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インタビュー:ブルボンヌとエスムラルダ

東京の女装、20年を振り返る

※2014年12月発行『タイムアウト東京マガジン5号(英語版)』に掲載した日本語翻訳記事を転載

近年、日本のテレビのバラエティ番組では、「女装」タレントを非常によく見かけるようになった。日本の芸能界においては、「オネエ系」と呼ばれ、1つのジャンルを築き上げるほどの人気となっている。 セクシャルマイノリティへの極度の差別を目にすることは比較的少ない一方、まだまだ偏見が根強く残り、同性愛を公言する芸能人や政治家、実業家なども極端に少ない日本において、「女装」だけが熱烈な歓迎を受けているのはなぜだろうか。

現在、女装タレントとして活躍する人物の多くは、日本屈指のゲイタウン、新宿二丁目のバーやクラブで開催される、ドラァグショーをはじめとした女装パフォーマンスをその出自としている。ブルボンヌとエスムラルダは、二丁目での女装パフォーマンスをはじめて20周年を迎えた、シーンを代表するパフォーマーだ。ライターとしても多方面で活躍するブルボンヌは、女装パフォーマンス集団の結成やゲイ雑誌の編集を経験した後、女装キャストが日替わりで働くミックスバーCampy! barを手がけるなど、つねに女装シーンの最先端を進む人物。エスムラルダは、女装とは関係のないテレビドラマの脚本家を本業とするが、吐血を模したショーなどで唯一無二の「ホラー系女装」として親しまれている。そんなブルボンヌとエスムラルダに、東京の女装シーンの変遷と現況について話を聞いた。

彼らが初めて女装パフォーマンスを行ったのは、さかのぼること約20年。1994年にブルボンヌ自身が立ち上げた、ゲイのためのパソコン通信『UC-GALOP』の周年パーティーのときだ。「ゲイのパーティーなんだから、どうせだったら女装でしょ、と安易なノリで」企画したとブルボンヌは語る。それ以前の東京では、ドラァグショーなどのパフォーマンスをする者は少なく、またそのための場所も十分ではなかったため、ゲイバーなどの周年パーティの余興程度のものがほとんどだった。1990年前後になり、日本でもクラブカルチャーが浸透してくると、ゲイ向けイベントの際にパフォーマーとして、そういったゲイバーで女装をしていた人たちが次第に呼ばれるようになっていく。これがシーンとしての、東京でのドラァグクイーン文化の幕開けと考えられる。

「でも当時ははみんなドラァグクイーンなんて言葉知らなかった。(ドラァグクイーンという言葉が広く認知されたのは)映画『プリシラ』やル・ポールが流行った1994〜95年になってからだと思う」とエスムラルダは振り返る。そんな時代にブルボンヌとエスムラルダは、同じくパソコン通信のメンバーだったサセコらとともに、女装パフォーマーとしての経歴をスタートさせる。女装パフォーマー集団『アッパーキャンプ』を結成し、ドラァグクイーン文化に笑いの要素を持ち込んだスタイルを確立させた。日本のテレビドラマや女優、アイドルのパロディなど、従来のドラァグクイーンが扱うことのなかったものをネタとして、幅広い層から絶大な人気を博すこととなる。

そんな彼らは、自分たちのことを「ドラァグクイーン」とは呼ばず、「女装」という言葉を好んで用いる。「恐れ多くて(自分のことを)ドラァグクイーンなんて言えない。ドラァグには色々と決まり事があるから。でも(この格好を)女装じゃないとは誰も言えないから。一種の逃げよ」と卑下してみせる。その謙虚な姿勢の裏には、しかしながら、ともすれば極端に審美主義的、形式主義的なものになりかねない、様式美として完成したドラァグクイーンのパフォーマンスだけではなく、様々なタイプの女装ショーの存在意義を認めようという態度が透けて見える。ホラー要素の強いエスムラルダのショーも、ブルボンヌがアニメコスプレをして行うコントのようなパフォーマンスも、こういった価値観に裏付けられているのだろう。そしてこのスタイルは、先述の女装集団『アッパーキャンプ』の活躍により広く共有されるものとなり、東京ならではの独特のシーンを作り出した。ドラァグは、もちろん、極度に洗練されたゲイ文化の1つの髄として、素晴らしい「伝統芸能」だが、それ以外の女装パフォーマンスの驚くべき多様性を楽しめるところも、いまや東京の女装カルチャーの大きな魅力となったのだ。

東京の女装カルチャーが持つ、この魅惑的な雑多さは、もはやゲイシーン内部に限ったものではなさそうだ。マスメディアに頻繁に登場するようになった女装タレントの影響や、はたまたコスプレ文化の爛熟とも関係があるのか、現在では、性自認や性的嗜好にかかわらず女装を行う者が増えている。ヘテロセクシャルでシスジェンダーを自認する男性による女装バーや、アニメの女性キャラクターや女性アイドルのコスプレを楽しむファンたち、純粋に趣味として女性用の服やメイクに興味を持つ人など。さらにはヘテロ男性向けのアダルトビデオに女装して出演する人気「女優」まで存在する。しかしながら、彼らの中にはドラァグクイーンの歴史的意義や、性的少数者が社会から受ける抑圧などに対し無頓着である者も多い。ライター業やプライドパレードを通じて、ゲイのリアルな生活を伝えることで差別や偏見を減らすことにも努めてきた2人は、この状況をどう見るのだろうか。

そのような表層的なシーンでも、マイノリティの可視化について一定の貢献を果たしている点に、ブルボンヌは言及する。「ジェンダーやセクシュアリティというのは、はっきりと区別できるものではなくてグラデーションになっているもの。(ゲイではなくても)そういう欲望があるってこと、そういう人が少なからず存在しているってことが多くの人の目に入るようになるのは、それだけで意味があるんじゃないかしら」。

ドラァグクイーンだけが唯一正しい女装パフォーマンスのあり方ではないというのと同様の構図が、この発言にも表れていると言えるだろう。声高に社会変革を訴えるゲイ男性だけが、意義のある女装として、このシーンを享受できる特権的な唯一の存在ではないということだ。個人に対する社会の不実をクールに見通す洞察力の裏側で、人間の欲望への、この底抜けに寛容な柔軟性こそが、女装カルチャーを牽引しているのかもしれない。ドラァグクイーンの美しさだけではなく、社会活動の正しさだけでもない、すべてを許すような、ある意味で「いい加減な」部分を残しているからこそシーンとしてポピュラリティを獲得したのだ。

人間の内に潜む多様なものや異様なもののことごとくを認め受け入れ、そればかりか楽しんでしまおうという姿勢が「女装」という言葉には込められているのではないだろうか。

ブルボンヌ(ぶるぼんぬ)
女装パフォーマー、ライター。新宿二丁目のミックスバーでママを務めるかたわら、日本各地で女装パフォーマンスを行う。また、数多くの雑誌での連載や、トークイベントなどを通して、LGBTの存在を社会に発信し続けている。

エスムラルダ(えすむらるだ)
ホラー系ドラァグクイーン、脚本家。東京都公認の大道芸人「ヘブンアーティスト」でもある。テレビドラマの脚本や漫画原作のほか、ゲイタウン新宿二丁目を英語で案内するガイドブック『英語で新宿二丁目を紹介する本 』も著している。

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