インタビュー:!!!(チック・チック・チック)

挑戦し続ける最狂のライブバンド

テキスト:
Shiori Kotaki
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インタビュー:小滝詩織
翻訳:BEATINK

2015年10月9日(金)に恵比寿リキッドルームで行われる単独公演のチケットは即完売、そして同日深夜には追加公演も行われるなど、ここ日本でも絶大な人気を誇る最強で最狂のライブバンド、!!!(チック・チック・チック)。数多くのバンドが存在する中で、これほどまでにライブパフォーマンスに定評があるバンドもなかなかいないだろう。しかし、これはただ単に派手なパフォーマンスをしているからではなく、彼らの音楽に対する純粋さや観客に対する真摯さ、そして常に新しいことに挑戦し続ける姿勢が生み出した賜物だ。このインタビューでは、来日公演への意気込みや10月6日(火)にリリースされるニューアルバムについてはもちろん、彼が短パンを履くようになったきっかけから日本で衝撃を受けたことまで、幅広くNic Offer(Vo)に聞いた。ステージ上だけでは知ることのできないNic Offerをぜひこのインタビューを通して見てみてほしい。

 

昔のヒット曲をステージで披露しているバンドもいるけど、俺には楽しそうに見えない

ー約2年ぶりの来日公演がいよいよ10月に開催されますね。前回来日した際のライブもかなりの盛り上がりでしたが、今回はどのようなライブにしたいですか。

Nic Offer(以下、Nic):盛り上がるライブにしたい(笑)!俺たちのライブでは毎回そうしたいと常に思っていることだけど、同時に毎回が新しいライブであってほしいと思うんだ。同じライブを見せたくないから、ツアーごとにしても、数年ごとにしても、常に新しいライブをしたいと思っているよ。

ーこれまでも何度か日本でライブを行っていますが、日本のファンはどのような印象でしょう。

Nic;日本のファンの印象は、曲が終わって拍手し終わるとすごく静かになること。かなり変な感じだね(笑)。

ー次の曲を待っているんですよ。

Nic:そうなんだろうけど、他の国では喋ってる人がいたり皆ざわついている。でも日本は、拍手が終わると沈黙する。不思議だよ。でもまあ、とにかく日本のファンは素晴らしいから関係ないけどね。みんな興奮して踊りまくってくれるから最高だよ。

ーニューアルバムをリリースした直後のライブということで、アルバムについても少し伺いたいと思います。4作品目まではジャムセッション、前作『THR!!!ER』はジム・イーノをプロデューサーに迎えての制作となりましたが、今回はどのように制作されたのですか。

Nic:今回は、各自が自宅で作ったデモを持ち寄ってそれをベースにしていった部分が多い。そのベースとなるものと、ライブセッションを組み合わせて作っていったんだ。あるクラブを1週間おさえて、1週間ぶっ通しでギグをやったりもしたよ。毎晩、同じ新曲を演奏してその後スタジオに直行したから、いい感じの荒削りな音が出せたと思う。荒削りのデモと荒削りの音を組み合わせた感じかな。今回は、より荒削りな感じを試みたけど、短い曲はジムと作った曲のようにきれいにまとまっていると思う。

どうしてそのような制作スタイルをとることになったのでしょうか

Nic:アルバムを担当する人で、安心して任せられると思う人がいなかったから。スプーンのアルバムが去年出たけど、ジムはその仕事があったから非常に忙しくて、彼とは1週間くらいしか一緒に仕事ができなかったんだよ。他に一緒にできる人がいなかったから、自分たちでやったんだ。あとは、パトリック・フォード。彼も、今回のアルバム制作に大きく貢献してくれたよ。

ー今作の『As If』は前作の『THR!!!ER』とはまた違った雰囲気のアルバムですね。3曲目の『Every Little Bit Counts』からはこれまでにないポップさのようなものも感じたのですが、制作をするにあたって何か意識したことはありましたか。

