ジェイミー・バビット

人工授精で出産、米レズビアン家族

急増するLGBT家族による育児の実情を知る 海外編

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渋谷区で2015年4月に同性パートナーシップ証明書の法案が可決され、世田谷区もそれに追随するなど、同性婚の話題が絶えないが、8月27日の記事でも取り上げた通り、すでに国内で始まっているのがレズビアンのベビーブームだ。SNS『ミクシィ』や『ツイッター』などを通して、子どもを持ちたいLGBTの交流会が定期的に国内で開催されている。また、子どもをすでに産んで育てているレズビアンカップルの数も年々増えている。 

84年サンフランシスコで、レズビアン用の精子バンクがスタート

日本では数年前に始まったばかりのことだが、アメリカでは、80年代から徐々にLGBT家族での子育てが増え続けている。人工授精で子どもを産みたいレズビアンたちのために、Pacific Reproductive Services(PRS)という精子バンクが84年にサンフランシスコで立ち上げられたのも、その象徴だ。施設の創始者も当事者で、ストレートの女性はもちろんのこと、LGBTたちも安心して子どもを産めるように立ち上げたのだ。以来、ロサンゼルス郡にも2号店をオープンするほど、需要がある。 

『Lの世界』などアメリカのドラマや映画で見られるように、2000年代にその現象は一気に一般化し、今ではアメリカのLGBT都市では当たり前になっている。実際に、個人的にも筆者の周りでは、30代以上のアメリカのレズビアンカップルのうち、3割ほどは人工授精で子どもを産んでいる。彼女たちは全員カミングアウトしていて、何の問題もなく社会に調和しているのを目の当たりにしている。

子どもが通う学校の生徒の半分ほどは、LGBT家族

前述のPRS施設を12年前に利用して子どもを2人産んだ、ハリウッドのエンターテインメント業界で活躍するジェイミー・バビット監督に話を聞いた。当時交際中だった女性のパートナーと子どもが欲しいと30代前半に感じて、ゲイ男性の親友に精子をもらい人工授精で女の子を授かった。「その後の問題を避けるためにも精子バンクで匿名のドナーを選ぶカップルが多いけれど、私は娘たちが自分たちのお父さんが誰だか知ってもらいたかったの。2人が同じ親を持つということにもこだわったので、1人目のときにその精子を凍らせて、2人目にまた使用した」。

今では長女はもう11歳で次女は7歳、すくすくと幸せに育っている。あえてLGBTフレンドリーな環境を選んだため、娘が通うロサンゼルスの学校では、生徒の半分ほどの親は、「お父さん二人」「お母さん二人」なのだ。子どもたち本人も違和感を感じていない様子だ。「生まれたときからずっとお母さんが2人いるので、それが彼女たちにとっての普通。小さいとき動物の家族をみても、『マミーとマミーとベビー』って絵に描いたりしていたの。どこの家族もみんなお母さんが2人いると思っていたから。精子をもらった男性に関しては、『生物学的』なお父さんだとは理解しているけれど、役割は叔父さんのような感じ。誕生日や家族旅行などのときに交流するけれど、当時契約書で決めたとおり、親権などはすべて私とパートナーが持っている」。

同性愛者だからといって、子どもが産めないことはないわ

「いじめに遭うかもしれないから子どもがかわいそう」と、LGBT家族に反対する人もいるが、大人の心配とは裏腹に、実際子どもたちは特に気にしていない。バビット曰く、「離婚する親だっているし、辛いことは誰にだってある。最近は再婚する親も多くて、家族が多様になっている。それが人生だから、LGBTの親だからって関係ないと思う。ただ確かに、子育てにロサンゼルスのようなオープンな環境を選んだのも事実」。

バビットは、子どもを一緒に育てた長年のパートナーと2008年に破局し、昨年新たな女性のパートナーと結婚をした。元パートナーは娘たちとは血こそ繋がっていないが、生まれたときから面倒を見てきていて、離婚した夫婦同様に、共同親権を持つもう一人の親として現在も娘たちの育児に深く関わっている。

最後に、若い頃母親にカミングアウトしたときのエピソードをバビットは明かしてくれた。レズビアンの娘を持つことで孫の顔が見られないと泣いた母親に、バビットは答えた。「そんなことないわ!私が同性愛者だからといって、産めないことはないわ。私は家族が欲しいし、絶対にいつか子どもを産むわ」。

誰もが結婚、出産をする必要はないが、バビット同様に家族が欲しいLGBTたちがいるのも当たり前のこと。実際に、日本でもその現象は広まりつつある。前回記事『「お母さんが2人」 日本のLGBT家族』では、そんな日本のLGBT家族を紹介している。


ジェイミー・バビット

映画『Go!Go!チアーズ!』や、米ドラマ『ゴシップ・ガールズ』、『アグリー・ベティ』『Girls』等の監督。今年リリースした新作映画『Addicted to Fresno』には、元妻がプロデュースを、現在の妻が脚本を務めている。

Photograph by Cody T. Williams

テキスト/カイザー雪(Yuki Keiser)

スイスのジュネーブ国立大学文学部卒業後、奨学金プログラムで東京大学大学院に2年間留学。その後、10年間東京でヨーロッパのファッションブランドのエリアマネージャーやPRを務め、2013年に渡米。現在は、日本のインポート会社の通訳アドバイザーを務める傍ら、サンフランシスコのIT企業などの顧客に、日本文化のコンサルティングや東京のトラベルキュレーター、日本語と日本のカルチャー、フランス語の教師を務めている。

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