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インタビュー:ドミニク・アンセル

クロナッツの開発者は、毎日1個クロナッツを食べている

Christopher Lloyd
インタビュー:長瀬裕香、写真:Chris Lloyd

熱心な食通なら『クロナッツ』の流行はもちろん知っているだろう。数年前、ドミニク・アンセルの最高傑作であるハイブリッドスイーツは世界的ヒット商品となり、このクロワッサンドーナッツを一口味わおうとニューヨーカーに混じって世界各国からファンが集まり行列を作った。

それ以来、フランス出身のこの菓子職人は『フローズンスモア』、『クッキーショット』、さらには『DKA』などを創作しそのスイーツへの注目が途切れることはないが、先日彼は『クロナッツ』の3周年を祝うため、東京のドミニクアンセルベーカリーを訪れた。日本のすべて(和食、ネイルアートさらには「ぐでたま」も)を愛するアンセルが、彼の生活、成功、さらには毎日『クロナッツ』を食べていることについて語った。

ー菓子職人が自分の適職であると確信したのはいつですか。

シェフになることへの興味は、時間がたつにつれて大きくなった。16歳で厨房で働き始めたけど、実は当時両親にはお金がなくて、家族を養うために仕事を見つける必要があったんだ。あるレストランで仕事を見つけて、それと同時に料理学校に通うようになった。これがキャリアの始まりだね。自分がこれほどこの職業を好きになるとは思ってなかったし、今のような仕事をすることになるとは考えていなかった。「自分はシェフになりたいんだ」というような気持ちになるとは、まったく頭になかったね。

ーでは、それを実感したのはいつですか。

ちょうど1年後。最初の1年は本当に大変な仕事だったけど、2年目に当時働いていたレストランを新しいオーナーが買ったんだ。彼はフランスの、ミシュランで星を獲得したレストランで副料理長を務めた経歴の持ち主で、とても若く情熱を持っていた。彼から学んだ最も重要なことは、自分の仕事を愛すること。彼は素材を大切にすることや、自分のしていることを理解することを教えてくれた。こうして1年後に、本当に仕事を好きになったけど、最初の1年はひどいものだったね。

ー仕事で一番大変だったことは何ですか。

すべてのことをしてきたよ。ほぼ1年間にわたって、トイレ清掃をして、床を掃除して、ゴミの片付けをして、皿を洗って!でもこうやって学ぶわけだから、それでよかったんだけど。必要ならば今でもやるよ!

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ー東京の店は開店して1年になりました。外国で出店することはとても難しかったのではないでしょうか。

自分にとって最も重要だったことは、現地の人や文化との関わりとその慣習を理解することだと考えているんだ。それは、何をどのように食しているかを理解するということ。そのためには、いろいろなレストランでできる限り食事をして、人々が食べているものを観察するようにしているよ。ニューヨークから『スカイプ』で (日本にいる)人と話し合い、(日本の人々)が何をどういう理由で好むのかについて考えを巡らせている。店のメニューの40%が東京限定で創作されているのもこれが理由なんだ。

ー『クロナッツ』は間違いなく最も『インスタグラム』に投稿された食品ですが、あなたは東京店にソーシャルメディアで使う写真の撮影ができるセットまで作りました。自分で『インスタグラム』を利用したり食べ物の写真を投稿したりしているのですか。

もちろん!私の『インスタグラム』を見たことはありますか?食べたもので写真向きだと思うものはすべて載せるし、フードの写真を撮影するのが大好きなんだ。カスタマーとコミュニケーションを取って、彼らに寄り添い、私たちの取り組みを見てもらうことが重要だと考えている。『インスタグラム』はカスタマーとのコミュニケーションを取る、とても良い手段だと思う。 

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ー『クロナッツ』を発表した9日後にその名称を商標登録したと聞いています。それほど短い間で多くの注目を集めることを予想していましたか。

当時は従業員が4名と自分しかいなくて、宣伝の戦略もなかった。良い商品はあったけど、革新的な創意工夫でメニューに変更を加え続けたんだ。だから世界のすべてのお金を使っても、これと同じようなものを想像することはできないはずだよ。言いたいのは、『クロナッツ』に対して人々が抱いた興奮が驚くほどのものであり、そこから素晴らしい道が開け、東京出店のような機会を得ることにつながったということなんだ。私はこれまでに起きたことに感謝し、精進を続けている。それを当たり前と考えてはいない。

初めて『クロナッツ』を作った日にできたのは15個だけだった。ニューヨークの厨房はせいぜいテーブルほどの広さしかなくて。今では少し大きくなったけど、当初はその程度だったんだ。テーブルがひとつに、小型の冷蔵庫と冷凍庫、それだけだった。多くを作ることはできなかったから15個だけ作って、厨房を訪れた『Grubstreet』のブロガーが土曜日の午後、1時ごろだったと思うんだけど、そのブログで『クロナッツ』を紹介したんだ。

午後6時ごろに彼が電話をしてきて、その記事が拡散されていることを教えてくれた。私が「すごい。で、それが何の意味があるんだい?」というようなことを言ったら、「今週末には忙しくなるから準備したほうがいい。ウェブサイトのトラフィックの増加率が300%を超えて記事へのリンクが14万を超えている」って言われてね。2日目には50人以上が押し寄せて、3日目には150人が外に並ぶようになったんだ。 

その日の朝はとても不安で、震えながら従業員と一緒にドアを開けた。彼らを奮い立たせるスピーチまでしなければならなかった。それ以来私たちは大きく成長して、今ではより多くの『クロナッツ』を製造することができるけど、そのすべての始まりはシンプルで優れた創作と、カスタマーへの思いだったんだ。

ーニューヨークのフレーバーは東京にも持ち込みましたか?