Nic:意識したのはとにかくすべてをやってみること。「モータウンみたいな曲をやろう」とか「ニーナ・クラヴィッツみたいな曲をやろう」とアイデアを投げ合って、自分たちにチャレンジさせるんだ。それで何ができるか、何が達成できるかというところに挑戦し続けたところが今回のアルバムに反映されていると思うよ。

ー今回の公演ではこのアルバムより多くの楽曲を披露すると思うのですが、新曲を披露する際に心がけていることはありますか。

Nic:正しく演奏することかな(笑)。新曲はいつもそれが課題だ。新曲は、!!!にとっても新しい体験になるように作られた曲。だから、観客も新曲を聴いて俺たちの新しい面を感じ取ってくれたら嬉しいな。ステージで起きる新しいことを見てほしいよ。

過去のレパートリーはあまりやらない、と。

Nic:イエス(笑)。新しい曲をやる方が、古い曲をやるよりエキサイティングだもの。昔の曲の中には、俺じゃないほかの誰かが作った曲のように聴こえるものもある。以前感じられたような曲との結びつきが、今では感じられなくなっていたりするんだ。過去のレパートリーをリクエストされることもあるけど、俺たちはライブパフォーマンスが評判のバンドだ。なぜ、ライブの評判が良いかというと、ステージに上がって好き勝手やっているからだろ。それはステージを満喫して楽しんでいる証拠なんだ。昔のヒット曲をステージで披露しているバンドもいるけど、俺には楽しそうに見えない。そういうバンドは俺たちみたいなライブの評判はないよ。俺たちも、自分たちにとってどうでもいいような昔の曲ばかりライブでやっていたら、バンドとしてここまで来れなかったと思う。でも、昔の曲はしばらく時期を置くと演奏するのが再び楽しくなったりもするんだ。だからもし20周年記念ツアーをやるとしたら、昔の曲を引っ張り出して披露したら楽しいかもしれないな。

「踊る」というのは、自分の人生を歩み続けていくという姿勢

ーやはりニックというとあのライブパフォーマンスが印象的です。本当に気持ち良さそうに音楽と一体になっていてちょっとうらやましくもなるのですが、どうしたらあそこまで自由に踊れるのでしょう。

Nic:自分でもよくわからない。ステージに上がると毎回そういう気持ちになるんだ。ときにはライブがうまくいっていなくてあまり楽しくなくても、自分を追い込んで頑張って、頑張って、頑張って、そういう状態まで持っていく。あきらめないことが大切だ。自分をハードに追い込んでいくんだよ。でも、ラッキーなことに俺は毎回気持ち良くなれるんだ。

幼い頃からダンスや音楽は好きだったのですか。

Nic:誰かからもらった最初のテープがビージーズだったから、ダンスミュージックは当初からとても重要だった。5年生くらいの頃にはブレイクダンスにはまっていたよ。それで、マドンナやプリンスが流行って、ダンスフロアでダンスをするということがとにかく楽しかったんだ。高校生のときには、ディペッシュ・モードやニュー・オーダーにはまってたからクラブ通いも俺の一部になっていた。だからダンスミュージックは常に俺のそばにあったよ。

ー今は!!!として大活躍ですが、幼い頃からバンドマンになることを夢見ていたのでしょうか。

Nic:もちろんそうだよ。


ーもしー度だけ別の人生を送られるとしたらどのような人生を送りたいですか。

Nic:うーん、常にツアーだけしていて、5つ星ホテルにしか泊まらないで、観客は女の子だけのアーティストになる、だな(笑)。

ーあまり今の人生と変わらないじゃないですか。

Nic:今の人生も悪くない(笑)。

ー日本でライブを観ているとみんながみんな同じ動きをすることが多いんですよ。同じところで右手を挙げたり、ジャンプをしたり。!!!のライブだとあまりそのような光景は少ないのかもしれないですが、感じるがままに踊るあなたにとってそのような景色は不思議なものですか。

Nic:そういう光景に出会うとちょっとびっくりするけど、でもそれが日本でライブする面白いところでもある。ライブでそういう光景があったら、観客のダイナミックな感じを受けてこちらもパフォーマンスをするんだ。楽しいと思うよ。

