東京と名の付くメディアが真剣に東京を考えた1時間をレポート

テキスト:
Time Out Tokyo Editors
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東京の名の付くメディアが東京について真剣に考えるトークイベントが11月24日、『MOSHI MOSHI NIPPON FESTIVAL』のBtoB部門、『もしもしにっぽんシンポジウム2016』にて開催された。ここでは、モデレーターを務めたA.T.カーニー日本法人会長の梅澤高明と、KADOKAWA『ウォーカー』総編集長の玉置泰紀、株式会社エフエム東京経営戦略室メディアイノベーション戦略部『TOKYO FM WORLD』総合プロデューサーの中村阿貴、株式会社テレビ東京報道局長補佐兼ニュースセンター長の大信田雅二、東京新聞論説委員兼編集委員、専修大講師の鈴木遍理、そしてタイムアウト東京代表取締役の伏谷博之ら、東京と名の付くメディアで働く5人のパネリストたちが繰り広げた熱いトークセッションの様子をレポートする。

同イベントは、自己紹介代わりとして「自身のメディアがこれまで東京のどの部分を切り取り、そして発信してきたのか」という内容からスタート。それぞれに取り組んでいる活動や意識を置いていることなどを順に話していったが、東京FMの中村の「発信する東京というものは、ありのままの東京で良いのではないか」という一言が特に印象的だった。彼女がプロデューサーを務めている『TOKYO FM WORLD』は、東京と世界を繋ぐ番組。メールを募集すると世界中のあらゆる所から「俺の楽曲をかけてくれ」といったメールも多く届くと言う。このような経験を通して、世界から見る東京という市場はすでに魅力的な市場に映っているのではないかと語ってくれた。

中村以外にも、登壇者の自己紹介には東京の未来を考えるためのヒントが随所にちりばめられていた。最初にマイクを持ったテレビ東京の大信田は、国内向けに放送しているものが海外メディアの目に止まって様々な国で放送されることも多いと話す。そのことから、日本のテレビ局が国内でどのような放送をしているかというのは、間接的に海外にも影響を与えているのではないかと語った。また、東京新聞の一面をひっくり返したところにある「TOKYO発」という欄がこの問いを象徴しているとして、11月4日の誌面に掲載された「蒲田くん 好進曲」の内容をスライドに映しながら話してくれたのは東京新聞の鈴木。この欄は、社会部も政治部も、運動部も、あらゆる部署が一堂に会する東京ニュース会議において毎回内容を決めているため、本当に面白いと思うものだけをピックアップされている。

『TOKYOウォーカー』以外にも、毎年10月に出版している『ラーメンウォーカー』や、『香港ウォーカー』など海外で展開しているもの、日本語版にもかかわらずアジア各国で売り切れが続く『新海誠WALKER』など、『ウォーカー』ブランドを手がけているKADOKAWAの玉置が常に考えているのは、色々なデバイスを結びつけることで新しい都市の情報が作れるのではないかということ。ウェブとリアルをマルチ化して束ねるのは基本で、現実の世界の地形や歴史、芸術作品などの意味づけをする、いわゆるタグ付けをするのが面白いのではないかと話した。そして最後に、自分が初めてその街に来た外国人になったつもりでその街を見て、面白いものを切り取っていくということを重視していると語ったのはタイムアウト東京の伏谷。また、「あうんの呼吸」で伝えないこともとても重要だとし、日本人は同じ社会や空気、背景のなかで生きてきているためきちんと物事を伝えなくても何となく話が通じてしまうが、そうでない外国人にも伝わるよう、意識的に「あうん」で伝えないように考える必要があるそうだ。 