いいえ、開店以来、繰り返して出したフレーバーはひとつもないんだ。ニューヨークでは3年間に36のフレーバーを出したけど、同じものの繰り返しはひとつもない。東京でも同じように、毎回変えているよ。

ー『クロナッツ』は何カロリーあるのでしょうか。新作を考え出すときは、カロリーも大事ですか。

ん~カロリーは分からないんだ。何らかの方法で測定する必要があるね。生地は、クロワッサンとは違う。技法は同じでも、レシピが違うんだ。だから、『クロナッツ』のようなもののカロリーは計算が難しい。食べ物でヘルシーになりたいと思うのはもちろんだけど、毎日10個も食べるわけでないしね。食べるのは時々。カスタマーは新しいフレーバーを求めて毎月来る。気軽にポテトチップスを買うのとは違う。まあ私は、『クロナッツ』を毎日1個食べてますけど。

ー本当ですか!健康を維持する秘密を教えて下さい!

1日を通して、健康的な習慣を実行している。『クロナッツ』と『DKA』は毎日1個ずつ食べているよ。『DKA』を食べたことはある?私のお気に入りで、すごく美味しい。もうね、大好き。本当はこんなこと言っちゃいけないかもしれないけど、どれも大好きなんだ。食べるものには気をつけなければいけないけど、1日を通して健康は保ってるから。

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ーアジアンフードがお好きだと伺いました。お気に入りは見つけられましたか?

アジアンフード、特に和食は好き。日本にいるから、というわけではないよ。ニューヨークではほぼ毎日和食を食べてる。「炙り屋錦乃介」は知ってる?ミッドタウンにあるレストラン。そばも好きだね。「蕎麦鳥人(そばとっと)」は行ったことある?焼き鳥がすごくいい、もちろんそばもだけど。

ー東京はいかがですか? 

焼肉専門店に行った。自分で肉を焼くんだけど、小さいお店で、見た目には全然そそらないんだ。換気がないから30分もたつと涙が止まらなくなるし。でもすごく美味しかった。もう信じられないくらいに。

ー今日が地球最後の日だとします。最後に食べるデザートは何にしますか?

ここにあるもの全部だろうね!でもひとつしか選べないなら、『DKA』。これは「ドミニクのクイニーアマン」の頭文字で、フレーキーなクロワッサンです。ニューヨークと東京の一番人気なんだ。これには、カスタマーが心から楽しめる何かシンプルなものがあるんだね。『DKA』は、5年ほど前に開店して以来食べ続けてる。本当に大好き。

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ー昨年ニューヨークで、『オール ユー キャン イート パイ パーティー』を開催されましたね。いかがでしたか。東京でも同じようなことを計画されていますか。

どうだろう。いつでも、色んなものを取り込んで新しいアイデアを出すのが好き。あのパイパーティーは実際、私の思いつきだった。チームマネージャーにチーム作りのアクティビティをさせたかったんだ。それで、ニュージャージーでのリンゴ狩りに連れて行くことにしたんだけど、チーム全員をミニバンに乗せてリンゴ狩りに行ったところ、みんな競争のようになってしまってすごい量のリンゴが採れたんだ。そこでカスタマー向けにちょっとしたパーティーを開くことにして、ウェブサイトでチケットを載せることにした。

パーティーを発表すると、その5分後にウェブサイトがクラッシュしたよ。アクセスが集中しすぎて、3人のウェブデザイナーが対応したんだけど復活させることはできなくて。それで、『インスタグラム』と『ツイッター』で、「メールをくれたお客様にチケットをあげます」と投稿したんだ。すると、3分とたたないうちに750通以上ものメールが届いた。

ーペイストリーシェフを志望する方に、ひとつアドバイスをするとしたら?

恐れてはいけない、ということ。何かに注ぐべき努力の量、そこに新しいアイデアを投入すること、自分自身で試して研究することを恐れてはいけない。これまでのキャリアを通して、誰もがいつも「しちゃダメ」なことは教えてくれた。たとえば、ニューヨークはフレンチのペストリーに慣れていないからニューヨークで店を開くべきではないとか、あまりメニューを変えるべきではないとか。

それで誰の言うことも聞かず、反対のことをしてみたんだ。私の店は典型的なフレンチベーカリーではない。シャンデリアもないしゴールドがあちこちにあるわけでもない。とてもカジュアルで、落ち着ける。みんながハッピーな場所なんだ。5分でも1時間でも座っていられて、誰にも追い出されたりしない。 

ーベーカリーでの仕事以外で、東京にいるときは何をしていらっしゃるんですか。

街で何が起きているか、常にアンテナを張っているのが好きだね。キッチンに来るとそのままこもりっきりにならずにいるのは難しい。チームを引き連れてペイストリーショップを全部見て回り、シェフにあいさつして。地元で起きていることを見るのが好きなんだ。先日は「21_21 DESIGN SIGHT」に展示会を見に行ったら、動くアートの展示作品があったよ。

必ずしも、こうしたアイデアをペイストリーに利用しようというわけではないけど、ほかのアートの形を見てインスピレーションを受けるのはいいと思う。 

ドミニクアンセルベーカリートウキョウの詳細はこちら

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