ニュース / シティライフ

東京のアートセンターに見る、交わりつながるアート拠点の作り方とは?

東京のアートセンターに見る、交わりつながるアート拠点の作り方とは?

テキスト:高木望


東急不動産が渋谷に開発中の新たな文化複合施設、渋谷フクラス。その1階、バスターミナルと隣接するわずかなスペースに、アートセンターを併設した日本初の観光施設shibuya-sanが誕生する。

日本語の敬称を「渋谷」という地名に付けたユニークな名前のこのスポットは、アートを起点に渋谷と世界の人がつながるような、文化の混ざり合う環境になると同時に、国内外いくつかのアート拠点と連携することにより、複数のアートスポットをつなぐハブ拠点となることも目指している。

その連携先として現在挙げられているのが、北千住のカフェ併設アートスペースBUoYと、蔵前にあるクリエイティブ・レジデンスのオールモスト パーフェクト、そして横浜・伊勢佐木町にあるクリエーティブ拠点のThe CAVEである。

オールモスト パーフェクト

独自のアプローチによってアートシーンを盛り上げるこれらの施設の代表が、9月17日に開催されたタイムアウト主催のトークイベント『世界目線で考える。〜文化は混ざることで生まれる。観光案内所とアートセンター編〜』に登壇した。国内外から注目される彼らのアート拠点は、今後「訪日外国人を増やす」という観点、いわゆるインバウンド施策においても重要な役割を担うことになるはずだ。 

では、shibuya-sanが「アートをきっかけにつながりを生む」場所として活性化するにはどうあるべきなのか。イベント当日は、彼らの意見を聞きながら、企業とアートシーンとの関わり方についても考える機会となった。

トークイベントの様子

異種が交わる場所がアート拠点となる

今回登壇した3つの施設は「複合的な要素を持った空間」であることが共通している。例えば北千住のBUoYでは、パフォーミングアーツや現代美術との出合いがあると同時に、建物自体にも面白いポイントがある。「アート拠点」を銘打ちつつ、20年以上廃墟として放っておかれていた空間をほぼそのまま残しているのだ。BUoYを経営する芸術監督の岸本佳子は、自身のアート拠点について「異ジャンルの共存をコンセプトの一つとして立てたが、先鋭的なコンテンツと地元との共存は可能」だと述べる。

岸本佳子

「BUoYは2フロアにまたがる900平方メートルという広い空間で、2階はギャラリーとカフェバー、地下は演劇・ダンス・現代音楽やファッションショーの公演スペースとして機能しています。その広さと廃墟感に惹(ひ)かれて利用してくださる方が多いです。ただ、『異なる価値と出会う』場所であるためには『先鋭的なコンテンツを提供する』だけでは不十分で、年間の作品プログラムに合わせてもうひと工夫、仕掛けが必要だということも分かってきました。

BUoYはもともとサウナとボーリング場だったところをリノベーションした物件で、当時の面影を残すようなむき出しの配管や湯船などを敢えて残している、建築的な面白さが特色の建物です。そこに建築やパフォーミングアーツをそれぞれフィールドとする人や、カフェを訪れる地元の方々が共存することで、異なる分野や視点に眼が開かれる可能性の種をまき続けること。建築の人が詩人と協働したり、アーティストが演劇人と共作したり、現代アートになじみの薄い地元の方がふらりとギャラリーをのぞきに来るといった化学反応が既に起こってきていて、そういった部分をもっともっと加速させていきたい」

また、ルイス・メンドとマルティンメンド・有加夫妻の2人が運営するアート拠点のオールモスト パーフェクトは、居住空間とギャラリー、アトリエを併設させたクリエーティブ・レジデンスを運営することで、国内外から人が集まってきている。興味深いのは、昨年のオープン以降、幅広い分野のクリエーターが同所を訪れていることだ。

左:マルティンメンド・有加、右:ルイス・メンド

「写真家や画家、イラストレーターのみならず、広告のアートディレクターやエンジェル投資家など、実にさまざまな職業のクリエーターたちが訪れるんです。特に東京は海外のクリエーターから人気の都市。気分転換や仕事のキャラクターチェンジをしたい人が、よくうちを利用します。

