Shunga by Suzuki Harunobu

春画はタブーなのか

春画の芸術様式の歴史と、永青文庫での展示を考察する

テキスト:
Time Out Tokyo Editors
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鈴木春信「煙管」

テキスト:マット・シュリー

919日、東京都の永青文庫が、果敢にも春画と呼ばれる日本の官能的な芸術の展覧会の開催に踏み切った。作品は歴史的な性質を持つものだが、この展覧会には論争がついて回る。春画は今だに猥褻であると多数の人々は考えており、2年前の大英博物館での展示には成功したものの、永青文庫が展覧会の開催を決めるまでに10以上の日本の美術館がこの展覧会を却下している。数百年前の芸術様式が今の日本でこのような事態を引き起こすのはどうしてなのだろうか。実は以下のような理由があるのだ。

葛飾北斎「喜能会之故真通」浦上満氏蔵

葛飾北斎「喜能会之故真通」浦上満氏蔵 

春画とは

初期の春画(文字通りの意味では「春の絵」。「春」は日本語では性の婉曲表現)は遥か昔までさかのぼることができるが、この芸術様式は主に江戸時代とその時代の浮世絵と密接に関連づけられる。浮世絵とは、芸者、歌舞伎、相撲、性という江戸時代の快楽主義的な「浮世」を描いた木版画である。

春画を描いた者の中には、喜多川歌麿、葛飾北斎 (北斎の最も有名な春画は、1981年に制作された映画『北斎漫画』のテーマとなった。この映画では体にタコを乗せられた女が描かれた)など、当時の優れた浮世絵師もいる。春画は需要があり、裕福な購買者から支払われる額は、浮世絵師が数ヶ月食べていけるほどのものであったと伝えられている。

春画の特徴的な点の1つに、性器の誇張がある。こうした誇張は、実は浮世絵師が自分の竿の大きさを誇示していたのではなく、性器を「第2の顔」として表現したのである。つまり、毎日世間にさらしている顔とは異なり、人間のまさに根本的な欲望を表すものとして表現しているのだ。そのため、大きく、頭の大きさに近い不自然なものも多いのだ。

春画のもう1つの特徴は、性行為を行う者がともにほぼ完全に服を着た状態であることが多いということだ。裸体が欲望をかき立てるものであり、同時にタブーでもある西洋とは違い、江戸時代の日本の男女は、混浴風呂などで定期的に互いの裸を見ていた。むしろ、春画の中での男女は服を着ていた方が魅力がある。その人物の職業を知ることができるし、むき出しになっている部分を強調することができるからだ。また、これ以上の強調はないだろう。

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葛飾北斎「富久寿楚宇」

春画を見る

それにしても、どうしてそんなに春画の需要が大きかったのだろうか。理由の1つとして、権力者の妻が首都に住むように将軍から求められるという江戸時代の制度により、地方の権力者がさみしい夜を過ごすことになっていたことがある。解剖学上の正確性には疑問が残るが、春画が経験の乏しい男女のための性行為のガイドとして使用されていたという証拠も残っている。最後に、春画は疑いなく官能的ではあるが、ユーモアの要素も存在した。これは「笑い絵」と表現される。春画は日本の1つの時代の工芸品である。この時代には、性に関する態度は自由なもので、笑いの対象にできるほどだったのだ。

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喜多川歌麿「歌満くら」浦上満氏蔵

この大騒ぎはなぜ起こったのか

実は、江戸時代には春画はタブーなどではなく、広く受け入れられており、男女問わず所有し、展示していた。昔、日本を訪れた外国人の報告によると、日本人の家に行くと、主人と妻が春画のコレクションを自慢し、西洋人の客はぞっとしていたという。

道徳的な観点から春画を禁止する動きは明治時代に始まった。数世紀に及ぶ鎖国の後、西洋に国を開いた日本政府は、「文明化した」西洋と文化的、倫理的に同じレベルにしようとし、春画を禁止(言うまでもなく、公衆の面前で裸になったり、男女が混浴するなどの行為も禁止された)。1900年代初期の警察の捜索により、数千の作品、春画が没収、廃棄され、禁止が完全に解かれた後も、タブーとなっているのだ。

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春画は根付くのか、消えるのか

皮肉にも、再び西洋の影響により、日本の春画に対する姿勢が変わろうとしている。今回は肯定的な再評価である。20世紀の多くの西洋のアーティストが、春画の影響について語り(ピカソは、前述の北斎のタコの版画を非常に気に入っていたため、ピカソバージョンを描いた)、西洋において、日本で禁止されていたこの様式を合法化させた。

最近では、この10年の間にヘルシンキ、ミラノ、バルセロナで大きな展覧会が開催され、2013年の大英博物館での展覧会で絶頂を迎える。これは東京の基本原理となるもので、インデペンデント紙は「これまでの作品の中で、最も率直ですばらしい喜びの絵画だ」と褒め称えた。

今日では、書籍や年代物の春画さえ購入することができる。永青文庫が現在の展覧会の開催を決めるまでに10以上の東京の美術館が開催を回避したことを考えれば、日本では春画がいまだにタブーであることは明らかだ。広い心を保ち、自分の中にあるかもしれない厳格な態度はそのままに12月23日(水)までに永青文庫に足を運ぼう。あなたが18歳以上であればだが。

そして、これも忘れないで欲しい。笑ってもいいのだ。

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