自己紹介が終わると、いよいよ本題へ。初めのテーマは「東京の強み」についてだ。イギリスのライフスタイル誌『Monocle』が発表した世界の住みやすい都市ランキングで1位に選ばれたりと、東京は外から高く評価されることも多い。今回も、東京のクリーンな部分や安全性、街の大きさをはじめ、多様性を受け入れられる街であることや、関東大震災、東京大空襲などのたびに街が生まれ変わったことによって誕生した複層的なレイヤーなどが「東京の強み」なのではないかと様々な話題で議論が展開された。数々の意見が挙がるなか、テクノロジーのようなものや文化的な歴史の深さといったことには属していないもので、人間そのものが「東京の強み」なのではないかと語ったのは大信田だ。「英語が話せないがためにコミュニケーションがうまく取れず、その点に関してはアンフレンドリーなのかもしれないが、日本人は外国人から話しかけられると何とかこの人のニーズを満たそうと一生懸命になる。このような国民性は欧米にも中国にもあまりなく、日本人に親切にしてもらった、このときのコミュニケーションの面白さが、外国人が何度でも日本を訪ねたいと思う理由でもあるのでは」と話していた。

そして議題は「東京が本当の世界一の都市になるためには何を実現しなくてはならないのか」という内容へ入っていった。たとえば、スーパーマーケットなどの車椅子マークの駐車場に置かれているカラーコーン。本当にこの場所を必要としている人以外がここに車を停めないようにとの親切心から置かれているが、車を運転している車椅子の人にとっては一度降りてカラーコーンをどかし、また車に乗って駐車をしなくてはならないため実はとても迷惑なのだ。また、障害者やベビーカー優先のエレベーターであっても、一度乗ったら車椅子やベビーカーが降りる際にもなかなか降りてくれないなどといった意見も上がり、福祉に関しての課題はまだまだ多そうだ。そんななかで梅澤はロンドンオリンピック・パラリンピックの話題を出した。オリンピック・パラリンピックが終わった後に、街のユニバーサルデザインで一番進化したのは何かと訪ねると、多くの人が街の人の行動がソフトになったと答えたのだという。親切心が本当の親切になっていないことや、思いやりの足りなさ、すれ違う際に平気でぶつかってくる人がいるなどといった東京の持つ冷たい一面も含めて、これからはこの街に住む人々の意識改革のようなものも課題となってくることであろう。

そのような内側からの変革のほかに、東京という街の見せ方にも課題があるのではないかという話題にもなった。たとえば和食を紹介する際にも「和食ショー」のようにありきたりなことをベタに紹介するのではなく、いくつかの料理を小鉢に小分けにして提供し「日本にはこういうライフスタイルもあるんだけどどう?」と、彼らの生活にも取り入れられるような日本のライフスタイルと繋げてプレゼンテーションができれば良いのではと伏谷は話す。日本のプロダクトやサービス、最先端技術などをショーケースとして単に見せるのではなく、新たな東京の見せ方についても今後考えていかなくてはならない要素だ。また、おもてなしにしてもクールジャパンにしても、日本はこんなに良いんだというのを真顔で、カメラ目線で言わないほうが良いのではという意見もあり、この点では「ありのままの東京で良いのではないか」という中村の言葉にも通ずるような気がする。まだまだ東京には課題も多いが、あまり着飾りすぎず、フランクに東京を世界に発信していくというのも良いのかもしれない。

そして、イベントの最後は「2020に向けて、東京全体や今後会社で取り組んでいきたい決意について」というテーマで締めくくられた。2020に向けてという議題ではあったものの、彼らから語られたほとんどは2021、そしてそれ以降についてであった。東京オリンピック・パラリンピックを控えている現在、何かにつけ2020と騒がれているが、2021以降にも視野を向けなくてはならないと彼らは語る。現に、1964年に開催された東京オリンピックの翌年も不況になったといい、オリンピック・パラリンピックだと華やかな面ばかりを見ているわけにもいかなさそうだ。しかし、2020年が1つのきっかけでありチャンスであるのも確かである。多くの人がやって来るから良い方向に変わっていこうというのもおかしな話かもしれないが、まずはこれを機にやらなくてはならないことをしっかりと実現させるのが第一。そして、確実に盛り上がるであろう2020を越えても、魅力ある街で居続けられるために我々は今から2021以降を見据えて行動しておくことが必要なのである。

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