ー以前、「踊る」こともある種の反対運動だと思うとおっしゃっていましたね。

Nic:「踊る」というのは、自分の人生を歩み続けていくという姿勢で、抑圧というプレッシャーから自分を解放する動きだ。対抗する体制が何であれ、「自分はまだ負けていない」ということを証明する仕草でもある。抑圧から自分を解放するのがダンスだから、どんなことに対する反対運動にもなるんだよ。たとえその抑圧しているものが自分のマインドであってもね。自分をそうやって解放することによって、今現在の瞬間や音楽以外は気にしないという主張をしている。だからダンスはどんなことにも用いることができるんだ。

日本のファンへ。曲と曲の間に何か話せるようにしとけよ

ーライブの際、ニック=短パンというイメージが定着しているのですが、短パン姿でステージに立つようになったきっかけはあるのでしょうか。

Nic:あるよ(笑)。ある日、短パンを古着屋で見つけて当時付き合っていた彼女に「これってアリ?」って聞いたんだ。そしたら彼女は「あなたは何をやってもいいのよ」と答えた。ファッションに関しては覚えておくべきことだと思ったよ。だってファッションって何でもアリなんだよな。だからその短パンを履いていたんだ。そしたら当時のバンドメンバーが、「お前は、絶対その短パンを1週間続けて履くのは無理だね。5ポンドかけてもいい。」と言うから、俺はその賭けに乗ってその夜はその短パンを履いてステージに立った。そしたら、ライブが始まって10分くらいで、「その短パンいいわね~」とライブに来ていた女の子に叫ばれたんだ。その夜は「短パンウケてるな」と思いながらライブをした。そのライブはサンフランシスコでのライブで翌日はヨーロッパツアーが予定されていたんだけど、ライブ中に俺たちの車が盗難にあって車に置いてあった俺の荷物が盗られてしまったんだ。だから、ヨーロッパツアー中に着られるものがその短パンだけになってしまって、その短パンを履き続けたんだよ。なんとかなるもんだね。

ーなるほど(笑)。「この短パンのときは調子が良い」、「ここぞというときにはこの短パンを履く」などといった勝負パンツはあるのですか。

Nic:あるんだけど、実は新しい短パンが必要なんだ。だから、日本のみなさん、助けてよ。俺のウエストサイズは30か31。それで、毎晩履いてライブが終わったあとには洗面台で洗うから、乾きが良い水着の短パンが良いかも。あと重要なのは短いこと。まあ、少しくらい長くても、ちょうどいい長さに仕立屋に持って行くからいいや。自分でも短パンをしょっちゅう仕立屋には持っていっているからね。

ーステージ上では常に短パン姿ですが、普段はどのようなファッションを身に着けているのでしょう。ファッションにはこだわりを持つタイプですか。

Nic:こだわりは持たない方だけど、持つ方だと嘘をついた方がいいのかもしれないな。観客には、俺がいつもおしゃれだと思っていてもらいたいし、格好良くいたいというのはある。本当は、自分のファッションを常に最新のものにした方がいいんだろうけど、ファッション誌を読んでいるとか、そこまで注意して追ったりはしていない。だって俺はミュージシャンだからそんなことをしている時間はないんだ。だから休日だってないよ。ミュージシャンだったら常に音楽のことで頭がいっぱいで、いつも音楽のことを考えている。パフォーマンスをしていなかったら作曲しているべきだと思うしね。でも、ミュージシャンの良いところは時間が自由に使えるところだ。だから朝起きて、音楽をやりたくなかったらビーチに行くことだってできる(笑)。だから俺はそういうときビーチに行くんだ。