台東区はものづくりの街だから、手仕事でものを作る人が多く、インスパイアも受けやすいと思います。オールモスト パーフェクトのギャラリーは小さい分、実験的なこともしやすい。また、もしアーティストが滞在中スランプにハマっても、一緒に住む僕たちがフォローできる、というメリットもあります。大きな面積を持った拠点ではない分、密なコミュニケーションを取って過ごせるし、家族のように親密な関係を築けることもあります」

「余白」のある空間が、創造性を育む

さまざまな文化が混ざり合うために必要な要素として、先の2人はそれぞれの空間の特性によって生まれるメリットや効果について指摘した。一方で、横浜のビル地下の遊休不動産を活用したクリエーティブ拠点・The CAVEを運営する劇作家の石神夏希が言及したのは、制度の重要性だった。

石神夏希

石神は「新しいものに挑戦しやすい環境」を作ることが、アート拠点としての自分たちの役割だと述べる。

「ルイスさんも『実験をしやすい』環境であることをメリットとして挙げましたが、逆に言うと、今の東京には「失敗を許してくれる」場所が少ないんですよね。誰もやったことがないこと、失敗を恐れずたくさん挑戦することから、新しいものが生まれる。そんな余白のある場所を作ることが、自分たちの役割だと思っています。

具体的には、月に何日か、実験的な取り組みに対してThe CAVEのスペースを無料で貸し出す日を作っています。私たちは設立時から公的な助成を受けていません。遊休不動産を利活用し、飲食店など異なるビジネスで回しながら、ビルオーナーや個人の出資者など民間の小さな力を集めてアート支援を行うスキームの実践としても取り組んでいます」

岸本も、多岐にわたるジャンルの人間が集う環境を創り出すことによって、異種混交なコミュニケーションの場が生まれることを期待したい、と言う。

「アーティスト同士や、アーティストとアート拠点、あるいはアート拠点同士の交流の場があるのが理想ですが、そこに地元や商業や海外との邂逅(かいこう)も起こるような、(異文化)コミュニケーションのハブとしてshibuya-sanのような場所を有効活用できれば良いと思います。

期待するのは、文化・芸術の広い意味での情報共有が可能になるような環境。BUoYでも地域との連携企画として『子ども食堂』を毎週月曜夜に開催するなど、単にアートの押し付けにならないよう、地元の方々と協力できるような運営体制を目指しています」

ルイス夫妻は、海外アーティストが日本で活動をする上で、街の情報を得ることがいかに重要かを語る。

オールモストパーフェクトの展示の様子

「悩めるアーティストが多く日本を訪れます。なるべく彼らが満足のいくような結果に導くためにも、アート拠点の運営者として準備は必要だと思っています。また、東京はさまざまなものからインスピレーションを得ることができる街だからこそ、情報を得られる場所は重宝されるはず。shibuya-sanは、彼らにインスピレーションを与えてくれるような、面白いイベントや場所の情報が集積される場所になれば良いと思います」

街の「ロビー」として

最後に、第2部を司会したshibuya-sanのアートセンター部門のディレクションを担当する森隆一郎は、shibuya-sanに求められる機能として街の「ロビー」としての役割を提示した。

「shibuya-sanは、アートセンターとは言っても、劇場やギャラリーのような専門施設ではありません。では何かというと、渋谷駅前というさまざまな人が来やすい場所で、今日登壇いただいた皆さんの施設のような、小さくても大切な活動をしている人たちのところへと誘うロビー空間として運営していきたいと思っています。もちろん、渋谷圏にも小さなレコードショップや映画館やギャラリーなどの面白い空間がたくさんありますから、そういう場所へのゲートウェイにもなるようなロビー。

そして、ロビーではトークイベントや小規模な展示やイベントなども行いやすいですよね、今日登壇者の皆さんが紹介してくれたような、東京圏にうごめく創造性の種のような表現に出会える場所となることもロビーとしてのshibuya-sanの役割だと思っています」

合わせて、森は、shibuya-sanが、今回登壇した各拠点と連携していくことを発表した。ただ案内・発信するだけではなく、アートをきっかけにさまざまな視野が交錯する新たな交流拠点が、これからどんな発展を見せるのか。文化の交流地点を目指すshibuya-sanの続報に期待したい。

Advertising
Advertising