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インタビュー:池田亮司

日本の電子音楽分野の第一人者が語る、音と光のイリュージョン

テキスト:
Time Out London editors
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2014年8月4日、ロンドン史上最も壮大なパブリックアートプロジェクトが公開され、多くのロンドナーが驚きと感動を共有した。その夜空にくっきり浮かび上がったのが、『Spectra』と名付けられた、巨大な光の束。第一次大戦参戦100周年を記念して、ヴィクトリア・タワー・ガーデンズに設置されたものだ。この作品を制作したのが、日本の電子音楽分野の第一人者として、世界中から注目されている作曲家/アーティストの池田亮司。普段あまり人前に出ない彼が、タイムアウトロンドンのインタビューに答えてくれた。

「『Spectra』は、『見る』を意味するラテン語のspecereから由来。実際に見えているのは、スピーカーから出力される音の波に応じる、白色光です」と語る、池田。絶えず人間の感覚能力とテクノロジーの臨界点に挑むような、洗練された作品やパフォーマンスの数々で、今や音楽だけでなく建築、映像、ダンスといった表現ジャンルを超えて、幅広く大きな影響を与えている。

光線は、8月11日までの1週間限定で、夜の21時以降に国会議事堂あたりの空を眺めれば、誰でも見ることができた。遠方から見ると、バットマンのシグナルのようでもあり、天体物のよう。しかし地上は、決して穏やかなものではない。放射部分には7x7の格子で作られた、特製キセノンサーチライトが複数配置され、目が開けれないほど、眩しく真っ白に発光していた。「目が一気に強烈な情報を受け取るので、何も見えないかもしれません」と言っていたように、あまりの光量に本当に何も見えなかったが、スピーカーから出力されるノイズサウンドが効果的で、幻想的な風景を楽しめる。

ヴィクトリア・タワー・ガーデンもまた、池田にとってぴったりの場所だ。「背後には国会議事堂やテムズ川、ロンドン・アイなどがあり、まるで『Spectra』がロンドンの過去と現在の間に立っているよう。見上げれば、ロンドンの未来も見えそうだ。ここは街の中心にありながら、比較的知られていないのも面白い。人々に作品の位置を地図で示すようお願いしても、分かる人は少ないでしょう」

革新的な美術団体、Artangelによって手掛けられたこのプロジェクト。ウェストミンスター寺院で開催された、第一次世界大戦の記念式典で華々しく公開され、人々を魅了。過去にバルセロナやブエノスアイレスでも公開された同作品だが、今回が最も大々的なものだったに違いない。国会議事堂やタワー・ブリッジも照明を消す、第一次大戦参戦100周年の消灯イベントの一貫で、第一次大戦時に外相を務めていた故エドワード・グレイが言った「ヨーロッパ中の灯りが消えていく。我々が生きている間に、この灯りが再び灯されることはないだろう」からヒントを得て企画されたものだ。

同作品は、ロンドンでもっとも大きいスポットライトとなったが、池田自身は公衆の目を避けることを好み、 ポートレートも写真でもイラストでもなく、バーコードを使用。「作品のセットアップはしましたが、あとは見る人次第だと思います。『Spectra』の印象は人それぞれ。何年経っても覚えていてくれる人もいますが、だいたいそれを作ったアーティストのことはそれほど覚えていない。でもそれも意図的にやってるところはありますね」

そんな彼の特別展示が、2014年11月5日(水)〜9日(日)にかけて、青山スパイラルホールにて開催される。『Red Bull Music Academy Tokyo 2014』の一貫で、聴覚と視覚で体感する大規模なインスタレーションを堪能できる、貴重な機会となりそうだ。

原文へ By Martin Comer (Time Out London)

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