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パへスとシェルカウイのデュオ舞台「DUNAS -ドゥナス-」が日本初演

フラメンコ界のスターと天才振付家が作品に込めた思いとは

マリア・パヘス(右)とシディ・ラルビ・シェルカウイ

フラメンコ界のスター、マリア・パヘスと、コンテンポラリー・ダンス界の鬼才、シディ・ラルビ・シェルカウイがタッグを組んだ珠玉のデュオ作品『DUNAS -ドゥナス-』が、3月29〜31日の日程で日本初演される。公演を前に、2人が作品のテーマと思いを語った。

テキスト:高橋彩子(演劇・舞踊ライター)
写真:豊嶋希沙

ピアノとバイオリンの憂いを帯びた音色が響く中、大きな薄布に身体を吊られたパヘスとシェルカウイが、布越しに手を伸ばし、互いに触れたと思うとまた離れる。やがて布の外に出た2人は、ユニゾンで踊ったりソロを見せたりし、さまざまな形で踊りを織りなしていく−。2004年に舞踊賞の授賞式で知り合い、その後、偶然に再会したことに運命を感じたパへスとシェルカウイがクリエイションを進め、09年に世界初演した『DUNAS』は、彼らのイメージの集積であり、コミュニケーションの成果でもある。

−『DUNAS』には明確な物語はありませんが、2人の関係性が刻々と変わっていくさまが美しく印象的です。その変化をどうとらえていますか

パヘス:タイトルの「DUNASとは、スペイン語で砂丘の意味。砂漠には何もないけれど、常に変化しているでしょう?まずそれをお互いにコンセプトとして持つことで、色々なものが生まれると思ったのです。

シェルカウイ:僕らは、お互いの人生について -例えば振付家であること、ダンサーであること、ある文化の中で男/女であること、息子/娘であることなどについて- 話し合いながら創作を進めていきました。だから、舞台上での2人は、ある時は双子のようだったり、またある時は姉弟、あるいは親子、夫婦のようだったり、さまざまな関係性を結びます。同時に、僕らは自分自身の別の面も次々に見せていく。マリアは愛情に満ち溢れた人に見えることもあれば、魔女のようだったり暴力的だったりもするし、僕もその時々で力強く振る舞ったり繊細だったりマリアの暴力の犠牲者だったりします。でも、そこには常に愛が存在していて、お互いを制約せず自由であるよう心がけました。

−砂丘がコンセプトの根幹にあるとのことですが、実際に、シェルカウイさんが砂でイラストを描く場面もあります。木や魚の絵もあれば、9.11を思わせる絵もある。人類のさまざまな局面を描こうとしたのでしょうか。

シェルカウイ:その通りです。『DUNAS』のミュージシャンにアラブ人シンガーがいて、「アラー」の名を出したりもするのですが、観客はある種の聞き慣れた単語や音に対して、ハリウッド映画など別のコンテクストで作られたイメージのせいでネガティブなイメージを連想しがち。この作品では、決まりきったクリシェを取り上げてひっくり返すことで、世界というのは映画の中にあるものだけではなく、もっと複雑で豊かだということ、人間は広大な砂漠の中の一粒なのだということを伝えたかったのです。だから、あえてリアルに世の中を反映させました。

シディ・ラルビ・シェルカウイ

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−一方、神話的なイメージも散りばめられていますね。布で隔てられた2人が最後には1つに繋がる姿からは、男女が元々は1つだったという伝説を想起します。旧約聖書のイヴもアダムの肋骨から生まれましたよね?

シェルカウイ:まさに、アダムとイヴは意識しました。マリアは女性で僕は男性だから、2人でアダムとイヴを象徴するのは面白いんじゃないかと思って。砂で作る絵にも、男女が子供をもうける場面を描いていますが、その子供が僕らかもしれない。そうやって人類は続いてきたわけですよね。

パヘス:別々だった私たちが、公演の最後には一緒になって消滅する。でも恐らくはまた生まれ変わる。とてもシンボリックですよね。世界中のたくさんのシンボリズムとメッセージが、この作品には組み込まれているのです。

マリア・パヘス

本作に含まれる太古の物語やイメージに加え、パヘスさんフラメンコという伝統舞踊の舞踊手であるため、その様式も反映されています。シェルカウイさんも、10年ほど前に私がインタビューした際、「未来に進みたいなら過去をさかのぼる必要がある」と言っていました。

シェルカウイ:10年前に?覚えてないけれど、今と変わってないね

パヘス:ええ、あなたが今もそう言っているのを、私は知っているわ。

マリア・パヘス

シェルカウイ:積み木と同じで、それまでに何をやってきたかを知ることは大切だと思います。ただし、それは時として怖いことでもある。僕はコンテンポラリーダンサーとして育ち、いつもオリジナリティや、ほかの人と違うパーソナルなものを出すよう求められてきたけれどそのことが振付家としてもダンサーとしても、大きな重圧でした。なぜなら、自分がいい動きを発見したつもりでいても、それはヨガの中にあって3000年以上続いている動きだと知ってがっかりしたりするから。実際、人類にはいつも同じ波が押し寄せているのではないかと思うのです。祖父母の若いころの話が、自分の体験と同じだったりすることってありますよね? 今、技術の進歩によって機械やSNSで体験しているものは、たとえば印刷が発明された時に人々が感じたものと同じかもしれない。

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伝統舞踊にも同じことが言えると。

シェルカウイ:そう。伝統芸能に携わる人は、自分たちのアートフォームの歴史を熟知しており、前任者が何をしてきたかも分かっています。人間の行動を分析することは自分自身の分析にも繋がるし、自分がこれまでしてきた間違いやよく陥る行動が見えてくるから、行動を変えることもできる。だからそれは、新しいアイディアや、何かにとらわれる恐れを感じないことにも繋がっていくと思います。誰もが自分の歴史を作っていくわけだけど、伝統舞踊は観るととてもインスピレーションを受けるし、そこに絵を描くことや、自分が見たモロッコのカリグラフィーなど全てが加わって、の歴史となっていくのです。

パヘス:重要なのは、伝統と現代は相反するものではないということ。私には伝統的な舞踊のバックグラウンドあるけれど、それは保守的な世界あるとはいえ、現代と確かに繋がっています。さっきの「前に進むためには過去に戻るべきだ」というラルビの言葉の通り、今があるのは過去があるから。当然、伝統的であり現代的でもあるということは成立します。『DUNAS』は、私たちがそれぞれの世界を理解し、それに基づいて新しいものを作っていくというプロセスそのものなのです。

『DUNAS -ドゥナス-』の詳しい情報はこちら

高橋彩子

舞踊・演劇ライター。現代劇、伝統芸能、バレエ・ダンス、 ミュージカル、オペラなどを中心に取材。『The Japan Times』『エル・ジャポン』『シアターガイド』『ぴあ』や、各種公演パンフレットなどに執筆している。年間観劇数250本以上。第10回日本ダンス評論賞第一席。

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