TURNフェス

2020年、東京都が進めるTURNの射程

東京オリンピックは文化と福祉に何をもたらすか

テキスト:
Kosuke Shimizu
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2016年2月19日(金)に行われた東京都知事の記者会見の中にもあった通り、2016年3月4日(金)から6日(日)までの3日間、東京都美術館で『TURNフェス』が開催される。2020年に開催予定の『東京オリンピック・パラリンピック』を見据えて進める文化プログラムの一端が、また少し明らかになった。タイムアウト東京でも取り上げてきた『東京キャラバン』が、オリンピックに対応するものだとするならば、今回の会見で触れられたプロジェクト『TURN(ターン)』は「パラリンピック」に対応するものと、ひとまずは分類することができるだろう。知事の会見だけでは、分かりづらいところもあったかと思うので、これまでに発表された情報もあわせて以下の5点の観点からまとめてみた。

東京キャラバン

1. オリンピックと文化プログラム

東京都は現在、2020年に向けて2つの「リーディングプログラム」を推進している。2016年の『リオデジャネイロ オリンピック・パラリンピック』が終了するまで「オリンピック」や「パラリンピック」という言葉を正式に標榜することができないため、このような分かりづらい名称が付いているが、要はオリンピックを見据えて開催される多くの文化プログラムのモデルケースとなるものと考えて差し支えない。「スポーツの祭典」という印象の強いオリンピックだが、開催期間に複数の文化プログラムを用意しなければいけないというのは『オリンピック憲章』にも明記されているようだ。特に2012年のロンドン五輪ではおびただしい数のイベントが開催され、成功を収めたと言われている。数の上でロンドンを上回りたいというのが、都知事の考えらしい。
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2. 『TURN』はパラリンピックに対応する

数多く開催される文化プログラムにとって、ある種の指標を与えるべく推進されているのが、昨年秋にテスト公演が開催された『東京キャラバン』と、この『TURN』ということになる。強いて分ける必要もないが、その出発点としてパラリンピックの存在を意識しているのが『TURN』の方というわけだ。それゆえ「文化と福祉」ということがテーマになるかと考えられるが、ロンドン五輪の際にも『アンリミテッド(Unlimited)』という、障害のあるアーティストの創造性溢れる活動を支援するプログラムが展開された。『TURN』では、絵画や彫刻といった作品にこだわらず、「作品以前の表現」に焦点が当てられている。2015年秋より開始された「交流プログラム」では、障害者福祉施設に限らず、様々な施設や団体をアーティストたちが訪れ、交流し、現代社会で「見落とされそうになっているものに、眼差しを注ぐ」ことが試みられてきたという。

3. 監修者は日比野克彦

1980年代、ダンボールを用いた話題作で世に登場し、瞬く間に若者世代を中心に熱狂的な支持を得た日比野。「アールブリュット」という言葉を知る前に、いわゆる障害を持つ人々の作品と出会い、衝撃を受けたという。「正規の美術教育を受けていない人の芸術」とも説明されるアールブリュットという言葉は、これまでも多くの議論を呼び、アートの根源というものについて考える人に対して大きな影響を与えてきた。2014年から2015年にかけて開催された展覧会『TURN / 陸から海へ(ひとがはじめからもっている力)』は、日比野なりの応答の一つと言える。同展は、みずのき美術館、鞆の津ミュージアム、はじまりの美術館、藁工ミュージアムの、国内4館を巡回した。
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日比野克彦

4. そもそも「TURN」とはどういう意味か

「(人間の祖先である)生物は海から陸に上がってきた」という日比野が「TURN」という言葉で考えようとしていることは、陸から海へと逆戻りすること、つまり「視点を"TURN"させること」で見えてくるもの、学べるものがあるのではないかということだ。それゆえに、先述の展覧会には「陸から海へ(ひとがはじめからもっている力)」という副題が付いていた。先の「見落とされそうになっているものに、眼差しを注ぐ」という日比野による『TURN』の説明を、彼自身の言葉で補うならば、「見落とされそうになっているもの」側の視座に立ち、そこから眼差し返すことも含まれているのだろう。プロジェクト名であると同時に「TURN」という言葉は、このように考えたり感じたりするプロセスそのものを指す、と位置付けられている。このことが、アートプロジェクト『アンリミテッド』を受け止めた、日本からの回答であるとも考えられそうだ。
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5. 具体的に何が行われるのか

まずは、先の会見の通り『TURNフェス』が2016年3月4日(金)から6日(日)まで、東京都美術館で開催される。アーティストたちが多彩な施設を訪れた「交流プログラム」をインスピレーションとした作品がエキシビションとして登場するほか、交流先施設の協力も得て生まれた多様な表現と出会える機会になるという。そのほか、「人といる場をつくる実践」、「“その人らしさ”について考える」などと題されたカンファレンスも予定されている。観覧料も無料。また、来年度以降の話になるが「TURNセンター」と呼ばれる活動の拠点も作っていく予定だ。新たに場を設けるのか、すでにある施設と連携していくのかなど、まだ決定していない部分は多い。都知事が「レガシー」と言うように、2020年以降も受け継がれていく文化となるための道のりは長そうだ。先の東京五輪が道路や交通のインフラを整備させる原動力となったのであれば、2020年が文化や福祉といったソフト面でのインフラ整備に一役買ってくれることを願う。

 

『TURNフェス』の詳しい情報はこちら

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