にじいろかぞく

「お母さんが2人」 日本のLGBT家族

急増するLGBT家族による育児の実情を知る 国内編

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同性婚の話題が絶えない国内で、最近20~30代のレズビアンの間に「妊活」が広まっている。そう話してくれたのが、LGBT家族を応援する団体「にじいろかぞく」の代表、小野春だ。彼女は、以前の異性結婚で授かった男の子2人と、そして離婚後に出会った同性パートナーとその娘と、10年ほど前から暮らしている。2人の関係については、同棲当初から子どもに言わずとも隠していなかったが、5年前、都内のホテルで開催した結婚式を機に、彼らに正式にカミングアウトしたという。以後、どこにでもいるような仲良しの5人家族として生活をしている。

「私たちのなかでは、ごくごく普通の当たり前の家族。親しい友達や家族、親戚などには言っていて、理解もしてもらっています」。 子どもたちの学校ではカミングアウトしていないが、2人は保護者として同様に認識されていて、互い先生たちに「もう1人のお母さん」として自然に接してもらっている。悩みもあるが、ある意味、日常生活のなかでは一般の家族同様に受け入れられているようにも感じ取れる。

国内で急増するレズビアンの妊活交流会

LGBT家族ならではの悩みを話し合うため、5年前にスタートした「にじいろかぞく」を通して、ほかにも様々な形のLGBT家族が日本に存在することを小野は知った。以前の異性結婚でできた子どもを育てるLGBT家族が特に多いが、人工授精で子どもを産んで育てている女性のカップルも数年前から着実に増えている。里親になる同性カップルもいると言う。そして昨年より、妊娠をするために行動を起こすレズビアンが急増している。小野もつい最近、レズビアンのための妊娠活動交流会に参加している。そこでは、たとえば人工授精や施設などについての情報交換などが行われる。ディズニーランド初の同性結婚式を行った東小雪と増原裕子のカップルが、メディアでLGBT家族について発言していることがその広まりの一つの要因だ。そんな彼女たちをテレビなどで見て、自分たちも様々な方法で子どもが産めることに気づき行動を起こし始めたレズビアンが多い。

「お母さん」と「マミー」

人工授精で2人の子どもを産んだ日本在住の女性カップルにも話を聞いた。4年前にカリフォルニア州の施設で匿名のドナーの精子を受け取り、国内の施設で人工授精を行ったクミは、30代後半の日本人女性。彼女の10年来のパートナーはカナダ人の女性で、日本で出会った後2人は3年間カナダで暮らし6年前に帰国をした。以後、九州でビジネスを共同経営しながら、3歳と1歳の子どもを育て、小野同様に、両親や親戚、友人など親しい周りの人にはカミングアウトをしている。「両親との約束で近所や託児所などには言っていませんが、私たちが同棲をしていて一緒に子どもを育てていることはみんな知っています。子どもたちも私たちのことを『お母さん』、『マミー』と呼んでいて、カミングアウトしていない人にも、2人とも子どもの保護者として認知されています。実際のところどのように捉えているのかはわかりませんが、日常生活では、普通に家族として接してもらっている感じがします。あまりにも自然なのでふとした瞬間、言っても問題ないんじゃないかな、と思うときもあります。でも今はやっぱり、子どものためを思ってリスクはとれないです」。

社会的に、子どもの権利が保障されない

家族として地域に馴染んでいる反面、ちょっとしたとき、複雑な気持ちになるとクミのパートナーは話す。「子どもは私のことを母親として認識していて、私も彼らを生まれたときから親として愛していますが、実際に子どもは産んでいないので日本の社会からは親として認められていません。カナダに里帰りしたときは、誰にでも自分の子どもだと言えるし理解してもらえるから、すべてが簡単でしっくり来ます。日本にいると、他人と話しているときに自分が母親であることを否定しているのを、いつか子どもたちに聞かれてしまうのではないかととても心配です。そのとき一番傷つくのは子どもだから」。

さらに、産みの親が亡くなった場合、もう1人の育ての親は社会的に他人としてみなされているため、未成年の場合子どもは引き離され施設に入れられるリスクもあり、権利が保障されていないのも現状だ。「お父さんが2人」「お母さんが2人」といった家族は日本でまだ馴染みが少ないため、不自然に感じる人がいてもおかしくない。だがそれは実際にLGBT家族を見るまで。筆者もここ10年来、数多くのアメリカのレズビアン家族と交流し続け、子どもたちが普通に育ち、一般の家族と何ら変わらないことを間近に見てきている。にじいろかぞくの小野も、うなずく。「LGBTと一般の家族、両方経験した上で言えるのですが、本質はとても似ています。ただLGBTの家族は、社会的な部分が、ごっそり抜けている感じ」。

同性婚や家族を持つことに対して、反対する当事者やストレートの人もいる。制度や法が整ったからといって、もちろん、みんなが同じように結婚や出産をする必要もない。ただ、20年以上前から欧米で見られるように、日本でもこれからLGBT家族は確実に増え続ける。そういった家族の子どもたちが今後いじめに遭わないように、また彼らを法的に守るためにも、日本の社会や世論がどのように変化していくかに今後も注目していきたい。
Photograph by Cody T. Williams

テキスト/カイザー雪(Yuki Keiser)

スイスのジュネーブ国立大学文学部卒業後、奨学金プログラムで東京大学大学院に2年間留学。その後、10年間東京でヨーロッパのファッションブランドのエリアマネージャーやPRを務め、2013年に渡米。現在は、日本のインポート会社の通訳アドバイザーを務める傍ら、サンフランシスコのIT企業などの顧客に、日本文化のコンサルティングや東京のトラベルキュレーター、日本語と日本のカルチャー、フランス語の教師を務めている。

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