奥能登国際芸術祭が開幕、5つの魅力を紹介

Mari Hiratsuka
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Mari Hiratsuka
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2017年9月3日、能登半島の先端に位置する石川県珠洲(すず)市で『奥能登国際芸術祭』が開幕した。東京、羽田空港から飛行機で約1時間のフライトの後、能登空港に降り立つと天気は快晴。アート巡りには絶好の気候だ。総合ディレクターを務めるアートフロントギャラリーの北川フラムがガイドするバスへと乗り込み、オープニングツアーはスタートした。北川は同じく2017年に初開催の『北アルプス国際芸術祭』や、新潟県の大地の芸術祭』に携わり、地方を盛り上げてきた人物。

北川は珠洲の魅力を「日本文化の原型とも言うべき生活が形成された、歴史や文化がしっかりとした地盤のある土地です。最果てと言われますが、逆に海外には一番近く、世界につながる場所ではないかと思います」と話す。ここでは、2日間のツアーに参加し、そこで感じた奥能登国際芸術祭の魅力を紹介する。

1.美しいロケーションとユニークなヴェニュー

見附海岸にある中国出身のリュウ・ジャンファの『Drifting Landscape』。海岸に珠洲焼と、中国で陶器の町と知られる景徳鎮(チントーチェン)の陶器を並べた

石川直樹『混浴宇宙宝湯』

過去には遊郭だった歴史をもつ、木造3階建ての銭湯、宝湯写真家の石川直樹が珠洲の各地で撮影した写真が展示されている。

珠洲市全体を10のエリア(大谷、日置、三崎、西海、蛸島、正院など)に分け、各エリアごとに2〜7作品が展開されている。青い海と白い砂浜のコントラストが美しいビーチ、山奥の険しい崖など雄大な自然のなかに突如現れるアート作品や、商店街の廃業したスナックや古い映画館を使った作品展示など、ロケーションのユニークさも印象深い。

2.街の歴史をアートで知る

深澤孝史『神話の続き』

日本海の風景をミニチュアで再現した、岩崎貴宏の『小海の半島の旧家の大海』。2トンもの塩が使われている

アーティストたちは、それぞれ珠洲の歴史や文化、人々の想い出など土地にまつわる作品を制作した。里山里海に囲まれたこの地には、かつて捕漁が盛んに行われていた歴史や、海岸沿いには500年以上続く「揚げ浜式製塩業」の塩田などが残る。展示会場を巡っているときに、アーティストに出会えたら、作品について質問してみよう。作品とともに町の歴史を知ることができるだろう。たとえば、笹波海岸にある巨大な鳥居を模した深澤孝史の作品『神話の続き』は、漂着神(寄神)の信仰をアイデアにした作品。漂着神とは、潮流や風によって浜に流れ着く流木や舟、ワカメなどの漂着物を神としてまつる信仰のことで、かつては漂着神をまつる神社が多くあったという。深澤は、「神話の続き」として現代では皮肉にもポリ容器などゴミが流れてくるようになった海岸に、漂着したゴミで作った鳥居を建てた。

3.奥能登は祭りシーズン

芸術祭期間は、秋祭りのシーズンだ。10月まで60を越える集落で様々な祭りが開催される。集落を訪れれば巨大な灯籠を灯した「切子灯籠(通称キリコ)」を担いだ人々が練り歩く様子を見ることができるだろう。奥能登発祥の『キリコ祭り』は江戸時代から続く伝統的な祭りで、豊作や大漁を祈願したものだ。集落では祭りの日に、自宅の戸を開けておき、訪れる親戚や友人らに食事をふるまう「ヨバレ」という独特の習慣がある。この「ヨバレ」で振る舞われる料理を宿泊施設で特別メニューとして提供するほか、「ヨバレ」を実際に体験できるツアーもあるので、地元の人との交流を楽しみたければ参加するのも一案だ。

4.旅の楽しみは食とキャバレー

 20時30分からはスナック営業も行うレストラン浜中の『能登牛ローストビーフ丼』

 EAT&ART TARO『さいはての「キャバレー準備中」』

海と山の幸が両方楽しめる奥能都。暖流と寒流がぶつかり合う沖合いでは、種類豊富な魚介類が穫れることでも知られる。旬の魚介類、能登で育まれた肉類や野菜、伝統保存食を使った『能登丼』はトライしてほしい一品。能登丼は「地元の食材を使用していること」、「能登産の器を使用していること」、「箸をプレゼントすること」が定義になっている。筆者が訪れたレストラン浜中では、名物の能登牛(のとうし)を使ったローストビーフ丼などが味わえた。そして、食をテーマにした作品を発表している現代美術家のEAT&ART TAROが企画したカフェバー『さいはての「キャバレー準備中」』は、周遊の休憩スポットとしても立ち寄りたい場所だ。廃業した海辺のレストランを建築家の藤村龍至が改装し、昼間はカフェ、夜は酒と料理が楽しめる場所だ。会期中3回行われる「キャバレー」の企画とママ頭には、ベネッセコーポレーションに勤めた後に「一般社団法人オトナ思春期をデザインするプロジェクト」を設立したみよしようこが務めている。

5.オリジナルグッズも見逃せない

芸術祭のクリエイティブディレクターを務めるのは、浅葉克己。日本の広告デザインの歴史に残る数多くの作品を制作している人物だ。今回、芸術祭の公式グッズやロゴマーク、珠洲の名産品のリデザインなどを手がけた。大漁の時に「大慶(たいけい)だ!」と喜んだことからネーミングされた漁師町の蛸島(たこじま)町にある櫻田酒造の『純米大吟醸 大慶』や、塩田村の揚げ浜塩を使った名物『塩ラムネ』など、スタイリッシュに蘇った名物を土産にしよう。 

奥能登国際芸術祭』の詳しい情報はこちら

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