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インタビュー:にせんねんもんだい

イギリス、ベルリンの名手たちとともに作り上げた狂気と禁欲の到達点

テキスト:三木邦洋/撮影:豊嶋希沙

 

戦後日本が技術大国として世界的に突出した歴史を持ちえたのは、ひとえに日本人の「勤勉でまじめ」な気質が支えたところが大きいのだと、誰しもが思う。しかし、たとえば国産のテクノロジーの誕生と歴史を紐解くと、日本人の技術者や職人、クリエイターといった人間たちが持つ「勤勉でまじめ」という言葉ではあまりに生易しい、フェティシズムまたは修行者のごとき「やりすぎ」な姿勢が見えてくることが、往々にしてある。音楽界では、そうした狂気的、偏執的なモードをエンジンに突き進む人々はどのような表現に至るのか?その好例となりそうなのが、1999年に東京のアンダーグラウンドシーンで活動を開始したバンド、にせんねんもんだいの昨今の作品群だ。彼女たちの音楽は、「侘び寂び」と表すと少々短絡的かもしれないが、ロックやミニマルなダンスミュージックをフォーマットとしながら、「間」に耳をすます日本人でしか成し得ない狂気と禁欲が交差するサウンドへと到達している。

彼女たちの最新作『#N/A』は、イギリスの伝説的ダブエンジニアのエイドリアン・シャーウッドをプロデューサーに迎えた話題作だ。なんせ彼女たちのデビュー期には『Pop Group』なる名前の曲があるほどであるから、エイドリアンとの邂逅は運命的で、本人たちにとっても念願の展開であるのかと思いきや、いたってフラットな答えが返ってきた。「いつも、こういうの好きなんでしょって周りから言われるんですけど、『それなんですか?』って。それから聴き始める。エイドリアン・シャーウッドの過去の仕事にしても、あまり詳しくないんです。『それで想像する ねじ』(最初期の音源)では、ちょっとTHIS HEATっぽく、という程度で仮タイトルでつけていたものがそのまま出てしまって、私たちがそのへんの音楽すごい聴いているみたいになってますけど、そうでもないんです」(姫野 さやか:Dr)

「もちろん聴いている音楽の影響っていうのは自然と出ている部分はあると思いますが、作る時にこれっぽく、とやってしまうとダサくなるから、自分が『良い』と思う瞬間を感じるというか。バンドがこうだったら格好いいというヴィジョンを崩さないようにはしています」(高田 正子:Gt)

レコーディング中にはエイドリアンからおすすめの機材をレクチャーされたという。
姫野:彼が使っていたEventide H9というエフェクターは面白いなと。ハーモナイザーなんですけど。
高田:いろいろなエフェクトをかけられて、それをiPhoneで操れるんです。自分で作ったプリセットをすぐに呼び出せて(音に)かけられる。エイドリアンがレコーディングのときに「これすごいおすすめ!」って。

『#N/A』は、エイドリアンがプロデュースを務める一方で、マスタリングにはベルリンの名手ラシャド・ベッカーを起用している。ラシャドは曲の解釈という点で大きな貢献をもたらしたようだ。「エイドリアンのミックスだけの時点では、丁寧にミックスされていて音の定位とかも細かく作られていて、クリアで広がりがある印象だったんですが、ラシャドがマスタリングしたことで、曲のなかのひとつの構成のなかのポイントの音が抜けてくるようになったというか。まったく別物になりました」(高田)

「出すところを出したことで、その曲の妖しさみたいなものも醸されていてすごい良いなって思いました」(姫野)

2000年代にはアンダーグラウンドなバンドシーンの筆頭としていわゆる関西ゼロ世代のバンドとも一緒に紹介されることの多かった彼女たちだが、2013年あたりからサウンドがよりソリッドかつストイックな方向へと進み始める。マシーンではなく人力でフレーズをループすることについては、「決められたものをどう使うのか、というのが機械だと思うんですけど、人力では機械には出せない音が出せるって思ってやっていて。自分が出したい音を自分で選んで出せるのと、正確じゃなくて少し歪みのあるニュアンスとかが人力ならではの魅力。歪みはあるけど不安定ではない、っていう微妙な感じが私は良いなって思います」(高田) 

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バンドで成し得る音の引き算という点では、今作はひとつの到達点と言えそうだが、さらなる次のステップを導くものは決して感覚的なものだけではない。「もうちょっとなにかできるんじゃないかな、とは思っている」(姫野)「これはあり、これはなしという線引きはある。ビジョンもある。感覚的な部分と、頭で考えている部分、両方がある」(高田)

高田いわく「バンドのエンジンで前進していくエネルギーを担っている」という姫野がドラマーとしてのフェイバリットに「自由でファンタスティック」なプレイに憧れているというドラマー、外山明の名前を挙げたことにも、バンドの方向性の裏付ける要素の一端が垣間みれる。

今年は、イギリスのプロデューサーShackletonとの再びの共演ライブがポーランドで行われる予定だが、それ以外の国内でのライブ活動は一時的に控えているという。今後の展開も気になるところだが、ひとまずはこの突如産み落とされた問題作『#N/A』のサウンドにじっくりと耳を傾けたい。

『#N/A』の詳しい情報はこちら

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