1月29日(木)には番外編として『世界目線で考える。ハラル編』も開催。ムスリムの多く居住する地域への進出には欠かせない考え方をこの機会に学んでほしい。

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