ナイトタイムエコノミーが秘める可能性とは。「OPEN TOKYO LIVE 2018」が開催

テキスト:
Hiroyuki Sumi
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日本のナイトタイムエコノミー(夜間経済)の現状や課題などについて考えるシンポジウム『OPEN TOKYO LIVE 2018 「ナイトタイムエコノミーが日本経済を動かす」』が1月17日、都内で開かれ、有識者らが市場の現状やポテンシャルなどについて意見を交わした。

ナイトタイムエコノミーは近年、ライフスタイルの多様化や経済活性化、文化の成熟などの文脈で大きな注目を集めている。シンポジウムは、第1部が「ナイトタイムエコノミーとは何か。その社会的影響と市場の可能性」、第2部が「これからどう動く、ナイトタイムエコノミー」というテーマで行われた。

市場規模5兆円を目指してもいい

第1部に登壇したのは、A.T. カーニー日本法人会長の梅澤高明と、弁護士の齋藤貴弘、タイムアウト東京代表の伏谷博之の3人。

最初に、風営法改正に尽力した齋藤が、クラブなどの深夜営業を禁止していた同法が改正された経緯や現状などを解説した。「5年くらい前、大阪と京都を中心に、歴史あるクラブやライブハウスの摘発が相次いだ。そこでエンターテインメントの土壌がなくなるという危機感が生まれ、いろいろな人が声を挙げた」と説明、「さらに東京五輪の招致やIR(統合型リゾート)、インバウンド観光などとの関係性も意識されるようになり、改正に至った」と述べた。

第1部に登壇した齋藤貴弘、梅澤高明、伏谷博之(右から)

伏谷は、ロンドンやメルボルン、シドニーなど海外におけるナイトタイムエコノミーの現状を紹介した。タイムアウト東京の特集記事『夜のロンドン 24時間年中無休の都市』に触れながら、「ロンドンでは現在、約125万の職が夜間経済に支えられており、街の約8人に1人が雇用されている。また地下鉄が24時間化されたことで、約240億円の経済効果が生まれた」と話した。

ナイトタイムエコノミーの捉え方について伏谷は、「日本では、『クラブ経営の課題解決』という文脈で語られることが多いが、海外では『ライフスタイルの多様化』と『ビジター(観光客)需要の高まり』の2つ(の文脈)がある」と説明、様々な視点から考える大切さを強調した。

夜間経済のポテンシャルについても話は及び、国のクールジャパン戦略を支援する梅澤は、「ロンドンの夜間経済GDPは約3.9兆円、ニューヨークのブロードウェイは、宿泊と飲食を含めて約1.4兆円の経済効果を持つと言われている。ロンドンと大きく経済規模が変わらない東京も、5兆円くらいを目指してもいいはず」と指摘。それらを達成するための必要条件として、「飲食、宿泊、交通、安心感などをセットにし、面的にコンテンツ開発に取り組むべき」などと提言し、第1部が終了した。

ナイトメイヤーが日本にも必要

第2部では、 齋藤と伏谷に加え、衆院議員で自民党ナイトタイムエコノミー議連事務局長の秋元司と、観光庁次長の水嶋智(さとる)、日本経済新聞社編集委員の田中陽が登壇した。

第2部に出た田中陽、齋藤、水嶋智、秋元司、伏谷(右から)

最初に秋元が基調講演。秋元は、同年の年間訪日外国人が2869万人だったことに触れ、「これが4000万人、6000万人に達するには、パリやマドリードに肩を並べるくらいの観光政策が必要」と強調。その鍵のひとつがナイトタイムエコノミーだとし、「ニューヨークでは、夕方に食事した後、ブロードウェイやスポーツを観に行こうとなれば、スマホでチケットを発行し、そのままショーに行ける環境ができている。ふらっと観に行ける環境を作ることが、日本の文化を高めることにもつながる」と力を込めた。さらに、それらの旗振り役として、欧米諸国の「ナイトメイヤー(夜の市長)」制度のような存在が必要だと話した。

日本人にしか受けないコンテンツでは顧客は獲得できない

講演が終わるとトークセッションがスタート。最初に水嶋が、外国人旅行者が日本の娯楽サービスに消費するお金の少なさについて指摘した。「外国人が日本滞在中に娯楽に対して支払うお金の割合は現在、1.1パーセントくらい。欧米は軒並み10パーセント近くを(娯楽に)充てている。そこをどう増やすかが大きなポイント」と述べ、「これは世界の国際都市間の競争なんだと(という意識を持たなければいけない)。ロンドンなどは戦略的に仕掛けており、我々もそこを意識した制度設計の必要があるのではないか」などの有識者の声を紹介した。

その際の注意点として、「日本人の文脈でしか受けないコンテンツでは、新しい顧客獲得は難しい」と話し、「日本の社会システムは、自分たちで気がつかないうちに、ある種の癖を持つ。『日本人の成人男性の健常者』を前提にした社会ができてしまっている。外国の人から見ると使いづらいこともある」と、柔軟な考え方を持つ必要があると述べた。

田中は、ナイトタイムエコノミーという言葉は「日本経済の必然として生まれてきた」と分析。「バブル経済の時は、月曜から金曜までの9〜17時で日本経済を回していた。それが今、回らなくなってきている」と、自身の取材経験を基に語った。

すると議論は、日本人の余暇の使い方や働き方などにまで展開。秋元は「日本人は週末に遊びに行き、月曜日の朝一の仕事のために、満員電車や、渋滞の中で車で帰ってくる。だったら月曜の午前の使い方をうまくできればいいと思う」と語り、「ラグジュアリーマンデー」の考え方をアピール。伏谷も「(夜間経済についての議論は)働き方改革的なものにもつながるという認識をもちたい」と続いた。

夜間経済については、「統計がない」との指摘が以前からある。こうした声を受けて水嶋は、観光庁として統計作成や調査研究などを推進していくことを明言。「予算をとって研究したい。交通に関しては、国によって条件の違いもあるので、終夜営業でもニーズがあるのかなど、まずはちゃんと勉強したい」と、夜間市場の振興に向け意気込んだ。

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