ー以前、新しい発見は、新しい音楽にあるとおっしゃっていましたね。

Nic:今朝も、ホテルの友達がコローシュという聞いたことのない名前の人について教えてくれたよ。イラン人でサイケをやっている人。70年代の人だよ。今日もそれを聴いていたんだ。とてもエキサイティングだよ。あ、でもそれは古い音楽ってことになるのか。新しい曲だとダンスミュージックやヒップホップが多いかな。ハニーというアーティストが『Hunch Music』というアルバムを出していて、俺もバンドもすごく気に入ってるんだ。あと、テーム・インパラのアルバム『Currents』はすごく良いと思った。素晴らしいアルバムで、何回も聴いていたよ。あとはヒップホップもたくさん聴くよ。セージ・ザ・ジェミニとかスピーカー・ノッカーズとか…...。

ーあなた方から影響を受けているアーティストは多いと思うのですが、逆に若いアーティストから影響を受けることはあるのでしょうか。

Nic:最近見た新しいバンドで良いなと思ったのは、ヴィエット・コング。若くて素晴らしいアーティストだ。俺はポップミュージックもすごく好きなんだよ。アリアナ・グランデとかテイラー・スウィフトとかも好き。ア・サニー・デイ・イン・グラスゴーの最近のアルバム『Sea When Absent』は最高だったな。カリブーも好きだけど、俺たちよりも若いのかわからない。同じくらいかも。コートニー・バーネットもすごく好きだしディアーハンターも最高。オーストラリアのバンド、ディック・ダイバーも大好きだよ。

ーライブもたくさん観てきていると思うのですが、これまでに観た中で最高だったライブは何ですか。

Nic:フガジかジョン・スペンサーかディアンジェロのどれかだな。あとは、(メンバーの)マリオの昔のバンド、ザ・ポープ・スマッシャーズも最高だった。

ー日本にはこれまでも何度か足を運んでいますが、日本に来て衝撃を受けたことはなんでしょう。

Nic:日本の観客がロキシー・ミュージックにそこまではまっていないことが衝撃的だった(笑)。というのはバンドの内輪ネタなんだけど、フジロックで前回出演したときにロキシー・ミュージックも出演していたから俺たちはすごくワクワクしていたんだ。フジに向けて、ロキシー・ミュージックのカバーも練習した。当日フジロックの俺たちのライブで、「お前たち、明日のロキシー・ミュージックのライブを楽しみにしてるかー?」って観客に聞いたら、普段は何を聞いても叫び返してくれる日本のお客さんなのに、「うーーーん」みたいな反応しか返ってこなかった(笑)。その時点でロキシーのカバー曲は中止にするべきだったけど、結局演奏したんだ。その反応がマジでひどかった。演奏自体はかなり上手くできたと思ったけど、観客は全然関心を持ってくれなかったんだ。だからそれは衝撃的だったよ。今でもバンドのみんなとその話をして笑うんだ。そして、なんかの拍子に「お前たち、ロキシー・ミュージックを観る準備はできてるかー?」って叫び出すんだ。バンドの内輪ネタだよ。とにかく、日本の人たちが、あまりロキシー・ミュージックに興味を持っていなかったのが衝撃的だったね。

ー今回の来日で楽しみにしていることを教えてください。

Nic:俺はさっきファッションにはあまりこだわらないと言ったけど、日本には良い服があるから日本に来たら必ずショッピングには行くよ。あとは、代々木公園にもいつも行くんだ。普通はオフが1日あるから原宿で買い物をして、その後、代々木公園に行って歩きながら何に遭遇するか様子をうかがっているんだよ。だからファンのみんなは、ライブの前日に原宿の短パン売り場に行けば俺に会えるよ。それから、バンドのみんなは美味しいものを食べるのが好きだから、日本で外食をするのも楽しみの一つ。俺はとにかく刺身が好きで、刺身を食べた後はライブの出来がすごく良いんだ。だからライブの前には刺身を食べるよ。あとは、どこかのパーティに遊びに行ってDJできたらいいなと思ってる。

ー最後にあなたたちの来日を心待ちにしている日本のファンへ一言お願いします。

Nic:日本のファンへ。曲と曲の間に何か話せるようにしとけよ。俺たちは、曲と曲の間にすごく長い間を取るからな。さもないと、気まずい静けさを体験することになるぞ。もしくは、拍手するのをやめないこと!

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